去年の秋、初めての出産を経験した。
・・・と言っても自然分娩ではなく帝王切開だった為、手術
の日にちも時間も決まっていたので、術前に夫・義母・実父が
病院に集まった。
夫は医療関係者なので特に慌てる様子も無く、怖がる私に「簡
単な手術だから」と説明し続け終始落ち着いた振る舞いをして
いた。
手術時間が近づくにつれて恐怖感は増していき、私のテンショ
ンはどんどん落ちていった。
・・・しかしその時、私の他一名、手術に脅える人間がいた。
私の父だ。
病院に到着したときの彼は既に顔面蒼白で止まる事無く喋り続
けた。
そして、手術台に乗せられた私を見た父の顔は更に青みが増し
て行き、
目は血走り泳いでいるようだった。
手術室に運ばれていく私を皆が暖かい励ましの言葉で見送って
くれたのだが、その顔面蒼白のおやじはどんどん落ち着きを無
くしてパニクりだしてしまった。
きっと私を元気づけるつもりでいたとは思うが、どうしていい
か分からなかったんでしょう。
なぜか廊下中に響き渡る位大きな声で私をカラかいだした。
「お前の顔、お父さんがおる方向から見たらめっちゃブサイク
に見えるで!」
「お父さんが代わりに切られてもいいけど、癌しかでぇへんからな!!!ぎゃははは!」
・・・などと叫びまくって、義母が何か声をかけてくれたのだが、
バカバカしいおやじの声で、一切聞こえなかった。
恥ずかしいやら腹立たしいやらの気持ちのまま手術室に入った
ので、私を元気づけるという父の狙いは確かに成功した。
・・・そして私は手術室で元気良く飛び出てきた新しい命と感
動の対面を果たした私は興奮冷めやらぬまま手術室を後にした。
が・・・
そこには、私よりももっと興奮している人が一人・・・
父だ。
顔は真っ赤で目は爛々と光ウロウロと落ち着きが無い様だった
ので、嫌な予感がした。
そして、手術室に入る前に騒いでいたときなど比べようも無い
ほど大きな声で一言。
「おーい!
お前そっくりのブサイクな顔しとったぞ~!!!」
彼なりのうれしさや照れを抑えきれずにああいう形で爆発して
しまったのだとは思うけれど・・・
もう許す事はできぬ!!!
たった今、新しい命を産み出して来た所だけれど・・・
今ここで叫んでいる、あの命を今すぐ消してやりたいと思って
しまった。
・・・そんな風にあの時のことをよく思い出すんです。
何でって妊娠検査薬の結果が陽性だったから。
一度でも帝王切開で出産すると安全性の点から、原則として
次回も帝王切開で出産となる。
手術なので日にちも時間も決められた時となる。
・・・ということは、きっと彼もまたやってくるだろう・・・






