【阿比留瑠比の極言御免】

北朝鮮がいつ弾道ミサイルを発射するか分から ず、国民の不安と緊張が高まる中で、安倍晋三首 相が小泉純一郎内閣の官房副長官だった約10年 前のあるエピソードを思い出した。首相が官邸内 で日本の安全保障上の課題と懸念事項について議 論しようとしたところ、先輩議員がこう言って話 を打ち切ったという。

「そういう話をしたら、そんな事態が本当に起 きてしまうじゃないか」

砂に頭を突っ込んで、身に迫る危険を見ないよ うにして安心する「ダチョウの平和」(自民党の 石破茂幹事長)の典型例だろう。

その後、日本を取り巻く国際環境は格段に厳し さを増した。自民党は当時に比べ現実を直視し、 「今そこにある危機」(首相)と向き合うように なっている。

ところが、十年一日の如く変わらないのが与 党・公明党だ。山口那津男代表は9日の記者会見 で、安倍政権が目指す憲法改正についてこう述べ た。

「間もない選挙(次期参院選)の争点になるほ ど熟した議論になっていない。有権者の率直な感 じは、自分たちの生活や仕事にかかわる政策課題 について聞きたいということだろう」

「平和の党」を自任する公明党らしいが、ピン ト外れだ。憲法改正については自民党のほか、日 本維新の会もみんなの党も新党改革も掲げてい る。

参院選の結果と公明党の対応次第では、衆参両 院で憲法改正の発議に必要な3分の2以上の議席 が改憲勢力で占められる可能性は十分ある。これ ほど憲法改正の機運が高まったことは記憶にな い。今こそ率直に憲法を論じ、国民に問いかけず にどうするのか。

安倍首相は当面、公明党が嫌がる憲法9条など には触れず、改正発議要件を現行の3分の2から 2分の1に引き下げる96条改正に的を絞ってい る。その理由についてはこう語っている。

「例えば国民の70%が憲法を変えたいと思っ ていたとしても、3分の1ちょっとを超える国会 議員が反対すれば指一本触れることができないと いうのはおかしいだろう」(2月8日の衆院予算 委員会)

つまり、戦後ずっと国民から遠くかけ離れた存 在だった憲法を、国民自身の手に取り戻そうとい う話だ。にもかかわらず、山口氏は、安倍政権に よる憲法改正方針についてこんな嫌みすら述べて いる。

「順風満帆だからといっておごり高ぶってはい けない」(3月17日の自民党大会でのあいさ つ)

「内閣支持率が高いからといって、短兵急に進 めようとするとつまずく」(3月18日の講演)

それどころか、山口氏は党内から「96条だけ であれば改正していい」(漆原良夫国対委員長) と前向きな声が出ると、発言を控えるよう求める こともした。

このほか公明党は安倍首相が意欲を示す集団的 自衛権にかかわる政府解釈見直しにも、自衛隊を 国際基準に合わせて国防軍とすることにも反対し ている。アルジェリア人質事件の反省を反映した 在外邦人保護・救出のための自衛隊法改正に関 し、自衛隊の武器使用基準の緩和も否定した。

過去には、自民党が検討した敵国のミサイル基 地をたたくための長距離誘導技術研究も取りやめ させた。日本は今も、北朝鮮が弾道ミサイルを日 本に向けてセットしたとしても事実上、手も足も 出ないままだ。

結局、「平和の党」が与党としてやってきたこ ととは国際情勢に目をつむる「ダチョウの平和」 の死守だ。本来、責任を持って守るべき国民の生 命・財産をかえって危険にさらしてきただけでは ないかとすら思える。(政治部編集委員)