「(ロシアの)プーチン 大統領が国際法を無視し、 乱暴にもウクライナの領土 クリミアをほぼ占領した。 これに、ウクライナが抵抗して戦闘状態になって いたら、米国は黒海に空母機動艦隊を送りこん で、ウクライナを軍事的に支援することができた はずだ」

米海軍を退役した提督が私にこう言った。中国 による尖閣諸島侵略という危険を実感している日 本にとって、注目するべき発言である。

日本の横須賀を基地にしている米第7艦隊は、 日本周辺の安定と秩序を維持することを重要な任 務の一つとしている。従って中国軍が尖閣諸島に 侵略し、日本との戦闘が起きた場合、日米安保条 約のもとに軍事介入する緊急計画を持っている。 計画の内容は公表されていないが、関係者によれ ば、中国の海上艦艇やミサイルに対する対抗措置 が中心になっているという。

米第7艦隊や米太平洋空軍は、中国に対して実 際にミサイルや弾丸を発射することはない。だ が、海上艦艇の動きなど中国の軍事行動に関する 情報のすべてを日本側に伝えて、日本の戦闘を助 けることになっている。日本と中国が戦闘状態に 入った場合、第7艦隊の旗艦「ブルーリッジ」が 紛争地域に出動し、あらゆる情報を収拾分析し、 日本側に伝達することになる。

私は何回も「ブルーリッジ」に同乗して、その 活動を取材したことがある。デッキには大砲やミ サイル発射装置の代わりに、何種類もの大きな レーダーがずらりと並んでいる。「ブルーリッ ジ」は、情報収集のための最先端の電子兵器を搭 載しているため、「電子攻撃艦」と呼ばれてい る。

第7艦隊は情報を収拾して日本を助けるだけで はない。最新鋭の電子戦闘機を送りこんで、中国 側のレーダーを攪乱し、海上艦艇やミサイルに指 令を出す中国の衛星通信を妨害する。

数年前、大がかりな訓練を取材した際、同盟国 の代表として参加していた日本の海上自衛隊の担 当者に会った。「ブルーリッジ」の戦闘指令室は ホワイトハウスや横田基地の日米合同戦闘セン ターに直結している。

中国が尖閣諸島を侵略し、日本が領土防衛のた めの緊急対応措置を発動して戦闘を始めることに なれば、いかに弱気なオバマ大統領でも日本周辺 の安全と秩序を守るため、できるかぎりの行動を とらねばならないはずだ。冒頭の米海軍元提督の 発言は、はっきりとそのことを示唆している。

日本に必要なのは、中国の侵略に対して米国が どこまで助けてくれるかと考える前に、自らの力 で自らの領土を守るために戦うという政治的決断 を行うことだ。

安倍晋三政権がやるべきは、靖国参拝で強気の 姿勢を示すだけではない。実際に中国の侵略が行 われた場合、陸・海・空自衛隊をどう動かし、い かに戦い、勝つかという緊急戦略を作り、国民の 同意を得ておくことである。

■日高義樹(ひだか・よしき) 1935年、 名古屋市生まれ。東京大学英文科卒。59年NH Kに入局し、ワシントン支局長、理事待遇アメリ カ総局長を歴任。退職後、ハーバード大学客員教 授・同大諮問委員を経て、現在はハドソン研究所 首席研究員、全米商工会議所会長顧問。