中国の習近平国家主席(61)は7月初め、約 300人の中国の政財界要人を連れてソウルを訪 れ、中韓の蜜月ぶりを演出した。

韓国側との会談では北朝鮮の核放棄で連携を強 化することを決定。長年の盟友である中国に裏切 られる形となった北朝鮮は、日本海に向けてミサ イル発射実験を行い、官製メディアで中国を暗に 批判する記事を掲載するなど猛反発した。中国の 朝鮮半島専門家は「中朝関係の修復はもはや難し い。これからは本格対立が始まるかもしれない」 と話している。

「切り捨てるぞ」と警告

習主席は平壌よりもソウルを先に訪れた初の中 国最高指導者となった。中国外務省関係者による と、中国政府は今回の習主席訪韓を、最高レベル の外交行事と位置づけた。中国が韓国との関係を 重視する背景には、米国が主導する中国包囲網の 重要な一角である韓国を引き寄せたい思惑が指摘 される。同時に、中国から支援を受けながらも最 近、中国の意向を無視した行動をとり続ける北朝 鮮に対し「切り捨てるぞ」と警告する意味もある とみられる。

中国は胡錦濤政権まで、北朝鮮との関係を重要 視する政策をとり続けた。北朝鮮が核実験をして も、ミサイル発射しても、中国は口頭で抗議する だけで、援助をやめなかった。戦略的に北朝鮮を 中国側に引き寄せる必要があったことが原因と指 摘された。

しかし、習近平政権が発足した直後の2013 年2月、習主席に近いとされる共産党幹部育成機 関の新聞「学習時報」の副編集長が英紙、フィナ ンシャル・タイムズで「核問題で中国の脅威にも なる北朝鮮を切り捨てるべきだ」という内容の論 文を発表し、大きな話題を呼んだ。共産党関係者 によれば、論文は習主席の周辺の意向を反映して おり、中国はその頃から対北政策の見直し作業を 進め始めたという。

「兵糧攻め」も逆効果に

習指導部が対北政策を見直すのは、尖閣諸島 (沖縄県石垣市)の問題で対立する日本を意識し てのことだと指摘される。北朝鮮の核開発を放置 すれば、将来的に日本も核兵器保有に向けて動き 出す懸念は党内で強いという。

また、5月に上海で開かれた「アジア信頼醸成 措置会議」(CICA)で習主席が「アジアの安 全はアジアで解決できる」として「アジアの新安 全保障観」を提唱したように、習政権はアジア太 平洋地域から米国を排除し、中国を中心として軍 事同盟を築きたい思惑がある。しかし、中国の盟 友でありながら、協力的でない態度をとり続ける 北朝鮮はいまや中国のこの構想にとってマイナス の存在になったという。

とくに、昨年(2013年)11月に北朝鮮が 親中派とされる張成沢(チャン・ソンテク)一派 を粛清したあと、中朝間のパイプ役がなくなり、 頻繁に行われていた要人往来も実質的に止まっ た。中国の北朝鮮に対する影響力はますます低下 した。中国の政府関係者によると、中国は今年2 月から北朝鮮に提供する石油の量を大幅に減ら し、“兵糧攻め”の手段に出たが、北朝鮮側の態度 をますます硬化させ、期待されていた効果がな かったという。

今回、習主席が国内外に見せた韓国重視の姿勢 は、北朝鮮を孤立させる作戦の一環ともいわれ る。しかし、北朝鮮は日本と接近するなど、中国 に対抗しており、うまく行ったとはいえない。

正男氏担ぐシナリオも

習主席が訪韓する前に、北朝鮮は日本海でのミ サイル発射実験を行ったほか、労働新聞で「核開 発の放棄は永遠に実現することのない荒唐無稽な 犬の夢」との内容の記事を掲載した。習政権の政 権スローガンは「中国の夢(の実現)」であるた め、「犬の夢」とは、習政権への皮肉とも受け止 められる。また、同じ労働新聞には「大国主義者 たちの圧力もわれわれ人民を屈服させられない」 との表現もあり、「中国」を「大国主義者」と暗 に批判したものと指摘される。

中国政府は金正日(キム・ジョンイル)時代か ら、金正日氏の長男の正男(ジョンナム)氏(4 3)を保護下に置いている。北朝鮮が中国の言う ことを聞かないなら、正男氏を担いで北朝鮮の トップにすげ替えるシナリオがあると言われてい る。

朝鮮半島問題専門家は、「打つ手がなくなれ ば、中国は北朝鮮の内政に本格介入することも考 えられる。今それは、北朝鮮が最も警戒している ことだ」と話している。(中国総局 矢板明夫 /SANKEI EXPRESS)