中国チベット自治区で、環境破壊が進んでい る。豊富な天然資源に目をつけた中国政府による 鉱山開発が次々に行われ、毒性物質が山河に垂れ 流しにされているのだ。チベット人にとっては聖 なる大地の汚染であり、各地で抗議の声をあげて いるが、当局の答えは「武力弾圧」。情報統制の 中、妊婦まで銃撃されたという証言もある。公害 などお構いなしで、チベットは中国本土の経済発 展を支える「収奪植民地」と化している。(河合 洋成)

美しい聖なる山々が毒で犯され

「役所を包囲していたところへ武装警官がやっ てきた。そして、突然、発砲を始めたんだよ」

今年8月9日、同自治区中部のシガツェ地方で 事件は起きた。自由アジア放送の伝えるところに よると、鉱山による自然破壊への抗議デモをして いたチベット人に武装警官が発砲、13人が負傷 した。その中には妊婦もいて、足を撃たれた。け が人は病院に運ばれたが、その後、どうなったか は全く消息がつかめない状況だという。

同地区の鉱山からは金や銅などが産出され、武 器の製造などに利用される。住民らは、何度も地 区当局に採掘作業の中止を申し入れていたが、な しのつぶて。

「役人たちが鉱山会社から袖の下をもらってい るのは周知の事実。だから、中央政府から許可を 得ているというだけで、会社にはやりたい放題に させている」

さらに、9月23日、同自治区のラサ東方、メ ルト・グンカル地方で繰り広げられたデモには千 人以上のチベット人が集結。鉱毒を含んだ廃棄物 が川に流れ、魚を殺し、聖地を汚染する状況に我 慢できなかった。

PC、スマホに使う“レアメタル”が埋蔵されてる 「西蔵(チベット)」

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「かつて、この辺りは清流と美しい山々の自然 でも知られていた。今は違う。鉱山からの毒で すっかり汚染されてしまった」

住民らは5年来、当局に改善を申し入れてき た。地区の環境政策担当者が来たこともあった が、決して鉱山が悪いということを認めず、「自 然の成り行きだ」と言い放ったというから、住民 無視の共産主義体制がよくわかる。

目の前の利益優先、資源開発は「漢人」のため

「世界の屋根」と呼ばれるチベット高原は北 極、南極に次ぐ“第3極”と指摘されるほど氷河に 覆われ、豊富な水資源を有する。インドやパキス タン、ベトナム、タイなど南アジアや東南アジア の大河の源流地であり、黄河や長江(揚子江)な ど中国の河川にもつながっている。つまり、チ ベットの自然破壊はアジア各国だけではなく、自 分たちの首を絞めることにもなるのだが、当局は 目の前の利益優先だ。

目の前の利益とは、この水資源であり、地下に 眠る手つかずの鉱物資源だ。中国政府は西部大開 発をスタートさせている。名目は後進地域の経済 成長促進だが、実質は漢人が大多数を占める中国 東部の生活を維持するためのエネルギー開発にほ かならない。

中国がいう“解放”から60年を超えた今、水資 源は水力発電のためのダム建設へとつながり、地 下資源をめぐっては政府お抱え、お墨付きを受け た企業が大手をふるって鉱山開発に乗り出してい る。

金、銀、銅、鉛や亜鉛のほか、モリブデン、ア スベスト、ウラン、クロム、リチウム…。“レアメ タル”と呼ばれる希少な地下資源はコンピュー ターやスマートフォンなど現代生活に欠かせない 最先端製品に使われ、中国政府は資源輸出による 外貨稼ぎにも目がくらむ。

美名で“解放”60年、次の“解放”の大義は「過剰 な放牧で草原が喪失…」

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「聖なる大地」を浸食する乱開発

一方で、こうした乱開発が大地の疲弊につな がっている状況が報告されている。ロンドンに本 拠を置く世界的なNGO「フリーチベット」によ ると、チベットはもともと地震多発地なのだが、 鉱山開発やダム建設で地盤の不安定化が進行し、 昨年3月には、ラサ東部にあるギャマ鉱山で大規 模な地滑りが発生、漢人の出稼ぎ労働者ら83人 が死亡・行方不明となった。

チベットでは大規模な露天掘りの鉱山開発が展 開されている。それは、聖なる山々を切り崩し、 大地に穴を開け、挙げ句の果てに汚染物質をまき 散らし、山河に垂れ流す。明らかに公害であり、 チベットの人々の抗議活動は当然の帰結だ。

しかし、当局や鉱山会社は軍や武装警官を呼 び、丸腰のデモ隊に平気で銃口を向けたり、電気 ショックを与える武器を使ったりするのだから、 人権などあってないに等しい。

追い詰められたチベット人の中には、自殺を抗 議の手段に選ぶこともある。同団体のホームペー ジでは、昨年5月、飛び降り自殺をした39歳の 男性のケースを紹介。「チベットに自由はない。 チベットは独立しなければならない。ダライ・ラ マ(14世)に帰ってきてほしい」。そう叫びな がら彼は制止する人々を振り切って死を選んだと いう。

遊牧の地のチベットで、中国政府は過放牧が草 原喪失につながるとして、無理やり遊牧民を定住 化させている。一見、科学的な政策にみえるが、 その裏にはチベット人から土地を取り上げ、その 下に眠る天然資源を収奪する狙いがあるという。 資源開発競争がチベットの大地を浸食しているの は疑いない。

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チベット亡命政権内閣は9月に発表した声明で 次のように言及している。

「チベットの環境に起きることは、何百万もの 人々に影響を与える…。何年もの間、チベット人 は自国の脆弱な生態系の自然管財人としてうまく 仕えてきた。中国人はこのことを認め、尊重しな くてはならない」

聖地チベットが、中国の栄華を約束する永遠の 植民地として“解放”されたと認識すべきだろう。