Yoっち☆楽しくグテを綴る♡ -19ページ目

Yoっち☆楽しくグテを綴る♡

テテとグクの Me Myself写真集にインスピレーションを得て【群青と真紅】をブログ内で執筆中です️




前回の物語
物語の続きが始まります✨✨✨


【ニールの優しい癒し】

食事の召集がかかり、再度国王の部屋に向かう。
部屋に到着すると既に食卓が用意され、給仕係が揃い待機しているところだった。
大公とセオドラ卿は、既に席に着いて何やら話し込んでいた。テヒョンがテーブルに向かうと、デイビスが椅子を引いて座らせる。
暫くして国王が戻って来た。
皆が起立をして迎える。
「待たせたな。少しだけ仕事を片付けようと思って執務室に戻ったが、ついつい時間を忘れてしまった。」
「相変わらずお忙しそうですな。あまり根を詰められますと、またお倒れになってしまいますぞ。」
大公が着席をしながら心配を口にした。
「いやいや、叔父上やテヒョンや他の王族方が、いくつか公務を引き受けて下さったおかげて、だいぶ楽をさせて頂いてますよ。」

「そうであれば宜しいのですが、空きが出来たといって、陛下は新しいお仕事を作ってしまいそうで心配です。」
テヒョンが多少冗談めかして言った。
「私はそれほど仕事の鬼ではないぞ・・
さぁさぁこれ以上お小言が続かないよう、もう食事にしよう。」
皆が笑った。国王が合図を出すと給仕が一斉に始まった。
「私が申し上げるのも憚れますが、我が国の王と王族の方々が団結をされて、絆が深い事が分かりますので、国は安泰でございます。」
セオドラ卿が王族三人のやり取りを見て安堵した表情で言った。
このまま食事中も終始和やかに会話は続いた。

食後の飲み物で一息つく。
「そうだテヒョン、今日の予定は?」
国王が訊ねた。
「午後にニールとサンドリア侯爵とこの宮殿で会食の予定があるだけです。」
「そうか、それまで時間はあるか?相談したい事がある。」
「はい、分かりました。」
「後で私の執務室に参れ。」
「はい。」
「叔父上もセオドラ卿も、まだゆっくりしていって下さい。」
国王はそう言って先に部屋を出た。

テヒョンは少し経ってから、国王の執務室に向かった。
「入ってよいぞ。」
侍従長が扉を開けて中に招き入れる。
「そこに座ってくれ。」
促されてソファに腰掛けた。国王はテヒョンの目の前の机に寄りかかり、話を始めた。
「毎年開いているチャリティのポロ競技会があるだろう?」
「はい。今年はジョングクもトーマスも不在で、チーム・クレッセントはどうするのかと思っておりました。」
「そうなのだ。そこで今年は《競馬》を利用しようと思うのだが、どうだ?」
「ああ、、なるほど、、、改めてメンバーを募ったり、新たに催事を作るのは時間と経費がかかりますからね。チャリティーの為に不必要な出費をしては意味がありません。」

「やはり賢明な答えが返ってきたな。その通りだ。」
「陛下、、、お褒め頂いて誠に嬉しいのですが、、、なぜだか裏があるような気がして寒気を感じるのは気のせいでしょうか?」
国王はニヤリと笑うと、傍にあった椅子を掴んでテヒョンの前に置いて座った。
「そこまで察するとは、さすがだな。」
「無理ですよ、陛下。」
「まだ何も言っていないではないか。」
「いやいやいや、最終的には絶対私が首を縦に振りたくない内容でございますよね?」
テヒョンが立ち上がろうとすると、国王は肩を押さえて制した。

「まぁ待て、単刀直入に言うぞ。」
テヒョンは取り敢えず抗うのを止めた。
「キム公爵家は競走馬を飼育する厩舎を持っているであろう?そこの馬を出場させる。」
「うちの厩舎の馬をですか?しかし、確か地方競馬にしか出したことはないと思いますが、、、」
「いいのだ。今回は《大公子特別杯》と銘打ってチャリティ・ホース・レーシングを開催したい。」
「ちょっと待って下さい、陛下。なぜ私の称号をお使いになるのですか?」
「分からぬか?お前の人気にあやかってチャリティをするのだ。」
テヒョンは国王があまりにもあからさまに、テヒョン自身を利用しようとする事に驚いて笑ってしまった。

「陛下、今の私には婚約者がおります。もう人気なんぞあるはずがありませんよ。」
「なんだ、お前は知らぬのか?今や大公子とチョン伯爵は、戦争のせいで結婚を先延ばしにした、悲恋のカップルとしてそのラブストーリーが広がって、貴婦人達のお前達に対する人気が更に高まっておるのだぞ。」
「え?・・・・・全く存じておりませんが、、、」
テヒョンは唖然とした。
「テヒョンやジョングクの花嫁になる道は絶たれても、お前達の人気にはなんら影響がなかったのだ。それをチャリティに使わない手はないであろう?」
国王の提案している内容に、もはや異論を挟む余地は無かった。

「父上がなんと申しますか、、、」
「その心配には及ばぬ。叔父上に先に打診したが、公爵家の事は全てテヒョンに継承したので、采配は現公爵である息子が取ることになっていると仰っていたぞ。」
国王はニコニコしながら言った。
「父上は私には何も申されませんでしたが。」
「言わないで欲しいとお願いしたからな。しかし考えてもみろ、お前の名前で人助けが出来るのだぞ。、、、、それにこの収益は、この度の連合軍に出征して亡くなった兵士の遺族や、負傷を負った兵士達に見舞金として渡したい。」
テヒョンはハッとした。
「実際に亡くなった兵士は少なくない。遺族が路頭に迷うことがあってはならぬし、負傷した兵士の今後の生活の事もある。勿論、国からの恩給は支給されるが、守ってもらった国民からも、見舞う形として何か出来ないか考えて出した今回の策だ。」

「分かりました。その策略が何であれ、戦争で実際に傷付いた人々の役に立てるのであれば、うちの馬を出しましょう。」
「よく言ってくれた!」
国王はテヒョンの肩を抱いて称えた。
「それから、高額な掛け金を出してくれた紳士淑女達の特別席を設けるからな。当日は挨拶まわりを宜しく頼むぞ!」
そう言って国王はバシバシと肩を叩いた。テヒョンは絶望的に口をあんぐりと開くと頭を抱えた。
「今まではうまくすり抜けてきたのだろうが、今回ばかりは逃げたら許さんぞ。」
国王は苦々しい顔のテヒョンの前に指を向けて釘を差した。


テヒョンが自分の部屋へ戻ると、デイビスが待機していた。
「お帰りなさいませ殿下。」
迎えの言葉を掛けられても、何やらブツブツと呟きながらデイビスの前を素通りしていく。
「先程大公殿下がお先にお帰りになりました。宮殿にお戻りにならないのでしたら、今日の会食でのお召し物は、こちらにありますご衣装で宜しいでしょうか?」
「え?ああ、いいよ。すぐに用意出来るか?」
「はい。数日前にこちらに一式移しておいたお衣装がございますので。」
「そうか、良かった。ここに置いてあるものは、宮廷の儀礼的な衣装ばかりだからな。」
デイビスは万が一の事を考えて公務の日程に合わせ、住まいの宮殿と公務先のテヒョンが使う部屋の両方には、事前に着用する衣装を選び準備していた。これはかなり前からデイビス自ら行っている仕事だった。

『スミスが全部任せるようになったのが分かるな。』
「はい?何でございますか?」
「いいや、なんでもないよ。」
テヒョンは笑いながら言うと、デイビスの仕事ぶりを暫く眺めた。
「そうだ!ニューマーケットにある我が家の厩舎に至急連絡を取りたい。」
「はい。」
「調教師に、国王主催のチャリティ・ホース・レーシングにうちの馬を出すよう命令が出たと伝達をしてくれ。」
「かしこまりました。」
デイビスは部屋を出ると、急いで宮廷付きの通信係の所へ向かった。

使いを出して部屋に一人になると、書き物机に座り胸元から封書を取り出した。
それはジョングクに宛てる手紙だ。便箋を広げてそこに数行書き足し始めた。書いては手を止め、また書いては手を止めを繰り返す。
想いを寄せている相手には、気持ちが溢れて、何かと沢山書きたいことが増えるもの。だがたった数枚の便箋に全て気持ちを込めるなど無理な事だ。
テヒョンはこれ以上書き足すことはやめて、再び折り込むと封筒に入れて封蝋をする。そして封蝋に想いを託すように唇を当てた。


「殿下、お時間になりますので起きて下さいませ。」
テヒョンはデイビスに起こされて目を覚ました。知らない間にソファで眠っていたようだ。
「・・・もう時間か?」
「はい。今朝はお早いお出掛けでございましたから、無理もございませんね。」
既に着替えの衣装が用意されていた。
支度が済むと丁度侍従が呼びに来た。
「失礼致します。大公子殿下皆様方お集まりでございます。」
「うん。その前に、今陛下はどちらにいらっしゃる?」
「はい、執務室にいらっしゃいます。」
「では先に陛下の所に寄ってから参りたい。」
「かしこまりました。」

「デイビス行ってくるぞ。」
「行ってらっしゃいませ。」
ここから先は公務になる為、テヒョンの側には宮廷でのテヒョン専属の侍従が付くことになる。
先に国王が居る執務室に立ち寄った。
「失礼致します陛下。」
「おお、入れ。」
中に入ると国王は、机の上に積まれた沢山の書類に、承認のサインを書き入れていた。
「お忙しい所失礼致します。陛下にこれを預かって頂きたく、持参致しました。」
差し出された封書に目を向けると、笑顔でテヒョンの顔を見た。
「ジョングクへの返信だな。」
「はい。宜しくお願い致します。」
「分かった。」
国王は封書を受け取った。

「では参ろう。」
「はい。」
国王の執務室を出て会食の会場に向かう。
「大公子殿下のお成りでございます。」
会場に入るとサンドリア侯爵やそのお供の者、そしてニールが起立をして迎えた。
「待たせましたね。」
「大公子殿下にはご機嫌麗しゅうございます。」
「久しぶりですサンドリア侯爵。あなたもお元気でしたか?」
「はい、おかげさまで。」
テヒョンは侯爵と握手を交わす。次にぱっと視線を振ると、ニールが笑みを浮かべながら挨拶するのを待っていた。
「やぁ、ニール。結婚おめでとう!」
「お久しぶりでございます、大公子殿下。その節は私達の為に結婚のお祝いを下さり、恐れ多い事でございます。本当にありがとうございました。
しかし、、、殿下やチョン伯爵が御結婚を延期されましたのに、心苦しく思います。」
ニールは申し訳ないといった表情をした。

「馬鹿を申せ!私とジョングクは公人だ。ヨーロッパが戦争の最中(さなか)なのに祝い事をやるわけにはいかぬ。しかし、お前達は別だ。世の中が戦争中であっても幸せを享受してよいのだ。」
「はい、分かりました。こうして殿下のお元気な御姿を拝見できまして、うれしゅうございます。」

「なんだか挨拶もしっかり紳士的になっているではないか。」
テヒョンがからかうように言った。
「どうかご勘弁を、、、」
ニールは照れ隠しに頭を下げた。
「さぁでは食事を始めましょう。」
テヒョンが合図を出して着席すると、待機していた給仕係が動き出した。
この日はかしこまった仕事の会食ではなく、用水路工事に関わる土地の所有者と責任者を招いて、労いの場を設けただけであった。
しかし、今や工事のおかげで注目を集めているお互いの領地が観光名所にまでなってしまったので、それに伴う問題等今後の課題についてざっくばらんに会話が出来た。

硬い会議の場より現状を把握する事が出来て、ある意味意義深かった。


サンドリア侯爵自身も気さくなテヒョンの人柄に触れ、貴族の枠を出て素の自分としての言葉で話が出来るようになっていた。それは馴れ合いとは違い、敬意を保ったまま本音で話が出来るという事だ。

「殿下、ニール殿は技術者としてだけでなく、人格者としても最高でございますな。」

「そうですか。そう仰って下さるのはとても嬉しい。」

「彼は自身の部下だけでなく、私どもの作業者達にも分け隔てなく接してくれます。工事に関する相談や問題点も親身に聞いてくれているし、アドバイスも的確です。それに、仕事を離れた時間も皆を誘って飲食を共にしてくれるようで、信頼が厚く工事が更に捗っているようです。」


「ニールは元々面倒見がいいようですよ。現場でもそれが生かされているようで良かった。」

「優秀な技術者と一緒に仕事が出来ることを皆喜んでおります。私もこの工事をきっかけに、殿下とこうしてお近付きになれましたので、誠に幸せでございます。」

サンドリア侯爵は本当に喜んでいるようで、終始笑顔が絶えなかった。貴族に有りがちな傲慢さがない人柄で、テヒョンもそれが気に入っていた。


和やかな時間が過ぎ、充分に労いの意味を果たした会食はお開きとなった。

今回サンドリア侯爵はロンドンに嫁いだ娘の婚家に、数日滞在するようで久しぶりに娘や孫に会える事を楽しみに帰って行った。

テヒョンはニールを誘って自室でワインを一緒に飲んだ。

「サンドリア侯爵がしきりにお前の事を褒めていたぞ。」

「そうでございますか?お褒め頂きましても、なにやら恥ずかしくて落ち着きません。」

気恥ずかしそうに困った顔をした様子にテヒョンは笑った。


「現場で働く者達に対し、分け隔てなく接している事に感謝しておった。」

「それは、どこに所属しているかの違いだけで、働く者は皆同じですし仲間でございますから。」

「やはりお前の良い所は、そのように懐が大きく仲間を作れる所だ。責任者としての素質というものは、実はそこにあるのかもしれぬな。」
「今日はお褒めばかり頂けて、何やら怖い気も致します。」
ニールは遠慮しがちに答えた。

「素直に受け止めればよい。」
テヒョンはそう言ってニールのグラスにワインを注いだ。
「恐れ入ります。」
「お前自身は仕事で不自由はしていないか?」
「はい。今の所仕事そのものに問題はございませんし、職場の環境も良好でございます。」
「ならよかった。」
「あの、殿下は、、、?」
「ん?」
「失礼を承知でお訊き致しますが、婚約者でいらっしゃるチョン伯爵と離れられて、随分お辛いのではございませんか?」
テヒョンは遠慮なく訊いてくるその言葉を聞いてニールの顔を見た。本当に心配そうな表情を向けられて、一瞬寄り掛かりたくなる雰囲気を感じた。

「辛くないと言えば嘘になるな、、、。彼は戦場にいるわけだし、、、」
「伯爵はきっと殿下をお守りする為に、戦場へお立ちになったのですね。」
テヒョンはジョングクの思いを理解してくれているような言葉に、ぐっとこみ上げるものを感じた。
「彼の気持ちが、、、分かるのか?」
「私も殿下に忠誠をお誓い申し上げた身ですので分かります。チョン伯爵は殿下の一番お側近くにいらしたのですから、私もあの方の立場であれば、同じように行動したはずです。」
「そうか、、、私は臣下に恵まれ過ぎているのだな。」

テヒョンの目に光るものが見えた。
「どうぞ。」
ニールが空になったテヒョンのグラスワインを注いだ。満たされたグラスをニールのグラスへ傾けて、礼をするように当てた。
「まさか私が、大公子殿下の私室で恐れ多くもこうしてお側近く、ワインをご馳走になるなど想像もつかなかった事でございます。」
「私もだ。」
二人は笑った。プロスペクトニーで初めて顔を合わせた頃には、お互いにとても想像がつかなかったであろう。
「殿下、もう一つご報告したい事がございます。」
「ん?なんだ?」
「はい、、、実は、私も人の子の親になれそうなのです。」
ニールは恥ずかしそうに言った。

「おいおい、子が出来たのか?」
「・・・はい。」
「なんだ、めでたい話ではないか!なぜもっと早く言わないのだ。」
「いや、、、なんとも、きっかけが、、、」
「何を言っておる。お前らしくもない。」
テヒョンはケラケラと笑った。
ニールは誤魔化すようにワインをクイっと飲み干した。すかさずテヒョンはそこへ注ぎ足した。
「おめでとう!今は大事な時だろう?夫人を大切にな。」
「はい、ありがとうございます。」
幸せそうなニールの顔を見て心が満たされる思いだった。

お祝いだ、ということでシャンパンが追加された。こうしてテヒョンとニールは夜遅くまで飲み交わすことになった。
ゲインズ家での新婚生活や、職場の部下達との交流の話で盛り上がる。
だいぶボトルを空けた所で、ニールがそろそろ宿に戻るということになり席を立つ。テヒョンも立ち上がろうとしてよろけた。
「危のうございます!」
咄嗟にニールが支えて、そのまま優しく包みこんだ。
「すまぬ、かなり酔ったな・・・・・・・・・ニール?」
ニールは懐にテヒョンを留めたまま離そうとしないので声を掛けた。

「ご無礼をお許し下さいませ。」
その声には危うさは無く、逆に包みこまれる安心感にテヒョンは抗うことはしなかった。
「私は大公子殿下のおかげで、道を誤ることはありませんでした。
義父(ちち)や義母(はは)、優しい妻に恵まれ、、、子どもまで授かる事が出来て、今の私はこの上なく幸せでございます。」
「私のおかげなどではない。それはみんなお前の人徳だぞ。」
「それでも殿下がお導き下さったのですから・・・」
「褒めすぎだ。」

テヒョンはニールの背中を叩いた。すると今度は、少し力を込めてテヒョンを抱きしめた。
「殿下、貴方様は私の理想であり、憧れでございます。ですから誰よりも幸せでいらっしゃらなければなりません。」
「ハハハ、、、私はずっと幸せだ。」
ニールは、今度は身体を離してテヒョンの手を取ると跪いた。
「私は殿下がチョン伯爵と幸せな御結婚を迎えられますよう、、、心から願っております。お二人が仲睦まじくいつまでもお幸せである事を、、、」

「・・・うん、ありがとう。」
真剣な顔で自分とジョングクの幸せを願ってくれる姿に、胸が熱くなる。
それに他人の幸せを心から願う事が出来るニールを誇らしく思った。
「そう思ってくれているなら、まずはニール、お前達夫婦が今の幸せをずっと守っていてくれなければな。」
ニールはにっこり笑って頷いた。
「図々しくも大変失礼を致しました。
それではデイビス殿を呼んで参ります。殿下はお座りになっていて下さいませ。」
そう言ってテヒョンを椅子に座らせると部屋を出て行った。

暫くするとデイビスがやってきた。
「大丈夫でございますか?殿下。だいぶお飲みになられましたね。」
「大丈夫だ。」
「今夜はこのままこちらにお泊まり下さい。私はニール殿を送って参ります。」
「あ、私は大丈夫です。一人で馬車留めまで行けますから。ですのでこのままこちらで失礼致します。」
「恐れ入ります。どうぞお気を付けて。」
「ニール、お前の《家族》に宜しくな。」
「はい。ありがとうございます。ではまた。」
ニールは深々とお辞儀をすると帰って行った。
『あ、ジョングクの手紙にニールの事を書けばよかったな、、、』
「はい、何でございましょう?」
テヒョンの独り言にデイビスが反応した。
「何でもないよ。さ、もう寝るぞ。今夜はよく眠れそうだ。」
テヒョンは大きな欠伸をした。


【戦場での偶然】


D帝国国境付近_______

D帝国軍は連合軍に追い詰められると、いとも簡単に白旗を上げるようになった。
今回の戦闘に戦う意義を見出せなくなったことと、かなりの疲弊により戦意が失われつつあるようだ。
ただ、皇帝の居住区付近はまだまだ鉄壁の城壁で、半ば捨て身の様相である為危険極まりない状態だった。
ジョングク達特殊部隊はトーマス率いる部隊と共に、既にD帝国に入国していた。
国境を越えた途端、目の前の激戦を繰り広げたであろう状況に唖然とする。あちこち砲弾を受けた傷跡が無残にも瓦礫化していて、爆撃を受ける前はどんな建物が連なっていたのか想像も出来ない。
既に陥落したこの地域は連合軍の管理下に置かれ、一般人への保護救済が行われていた。

瓦礫の中のあちらこちらでは、負傷者を担架で運び出す姿が見られた。
焦げ臭い匂いが立ち込める街中を歩きながら、出撃までの待機が出来る場所を探した。ほとんど原型を留めない建物の中でも、頑丈である程度形を残していた銀行を見付けると中に入った。
連合軍によって治安は守られてはいたが、それでも銀行は強奪を恐れて、既に通常業務は閉鎖されていた。
ジョングク達はここを待機する所と決め、もぬけの殻になった場所に素早く設営を始めた。
「国境を越えた途端に酷い有様だな。」
アンジェロが荷物を降ろしながら言った。
「これは連合軍の砲弾ではありませんね。」
「聞けば、先の連合軍が進撃してきた所で、待機させていたD帝国軍の砲兵隊が、無差別で一斉に砲撃を始めたそうだ。」
「それでは一般市民もろともではありませんか。」

「連合軍側の負傷者よりも市民の被害の方が大きかっただろうな。敵側の大砲が旧式だった為、あっという間に迎撃により撃破され降参したようだ。」
ジョングクは怒りで言葉を失った。平気で自国民を巻き添えにする主君を守る必要がどこにあるのか。
捨て身の抗戦とは名ばかり。あっけなく白旗を上げるのは命を落としたくないからだ。戰場にいる兵士達の心は今揺れに揺れているのだろう。《何の為の戦いなのか》その自問自答に苦しんだはずだ。

「あの!すみません!」
特殊部隊と連合軍の連隊が設営を始めて暫く経った頃、誰かが慌てた様子でやって来た。
トーマスがその者の前に立ちはだかり身分の確認をする。
「あなたは?この国の方ですか?」
「あ、、いいえ、私はドイツの連合軍に従軍しております看護師でございます。」
説明をしながら首に掛けていた身分証を見せた。
「分かりました。それでどうしました?」
「こちらも連合軍の方々ですよね?お願いでございます!お手を貸しては頂けないでしょうか?」
「どうした?」
何事かとジョングクが奥からやってきた。

「大佐、こちらの女性はドイツからの連合軍に従軍している看護師だそうで、何やら我々の手助けが必要らしいのです。」
「私はこの隊の責任者、チョン・ジョングクと申します。何があったか聞かせてもらえますか?」
「チョン、、、ジョングク様、、?
あ!失礼致しました。実は妊婦が瓦礫に挟まっているのが見つかりまして、でも人手が足りずに助け出せないのです!」
「なんですって!分かりましたすぐ行きます。案内して下さい。」
ジョングクはそう言うとアンジェロに後の指揮を任せ、トーマスと数人の兵士を連れて外へ出た。

シャベルやスコップ、担架の代わりになるようにテントの布等を持って、先導する看護師に付いて行く。
暫くすると同じ白衣を着た看護師が二人、しゃがみ込んでいるのが見えた。そこには人の上半身が横向きで倒れていて、腰から下が瓦礫の下敷きになっている。幸いお腹には圧迫するものがなかった。ただ瓦礫の下にある下肢が圧迫されて、血の巡りが悪くなっていると思われた。
「班長!」
その場にいた二人が立ち上がって、ジョングク達と一緒に来た看護師を呼んだ。
「助けの方々を連れて参りましたよ!」
「もう大丈夫だ、今から出してやるからな、しっかりするんだぞ!」
ジョングクは妊婦に声を掛けた。息は荒いが少し笑みを浮かべたので、意識はあるようだ。

「よし、テントの布を広げて女性の上体の下に敷け。この上に引っ張り出したらそのまま担架にして運ぶからな。」
兵士達は指示通りに動き始める。看護師達も手伝った。
「腕力のある者は瓦礫を動かずぞ。衝撃がないように順々にどかすように。」
ジョングク、トーマスと数人の兵士が瓦礫を取り除く方に回った。
「はい、お水ですよ。少しづつ吸ってね。」
班長と呼ばれていた看護師はガーゼに浸した水を妊婦の口元に持っていって含ませてやった。それから瓦礫を取り除く間は、仲間の二人と代わる代わる背中を擦って痛みを和らげたり、不安を少しでも取り除かせようと声を掛けるなど、ケアをして妊婦の体調を看ていた。
ジョングクはその手際の良さに感心した。見ていなくても指示を出す声だけでそれがよく分かる。

妊婦の下半身を覆っている瓦礫を慎重にかつ手際よく除けていく。
「よし!これが最後だ。よいか、瓦礫を持ち上げたら、引き出せ!」
ジョングクとトーマスと数人の兵士が瓦礫を掴む。他の数人は妊婦の上体の下に手を入れて引き出す体勢を整えた。
「看護師のあなた方は女性を引き出す時に、痛がるようでしたらストップを掛けて下さい!」
「はい!」
揃って応えた。
「ではこちらもいくぞ!・・・しっかり掴んだな。」
「はい!」
「引き上げろ!!」

大きな板状の瓦礫が浮き上がった。
「今だ!引き出せ!!」
下肢のどこも引っ掛かる事なく、妊婦はスムーズに引き出された。
「大佐、引き出しに成功しました!もう大丈夫です!」
「よし、手を離せ。」
その瞬間瓦礫は地面に落ちた。
「さぁ救護所に運びますよ!体温が下がらないようにブランケットを掛けて。意識が落ちないように診て頂戴。」
班長の看護師は仲間に素早く指示を出して、妊婦の看護にあたった。
ジョングクとトーマスと数人の兵士が、テントの布を担架代わりに掴み上げた。

「このまま我々が救護所まで運びます。」
「ありがとうございます。誘導致します。」
「あとの者は銀行の設営場所に戻って、大佐と我々が救護所へ被災者を運ぶと伝えよ。」
トーマスが指示を出して残りの兵士達を返した。
程なくして妊婦を救護所まで運ぶことが出来た。
救護所は沢山の負傷者で溢れかえっていたが、妊婦は幸いすぐに医師から診察を受ける事が出来た。
「瓦礫の下でよくこれだけ耐えられたものだ。・・・ただ片足の大腿骨だけにこれだけの腫れがあると、骨折があるかもしれない。」

医師の所見を聞いていたジョングクは、妊婦の大腿骨あたりに手を当てて、
「大変かもしれないが、お腹の子の為にもしっかり療養をするんだよ。」
と声を掛けた。
「・・本当に、、、ありがとうございました。」
救出されてから意識がしっかりしてきた妊婦は、涙ながらに礼を言った。
「私達からもお礼申し上げます。チョン大佐、、、で宜しかったでしょうか?」
「はい。しかし礼には及びませんよ。ええと、、、あなたは何とおっしゃるのかな?」

「申し遅れました。私は看護班長をしております、ナンシー・ファーガソンと申します。医師をしております夫と共に連合軍に従軍医師団として参りました。」
「そうでしたか。ご苦労でしたファーガソンさん。」
「ここでは皆ナンシーと呼びます。」
「では我々もそう呼んでも?」
「勿論ですわ。」
ナンシーというその看護班長は、大事な任務を終えた安心感からか、やっと柔和な笑顔を見せた。その素顔は誰かの面影に似ている気がした。
「あの、、、チョン大佐。」
「はい。」
ナンシーは考えながらジョングクに訊ねた。

「貴方様は英国の連合軍の大佐でいらっしゃいますよね?」
「はい、そうですが。」
「・・・もしかして、大公子殿下でいらっしゃるキム・テヒョン公爵の婚約者のチョン・ジョングク伯爵でいらっしゃいますか?」
「ええ、そうですよ。」
ジョングクはにこやかに答えた。
「そうでしたか。実は私はまだ10代の頃、キム公爵家で母と一緒に女中として働いていた事があるのです。」
「え・・・?」
ジョングクはその時《ナンシー》という名前で何かを思い出した。


※ 画像お借りしました




前回の物語

物語の続きが始まります✨✨✨


【実戦に続く道のり】


カレー港______

ジョングク達がフランスのカレー港に到着すると、ヴァンティエストの援護をする為に、連合軍から派遣された連隊が迎えに来ていた。
この部隊は、今までの戦闘で援護するという形だけで次々と敵方を鎮圧させた精鋭部隊だ。
艦艇から降り立ったジョングクの前に、連隊の指揮官が出迎えの挨拶をする為に近づいて来た。
「大佐?・・・・チョン大佐ではございませんか!?」
「なに?、、、トーマスか!?おお、トーマスではないか!」
「お久しぶりでございます!チョン大佐!」
ジョングクは驚いた。目の前にいたのはあのトーマスだったからだ。久しぶりの再会に肩を抱き合う。
「援護射撃や威嚇砲弾の名手が揃った連隊が、我々に付いてくれると聞いていたがお前の所だったのか。かなり早い勢いで戦闘、暴動を鎮圧させているそうだな。」

「現地に着いてから、戦闘に参加する度に何度か連合軍同士で各部隊を再編致しまして、兵士達の体力を温存させたのです。」
「なるほどな。そのおかげで正確な攻撃が継続出来たわけだ。無駄打ちと、落とす命も少なくて済む、、、」
《命》の言葉が出て二人は目を合わせた。そうだ、無駄に命を落とすなどジョングクもトーマスも望んではいない。
「あの、、、」 
まだトーマスには理解が追いついていない事があるようだ。
「大佐が連合軍の野戦部隊として出征される事は、軍広報から伺っておりました。ですが今回私は《ヴァンティエスト》の援護に回れと、内密に指示が下ったのです、、、全て機密事項だということで詳細を知らされることはなく、今こうしてここに迎えに参ったわけで、、、」
二人の間に沈黙が漂う。ジョングクがニヤリと笑った。
「そうなのだ、私はそのヴァンティエストの指揮官として派遣されてきた。元々我が国の機密組織として編成された、第44特殊部隊の私は大佐なのだ。テヒョン様から直々に辞令を受けて忠誠を誓った。誇り高きテヒョン様の部隊だ。」
「大佐、、、では貴方様は、、、」
「そう、私はヴァンティーダ族の人間なのだよ。」
トーマスは一瞬驚いた表情をしたが、すぐ納得したような笑顔になった。

「大佐は、あの誇り高きヴァンティーダであったのですね。やはり、、、貴方様には以前から何か特別な空気が漂うのを感じておりましたが、、、」
トーマスは言いかけて、パッと姿勢を正した。
「改めまして、ご到着をお待ちしておりました!我々一同、第44特殊部隊の父であられるキム・テヒョン殿下への忠誠をお誓い申し上げます。」
トーマスがテヒョンのエンブレムが刺繍されている軍旗に向かい宣誓すると、率いる連隊の隊員達もそれに従い敬礼をした。
ジョングクとトーマスは固く握手を交わした。
「それではこれから、皆様を駐屯地にご案内致します!」
駐屯地までは全員馬での移動だった。
トーマスの連隊を先頭と最後尾の二つに分けて、間にヴァンティエストを挟むようににして隊列を組んだ。
トーマスはジョングク達と共にいて、一つ前を先導していた。
アンジェロがトーマスを見ながら訊ねる。
「あの元気ハツラツなあの者は指揮官か?」
「はい。彼は元々我が国の連合軍の指揮官です。第二陣の野戦部隊の大尉をしております。名前をトーマス・ジョンソン男爵といいます。」

「お前の知り合いか?」
「はい、友人の一人です。母国では王宮付き近衛騎兵連隊に所属しております。」
「王宮の近衛兵が連合軍にいるのか?」
アンジェロは驚いた。
「彼は近衛師団の近衛兵以上の戦闘力がありますよ。」
「いやしかし何故わざわざ連合軍に入ったのだ?命令か?」
「いいえ、彼自らの志願です。理由は我々と同じですよ。」
「ああ、なるほど・・・そうか、、戦争なんてもんは切ない男ばかりを生み出すだけだな。」
アンジェロが詩人のような言い方をするので、ジョングクの口から笑いが漏れた。
「こんな時に笑わせないで下さいよ、兄さん。」
「バカだな、こんな時だからこそ笑った方がいいんだ。」

トーマスが何やら言い合う二人に気付いて振り返った。
「お二人は仲がよろしいのですね。」
「ああ、まだ紹介していなかったな。
これはアンジェロ・ディ・ソレンティーノ中佐で、私の母方の従兄でもある。ナポリ王国のヴァンティエストだ。」
「そうでしたか。初めまして中佐、トーマス・ジョンソンでございます。どうぞ宜しくお願い致します。」
「こちらこそ宜しく、大尉。今日までの君達の働きぶりはよく聞いている。」
トーマスはヘラクレスの彫像のような容姿をしたアンジェロに、軍人としての屈強さを感じた。
アンジェロの方もトーマスを近衛兵らしい端正な顔立ちだと思ったが、しかし体つきには鍛え上げられた強靭さを感じた。
アンジェロとトーマスはお互いに敬礼をして挨拶をしめくくった。

「あの、、大佐。テヒョン様やキム公爵家の皆様はお元気でいらっしゃいますか?」
「ああ、とてもお元気でいらっしゃるぞ。テヒョン様も大公殿下もスミス殿も。」
「そうですか、、、良かった。」
ジョングクはトーマスが訊きたい事は、それだけではないであろうことは分かっている。だがなかなか訊ねてこない。
馬の蹄の音だけがただ続いていく。ジョングクは痺れを切らして訊いた。
「フランシスやアンディの事をどうして訊かない?」
トーマスが真っ直ぐ前を向いたまま応える。
「身内の話は憚れます、、、」
「馬鹿だな、、、訊けよ。戦闘が始まればそんなこと言っていられないのだぞ。」
「大佐、、、」
「何を躊躇して恐れている?お前は家族の為にここにいるのだろう?出征前に私にそう話してくれたではないか。お前のエネルギーとなる家族の話だ。遠慮なく訊け。」

トーマスはその言葉にふっと笑みをこぼした。
「家族は、、、私のフランシスとアンディは元気でおりましたでしょうか?」
ジョングクは頷きながら笑って応えた。
「うん!フランシスは健気にお前の留守をしっかり守っていたよ。アンディはもうひとり遊びが出来るようになっているぞ。」
「ひとり遊びですか、、、」
トーマスはフフっと笑って、
「早く一緒に遊んでやりたいです。」
と、父親の顔を見せた。
「フランシスがトーマスは手紙に泣き言を書いてこないと言っていた。だが、それこそが《我慢》しているからだと彼女には分かってしまうのだ。私のテヒョン様と同じで察しが鋭いからな。」
二人で笑う。

「少しは手紙に弱音も書いてやれ。それは決して不甲斐なさの露呈ではないぞ。フランシスは自分は必要とされていると思うだろうし、信頼の証じゃないか。お互いにそれは必要な事だ。」
トーマスは視線を遠く前に見据え、
「そうですね、、、」
と応えた。
ジョングクは話しながら、自分にも言い聞かせているようだった。
「久しぶりにこのようなお話が出来て、国で皆様方と過ごした日々を思い出します。」
「必ず帰ってまた笑って暮らすのだ。」
「はい!」
二人の脳裏にはテヒョンやフランシスやアンディの笑った顔が浮かぶ。幸せを絵に描いたような人々の笑顔を涙に暮れさせるような事は許さぬと、ジョングクもトーマスも改めて心に刻んだ。

暫く隊列は進んでいたが、ようやく目的地が見えて来た。
ジョングク達が到着した駐屯地は、フランスとベルギー王国の国境を跨いだ、同盟国で設営された連合軍の本拠地だった。
ここでジョングクは、査察隊から偵察隊へと役目が変わった捜査官から、セルゲイ・ヴィダ・アルテミエフの最新の潜伏状況の報告を受ける事になっている。
彼等捜査官は古くから隠密捜査を担ってきたヴァンティーダ族だ。
司令本部に集まったのは、大佐のジョングク、中佐のアンジェロ、大尉のトーマスと捜査官三人の合わせて六人。
冒頭から捜査官は重い口調で話し始めた。

「アルテミエフの居場所を突き止めるのに、かなり時間を費やしましたが、、実は、、、D帝国から動かずそこに居たことが分かりました。」
「なんと!・・・・」
どうやらアルテミエフは、自分の影武者をいくつか遣わしたようで、敵の査察を目眩まし優位に行動していたようだ。
「念術を使っても全て反応が返って来ないのでおかしいと思っておりました。
しかし、D帝国に残した捜査官の一人が飛ばしていた《念》に反応が見られたので、まさかと思い再度念を飛ばしてみた所、見事に皇帝の宮殿から強い反応が返ってきました。」
この捜査官のいう【念術】とは、ヴァンティーダ族が持つ超霊力の一つで、特定の人物の捜索などに使われた。
ターゲットとなる人物へ念を飛ばして、それに対する反射反応で居場所を突き止める事が出来た。

「チョン大佐、D帝国の皇帝は呪術洗脳されております。」
「もしかして、、アルテミエフがやったのか?」
「はい、あの者は呪術の使い手だという情報があります。覚醒はしていない為、ヴァンティーダとしての本来の力はありませんが、呪術は代々訓練が受け継がれているらしく、かなり使えるらしいのです。」
「では皇帝は呪術によって、王位継承権略奪の加担をするように洗脳されているというのか?」
「はい。それで我々は皇帝への洗脳を弱める為に、こちらから妨害波動を行っております。」
「敵側に気付かれずにやるのが一番だが、そこは上手く出来ているか?」
静かに報告を聞いていたアンジェロが訊いた。
「波動を送る際に、アルテミエフ本人には一時的に結界を張っておりますので大丈夫でございます。」

「波動を出しながら遠隔で結界を張れるのか?」
「我々は皆、それが出来ます。」
捜査官はニヤリとして自信を込めて答えた。
「中佐、彼等はヴァンティーダ族きっての超霊技術の覇者ですよ。」
「そうだったな。だが一人が同時に別の術を使いこなすとは相当な進化じゃないか?」
「そのおかげで私達が行動しやすくなりましたよ。捜査官の諸君、よくやってくれた。」
「はっ!」
「波動送波は継続して行うのか?」
「洗脳が解けるまで、現在も継続しております。」
「ならばそれと並行して俺達も進軍した方がいいな。」
ジョングクは深く頷いた。

「チョン大佐、我々偵察隊もキム・テヒョン殿下への忠誠をお誓い申し上げます。」
リーダー格の捜査官がそう宣言すると、司令本部に掲げられている第44特殊部隊名《Duke of Venus(金星の公爵)》とテヒョンのエンブレムが刺繍された軍旗に向かい、捜査官三人が揃って背筋を伸ばし敬礼をした。
「ありがとう。」
礼を言うとジョングクも敬礼をした。
「大佐、引き続き作戦会議でいいか?」
見守るようにして見ていたアンジェロが声を掛ける。
「はい。」
という返事を聞いて、アンジェロは直ぐに司令本部を出ると集合を掛けた。


ヴァンティエストとトーマス率いる連隊が集められ、作戦会議が始まる。地図を広げ敵国に向けての進軍ルートを確認し、あらゆる不測の事態に備えての対応を確認する。
「我々は明日、D帝国に向けて出発する。
現在D帝国では、ドイツとオーストリアから派遣された連合軍が、戦闘を続けている状態だ。敵は軍隊だけではなく過激派も混在しているそうだ。」

ジョングクは部隊の者達に向けて話す。
「我々の使命は戦闘ではなく、あくまでもセルゲイ・ヴィダ・アルテミエフの処刑だ。その為に我々は派遣されたのだ。なんとしても、必ず息の根を止める。その意志を改めて共有しておきたい。」
「「はい!」」


出発の朝、ジョングクは胸元からロケットペンダントを取ると、開いて中のテヒョンの写真に口づける。
テヒョン様、これから使命を果たしに行って参ります。
大切な人の眼差しに心の中でそう話し掛けた。そして写真を閉じると軍服の中にペンダントを大事に戻した。
そして後ろを振り向くと、控えていた隊列をぐるりと見渡して、大きく指揮杖を振り上げて号令を出した。
「前進!!」
馬に跨ったヴァンティエストの一団が一斉に動き出した。それに合わせるように、
「それぞれの隊列に分かれ進め!」
トーマスが自身が率いる連隊に号令を掛けた。既に戦闘準備はされている。大砲での砲撃を担う砲兵隊を筆頭に、いつ敵が現れても迎撃出来るよう、各々のライフル銃の装備は万全だった。
目的のD帝国に到着するまでには、侵入を阻む敵側の防御兵達をいくつか突破しなければならなかった。

目的の場所までの道のりは長い。途中でテントを張りキャンプをしながらの移動が続いた。中継地点では味方の連合軍から食料と水の補給と、頑張って自分達を運んできてくれた馬の交換をして更に先に進む。
ようやく敵国が見えてくる所まで、ジョングク達一団が進んで行くと、その先で轟音と共に物凄い勢いの土煙が上がった。


【戦地にいるジョングクからの手紙】


キム公爵邸_______

朝、テヒョンはベッドから出ると、窓辺に立って空を見上げる。
ジョングクが出征して4ヶ月が経とうとしていた。胸元からロケットペンダントを取って開くと、凛々しい瞳でこちらを見る愛しい人の顔があった。テヒョンはその写真に口づけた。
君は今どこにいるの?無事でいるのか?
投げ掛ける術(すべ)もなく、心の中の彼に呼び掛ける。
ノックの音の後にデイビスが入って来た。
「殿下、お目覚めでございますか?」
「おはよう、ここにいるぞ。」
デイビスは声のする方を向いて、主人の姿を確認した。
「おはようございます。国王陛下から大公殿下とご一緒に、宮廷へ参内するようにとお呼びでございます。急ぎお召し替えを」
「そうか分かった。」
テヒョンはペンダントを閉じると、急いで用意された服に着替えた。

着替えを終え玄関に向かうと、大公もオルブライトを伴い降りてくる所だった。
「おはようございます父上。」
「おはよう、出掛けられるか?」
「はい。」
「では参ろう。」
馬車は既に玄関口に停まっていた。スミスが見送りの為に待機している。
「おはようございます、大公殿下、テヒョン様。」
「おはよう。もうこれからはずっとデイビスを伴わせてよいのだな?」
「はい。テヒョン様専属の従僕として、私の補佐も要らない位に成長致しました。ですので全任したいと思います。宜しいでしょうか?」
「うん、問題ない。」
テヒョンはデイビスを見ながら応えた。
「デイビス、しっかりテヒョン様にお仕えするようにな。では、皆様方行ってらっしゃいませ。」

スミスが見送る中、大公とテヒョンは馬車に乗り込んだ。オルブライトとデイビスが続いて乗ると馬車は動き出した。
国王からの呼び出しとなると、派遣させた連合軍の話に違いない。それを察して馬車に乗ってから、黙ったままでいるテヒョンを見て大公は声を掛けた。
「きっとジョングクからの最初の経過報告があったのではないか?」
「そうだとよいのですが、、、」
テヒョンは笑い切れない笑顔で応えた。
大公もオルブライトもデイビスもただ見守るしか出来なかった。

宮殿に到着すると、すぐに国王の私室に通された。
そこには既にセオドラ卿の姿があった。
「おはようございます両殿下、陛下は直ぐに戻られます。」
大公とテヒョンが挨拶を受けると、すぐに国王が姿を見せた。
「おはようございます国王陛下。」
「叔父上朝早くにありがとうございます。テヒョンもセオドラ卿も忙しい中呼び出してすまないな。」
大公とテヒョンは座るように勧められて腰を下ろした。
「今日呼び立てたのは他でもない、ジョングクから戦況報告が上がってきたのだ。」
テヒョンは国王の顔を見た。
「まずは先にジョングクから届いたお前宛の私信を渡そう。」
国王はジョングクの名前を聞いて、真っ先に反応したテヒョンに封書を差し出した。
「第44特殊部隊は機密部隊だから、個別に書簡を交互に送り合うことは出来ぬ。情報漏洩を防ぐ為に、全て国王である私に送られてくる。部隊に送る時も私からしか送れぬ。」
「では私からの書簡を陛下にお預けしても宜しいでしょうか、、、」
「ああ構わぬぞ。今日明日で間に合うのであれば託せ。」
「ありがとうございます。」

テヒョンはジョングクからの封書を受け取って、それを胸ポケットにしまうと国王が読み上げる、戦況報告に意識を向けた。
「どうやらジョングクの部隊はトーマスが率いる連合軍の連隊が援護に就いたようだ。」
「では二人は一緒に行動しているということですか?・・・これは偶然ですか?」
「偶然ではないのだ。トーマスの連隊はヨーロッパ中から派遣された連合軍の中で、戦闘と暴動の鎮圧を一番多く成し遂げた、並み居る精鋭が集まった部隊なのだ。」
大公がそれらの功績に敬意を持って話した。
「叔父上の言う通りでな、ヴァンティエストの作戦を完璧に遂行させる為、トーマスの連隊が援護の為にジョングク達の元に派遣されたのだ。」

「ということは、最強の編成組織が組まれたことになるのですね。」
「そうだな。特にトーマスは兵士達の能力が偏らないため、また体力を温存させるために、多種多様に部隊を再編していたようだぞ。それが功を成して結果に繋がったのだ。」
「・・・なるほど、、、戦闘で無駄に命を落とさないようにという、トーマスの信念が感じられます。」
テヒョンが言葉を噛みしめるように言ったので、国王達は何かを思い巡らしているようなその表情を見つめた。
「では戦況報告を確認するぞ。」
国王は報告書の封を開けて書面を開いた。
しばらく書かれている文面に視線を走らせていたが、徐ろに話し始めた。

「フランスのカレー港に到着した後、第44特殊部隊はフランスとベルギー国境にある連合軍の駐屯地に向かったようだな。
それとだな、、、偵察隊からの報告で明らかになったことがある。」
国王は一瞬言葉を止めて大公とテヒョンの目を見た。
「セルゲイ・ヴィダ・アルテミエフは、D帝国の皇帝を呪術洗脳していた事が分かった。叔父上が懸念していた事が当たりましたよ。」
「やはり、、、そうでしたか。」
大公は苦々しい表情で言った。
「父上、一体どういう事なのですか?」
「いや、、今回のP国の王位継承権略奪の企てに、なぜD帝国の皇帝が手を出してきたのか、理由が全く分からなかったのだ。その後にガヴェレナ系ヴァンティーダで、それも滅んだ元皇帝の子孫が主導していたと知って、更に分からなくなった。」

「そうですよね。元々D帝国はP国に縁がないばかりか、利害関係もないですからね。そんな中で何故アルテミエフの企みに加担するのか、、、逆に不利益ですよ。」
「テヒョンの言う通りなのだ。それで何か良からぬ力を使ったのではないかと思い、ヴァンティーダの超霊力について調べていたのだ。セオドラ卿にも可能性のあるものを訊いたりしてな。」
「叔父上からその話を聞いて私も納得した。今回の報告で確証出来たということだ。」
「ヴァンティーダ本来の力は無いとしても、呪術の使い手として代々訓練を繰り返して来た元皇帝の子孫を利用するつもりで匿ったのだろうが、逆に利用されることになろうとは、、、」
セオドラ卿が冷たく言い放った。
「それで、戦況はどうなっているのですか?」
テヒョンが一番気になるところを訊いた。

「大丈夫、ジョングクは無事だぞ。」
国王は気持ちを察して先にそれを答え、戦況について説明を続ける。
「特殊部隊であるヴァンティエストの任務はアルテミエフの《処刑》であるから、まずこの者の身柄を確保する必要がある。その為に偵察隊が波動を送り、D帝国の皇帝の洗脳を解く事を行っているそうだ。」
「確か偵察隊の捜査官達は超霊技術に秀でているのでしたな?」
大公がセオドラ卿に訊いた。
「はい。それも選りすぐりの者達を集めて、隠密での捜査をさせております。」
「皇帝の洗脳が解ければ、ヨーロッパの中で立場が危ういD帝国を思えば、アルテミエフの身柄を差し出すことになろうな。」
「アルテミエフが逃げなければ、、ということでしょうが、どちらにしろ孤立させてしまえばこちらのもの。」

「ジョングクとトーマスの一団は駐屯地を離れ進軍している。途中敵軍からの砲撃を受けたようだが、どれも素人が放つ的外れだったらしい。トーマスの砲兵隊の一撃で敵側は離散したそうだ。どうやら砲弾を撃ち込んできたのは、D帝国の市民兵だったようだな。」
国王は報告書の更に先を読み続けた。
「市民に大砲を撃たせるなど正気ではない!一般人を徴兵してまでやるような戦闘ではないのだ。」
大公が怒りを顕にする。テヒョンはジョングクが《砲撃を受けた》という事実に動揺が隠せなかった。いくら戦況報告書を書いた時が無事であったとしても、《今》はどうなのか、、、。戦禍の中に入ったならば、戦闘は激しさを増すばかりであろうことは優に想像出来る。
「これが書かれたのか2カ月前だ。今の詳しい状況は分からぬが、我が国の報道部隊によれば、ヴァンティエストとトーマスの連隊は既にD帝国国境付近に着いているそうだ。」

「今が正念場でございますな、、、」
セオドラ卿が静かに言ってその場が静かになった。
先程から沈痛な表情のテヒョンに、国王が言葉をかける。
「テヒョン、報告書の最後に書いてあった事を伝える。
トーマスの連隊も偵察隊も《Duke of Venus(金星の公爵)》と名付けられた、第44特殊部隊の父であるキム・テヒョンに忠誠を誓ったそうだ。」
「え?」
テヒョンは驚いた顔をした。
「これはな、使命を持った者皆がお前の名の下に忠誠心を寄せ、また支えにして戦うという誓いだぞ。」
「陛下、、、」
国王は優しい顔で頷いた。
「この戦争が終わったら、その者達を我が国に招待して労ってやることだ。それまで信じていてやるのだ。」
「・・・はい。」
大公もセオドラ卿も優しくテヒョンを見守った。

戦況報告が全て終わる。
「朝早くからご苦労であった。朝食が用意される、一緒に食べて行ってくれ。それまでゆっくり休んでいてもらいたい。」
「ありがとうございます。」
テヒョンは先に礼をしてすぐに国王の部屋を出た。足早に宮廷内にある自身の私室に向かう。途中デイビスがテヒョンの姿を見つけて声を掛けた。
「殿下!」
「デイビス、私は部屋で食事までの間過ごす。お茶も何も要らぬ。」
「はい、かしこまりました。」
立ち止まることもなく、そそくさと通り過ぎる後ろ姿をデイビスはずっと見送った。

部屋に入るとそのまま窓辺に立って、胸元にしまっていたジョングクからの手紙を取り出した。封蝋を解いて開くとそのまま顔に近づけて、大きく息を吸い込む。愛しい人の温もりを少しでも感じたい、、、ほのかなインクの香りが胸を切なくさせた。手紙に綴られている見慣れた文字に彼の面影が浮かび上がる。
テヒョンはドキドキしながら文字を追い始めた。

親愛なるテヒョン様

この手紙があなた様のお手元に届くのはいつになるのでしょうか。
私はフランスに到着後、ベルギーとの国境にある駐屯地を経て、D帝国を目指して進軍を始めました。
その前に駐屯地で誰に会ったと思いますか?なんとトーマスですよ!
 
「さっき陛下に聞いてもう知っているよ。」
テヒョンはクスクスと笑う。

トーマスは我々の援護の為に連隊を率いて来てくれました。連合軍の中で一番戦闘と暴動を鎮圧させた精鋭部隊です。こんな心強い事はありません!
敵国までの道のりは長く、私達は何度もキャンプをしながら移動し、ようやく敵国に近付いた頃、我々に向けて砲弾による攻撃を受けました。しかしトーマス達の迎撃により難なく突破致しました。
どうかご心配なさいませんよう、、、
とは申しましても、無理でございますよね、、、
私はあの出発の日を思い出します。あなた様はきっと私が乗った艦艇が見えなくなるまでお見送り下さったのでしょう?

「そうだよ、、、目を離すなんて出来なかったよ。見えなくなるまで僕は君を見送リたかったからね。」
テヒョンもあの日を思い出し、切なさがよみがえる。

私はあなた様がじっとこちらを見送っていることを想像して、切なくて仕方がありませんでした。だからすみません、、すぐに船内に入ってしまったのです。
もうすでにあなた様を抱きしめることも出来ないと思ったら、苦しくて仕方がなかったのです。
今でもこれを書きながら、あなた様に会いたい、抱きしめて口づけたいと思ってしまいます。
でも、だからといって決して弱気にはなってはおりません。あなた様への想望が全て私の力になるからなのです。
ああ、今もあなた様を愛しいと思う心に突き動かされています。
テヒョン様、どうかお変わりなくお健やかでいて下さい。

全ての愛と尊敬を込めて、私の愛する大切なテヒョン様へ
あなたのジョングクより


最後まで読み終えたテヒョンは、手紙を胸に抱くとしばらく窓の外を見ていた。頬には真っ直ぐに涙がこぼれ落ちた。静かな時が流れたが、鳥の鳴き声を窓辺に聞いて、切り替えたように窓から離れると、書き物机に座り便箋を取り出した。


※ 画像お借りしました






梅雨だというのに毎日暑くて🥵💦
私は夏を越せるのか❓と思うこの頃

グテがカムバしたら
暑くても全然平気爆笑飛び出すハートって言ってたの、、、誰❓お前だ


皆さんはお元気にしていますか❓


さて
名付け親になってみませんか☆に
賛同下さった方が数名様いらっしゃったので、締め切り前夜報告(?)をさせて頂きますグラサン


中でも一番最初に下さった方お二人のご提案には目からウロコでしたびっくり
ほぼ同時に下さったのよ✨✨


匿名でご紹介します☺️


💜💜様コメントから

    

テヒョン公爵...

エリオット公爵(この間のテテの投稿エリアから)

ジョングク伯爵...

アンソニー伯爵(キャンディキャンディから)

どんな名前になるか?楽しみにしています(⁠^⁠^⁠)



❤️❤️様メッセージから

    

Yoっち☆さん

名前、まだ間に合いますか?


私、考えていたのがあって書かせていただきます☺️

テヒョンはエリオットでジョングクがオーランドです❤️オーランドはどっかで聞いたような気もしてます...エリオットは君の名前で...のエリオから考えました(^-^)


そう

テテがアミさんの質問に答えたエリオからエリオットという素敵な響きの名前が出ましたよ✨✨✨

それも提案して下さった方がお二人以外からも、、、、凄い偶然❗❗


なので、テヒョンの名前は今は最有力候補がエリオットです😆


ジョングクの名前も色々です😍
ジョンハルト、アンドリュー、オーランド🩷🩷🩷🩷


あーー迷いますよね😆😆😆😆


取り急ぎお知らせまで

群青真紅はこの後すぐにアップしますよ👍どうぞお楽しみに💖💖💖