[映画.com ニュース] 朝鮮民主主義人民 共和国(北朝鮮)では、映画は国家思想を人民 に定着させる重要な“啓蒙ツール”だが、日本で 北朝鮮の映画を見られる機会はめったにない。 そんな知られざる北朝鮮映画界に密着したドキ ュメンタリー映画「シネマパラダイス★ピョン ヤン」が、3月8日に公開される。来日した香港 在住のドキュメンタリー映像作家ジェームス・ ロン監督に、製作の経緯や撮影の裏側を聞いた 。

故金正日総書記が大の映画好きであったこと から、首都ピョンヤンには広大なオープンセッ トを有する朝鮮芸術映画撮影所もあり、数多く の映画が製作されている。2008年のピョンヤ ン国際映画祭に招待されたロン監督は、「ピョ ンヤンはミステリアスな都市でずっと行ってみ たかった。北朝鮮でとても有名な映画『花を売 る乙女』(1972)の女優に会い、冗談半分で 『北朝鮮で映画を撮ってみたら?』と言われた んだ。それは面白そうだなと思い、すぐさま映 画祭主催者に相談に行ったのが始まり」だそう で、約2年にわたり北朝鮮への取材を重ねてき た。

本作では主に、名門ピョンヤン演劇映画大学 に通う2人の学生と、映画製作という“国家事業 ”に生涯を捧げる1人の映画監督にフォーカスし た。撮影許可を得るにあたっては、「外出時は 必ず案内員が同行すること」「撮影した映像の 全てを毎日検閲に出すこと」という2つの条件 が、ロン監督と共同監督のリン・リーに提示さ れた。そんな厳しい撮影環境の中でロン監督は 、「制約はもちろんあったけど、お互いをでき るだけ知ろうと思った。そうしているうちに彼 らは思想に洗脳されたロボットではなく、私た ちと同じ人間であるということ。ただ、異なる 環境下で暮らしているだけなんだということを 改めて思い知ったんだ」と語る。
家族の反対を押し切り女優への道を進むユン ミ、国民的俳優を両親に持つウンボム。彼らは 平凡な人民というよりはむしろ特権階級の人々 だが、それでも彼らの素顔はメディアで伝わっ てくる北朝鮮のイメージとは大きくかけ離れて いる。ロン監督も、「ユンミは両親の反対を押 し切ってまで女優の道を選んだ人だから、周囲 の反応をあまり気にしていない。素顔もとても チャーミングだよね。一方のウンボムは、両親 が有名な俳優なので期待も大きい。両親に続こ うというプレッシャーもあるし、周囲にどう思 われるかもすごく気にするんだ」とあくまで一 個人として対象に迫り、個性を尊重した。

ユンミが自宅でピアノを弾きながら歌うシー ンでは、「ポップソングのように聞こえたんだ けど、後で歌の意味を調べてみたらやはりそこ にも“将軍様”への敬意が込められていた。だけ ど彼女はそれをプロパガンダだとは思わず、何 も考えず空気を吸うように歌っていた。それは もう自然反射のようなもので、果たしてそれを 洗脳と呼ぶのかどうか。若い頃から思想を叩き 込まれているから、やはり金正日総書記は彼ら にとって神のような存在だと思う。例えば、ク リスチャンはよく『神のご加護を!(God bles s you)』と言うけれど、神を信じていない人 にとってはとてもおかしく聞こえると思う。指 導者は神様みたいな、宗教みたいなものなんだ 。だけど彼女は、自分の夢に向かって進むとて も自立した女性でもある」と単一的に定義でき ないものがある。

北朝鮮のように確固たるイメージが定着した 国家に対し、ジャーナリストは先入観をぬぐい 公平な視点を保つことが求められる。「とにか くオープンマインドでいることが大切。『本当 にこんなことを信じてるの?』と思ってしまっ たとしても、簡単にジャッジしてはいけない。 ジャッジしてしまえば、もうそれ以上学ぶこと ができないからね」と常に誠意を示した。また 、「ドキュメンタリーにおいては、ストーリー は作るのではなく見つけるものだと再確認した 。予測不可能に起こる出来事によって、アプロ ーチの仕方や視点を変える。そうやって物語が 変わっていけることが、ドキュメンタリーの最 も大きな力だと思う」と自由な発想を保ち続け た。

そして、「北朝鮮を極端に描き、ジョークに する人もたくさんいる。だけど私は国の善悪で はなく、人間とはどのように関わり合って生き ているのかを描きたかった。相手を理解しよう とすること。自分の意見をもつことも大切だけ ど、相手に対する知識をもつこともとても大事 だと思う」と語った。