今回は前々回の記事でまとめさせていただきました、2019年1月に発表された 『自閉症とカルニチン:考えられる関連(Autism and carnitine: A possible link)』 という論文の要点のうち、以下の部分についての説明から始めさせて下さい
この部分です:
↓
・最近はSLC7Aというトランスポーターの異常との関連も示唆されている。このトランスポーターは血液脳関門(BBB)(*血液脳関門についてはこちらで少し触れさせていただいてます)に局在し、さまざまなアミノ酸を輸送するほか、カルニチンも輸送することができる。このトランスポーターの欠陥により、脳細胞へのカルチニンの輸送が障害される可能性がある。・・・ Ⓒ
※ⓒについて
この部分につきましては、引用元であるこちらの文献を見てみました。
――がっっ。
めちゃめちゃ難しかったのでございます
グーグル先生の訳のせいかもしれませんが(←あわわ・・・さんざんお世話になっておきながらなんて失礼なことを) いえ、内容が専門的すぎてあまりに難解でしたので、必要と思われます部分だけ何とか拾い読みして書き出してみます・・・。
↓
・血液脳関門(BBB)にのみ存在するL型アミノ酸トランスポーター1(LAT1)である溶質キャリアトランスポーター7a5(SLC7A5)は、脳の分子鎖アミノ酸(BCAA)を正常レベルに維持する上で重要な役割を果たしている。
(*BCAAは、ヒトではロイシン、イソロイシン、バリンの3種類を指し、いずれもヒトの体内では合成できない必須アミノ酸に分類されます)
・脳内のBCAAは、末梢血液からの絶え間ない供給に依存している。そのためマウスにおいて血液脳関門(BBB)の内皮細胞からSLC7A5を除去すると、脳内のBCAA、特にロイシンとイソロイシン濃度の低下が起こる。
・その結果、BBBからSLC7A5を除去されたマウスは自閉症的症状(感情的行動の変化や行動の柔軟性、長期記憶形成などの認知機能の障害)や運動協調性障害を示した。
・そのマウスの脳室内にロイシンとイソロイシンの注入を3週間行うと、ロイシンとイソロイシンの脳内レベルは正常化し、神経行動異常は有意に改善した。
・ヒトにおいても、SLC7A5遺伝子にホモ接合変異を有する自閉症患者が特定されている。
・ASDの遺伝的構造は非常に複雑で、単一の遺伝子の変異がASD患者のかなりの割合を占めることはほとんどない。そのような遺伝的異質性にもかかわらず、ASDの症状はそれほど多様ではない。実際、神経障害に関係する多数の遺伝子は、少数の生物学的経路に収束する。
※余談ですが:
上で出てまいりますLAT1(SLC7A5)というトランスポーターは、最近別の分野で注目を浴びているようです。
↓
・血液脳関門(BBB)にのみ存在するL型アミノ酸トランスポーター1(LAT1)である溶質キャリアトランスポーター7a5(SLC7A5)は、脳の分子鎖アミノ酸(BCAA)を正常レベルに維持する上で重要な役割を果たしている。
(*BCAAは、ヒトではロイシン、イソロイシン、バリンの3種類を指し、いずれもヒトの体内では合成できない必須アミノ酸に分類されます)
・脳内のBCAAは、末梢血液からの絶え間ない供給に依存している。そのためマウスにおいて血液脳関門(BBB)の内皮細胞からSLC7A5を除去すると、脳内のBCAA、特にロイシンとイソロイシン濃度の低下が起こる。
・その結果、BBBからSLC7A5を除去されたマウスは自閉症的症状(感情的行動の変化や行動の柔軟性、長期記憶形成などの認知機能の障害)や運動協調性障害を示した。
・そのマウスの脳室内にロイシンとイソロイシンの注入を3週間行うと、ロイシンとイソロイシンの脳内レベルは正常化し、神経行動異常は有意に改善した。
・ヒトにおいても、SLC7A5遺伝子にホモ接合変異を有する自閉症患者が特定されている。
・ASDの遺伝的構造は非常に複雑で、単一の遺伝子の変異がASD患者のかなりの割合を占めることはほとんどない。そのような遺伝的異質性にもかかわらず、ASDの症状はそれほど多様ではない。実際、神経障害に関係する多数の遺伝子は、少数の生物学的経路に収束する。
※余談ですが:
上で出てまいりますLAT1(SLC7A5)というトランスポーターは、最近別の分野で注目を浴びているようです。
といいますのも、このLAT1(SLC7A5)は正常細胞にはほとんど存在しませんが、細胞が急激に増殖しようとする時に発現が亢進し、アミノ酸を盛んに取り込むことで爆発的な細胞増殖を起こすそうです。
その代表が癌細胞です。
そのため、このLAT1(SLC7A5)を選択的に阻害することで、癌細胞における必須アミノ酸の取り込みを阻害して癌細胞を細胞死に追い込む薬が開発されているのだとか。
LAT1(SLC7A5)は癌細胞だけでなく、免疫細胞等の増殖が盛んな細胞でも発現が確認されているそうです。
特に、関節リウマチ、1型糖尿病、多発性硬化症などに代表される自己免疫疾患において重要な役割を果たすことが報告されており、これらの疾患に対するLAT1阻害剤の開発が進んでいるのですって。
(*意外な分野で研究が進んでいるようでビックリしました)
その代表が癌細胞です。
そのため、このLAT1(SLC7A5)を選択的に阻害することで、癌細胞における必須アミノ酸の取り込みを阻害して癌細胞を細胞死に追い込む薬が開発されているのだとか。
LAT1(SLC7A5)は癌細胞だけでなく、免疫細胞等の増殖が盛んな細胞でも発現が確認されているそうです。
特に、関節リウマチ、1型糖尿病、多発性硬化症などに代表される自己免疫疾患において重要な役割を果たすことが報告されており、これらの疾患に対するLAT1阻害剤の開発が進んでいるのですって。
(*意外な分野で研究が進んでいるようでビックリしました)
――上の書き出しをお読みいただくとお分かりになりますように、この論文には、
"SLC7A5というトランスポーターがカルニチンを輸送するので、このトランスポーターの欠損により脳内カルニチンが欠乏する"
と書かれているどころか、
カルニチンの「カ」の字も出てきておりません
"SLC7A5というトランスポーターがカルニチンを輸送するので、このトランスポーターの欠損により脳内カルニチンが欠乏する"
と書かれているどころか、
カルニチンの「カ」の字も出てきておりません
ではいったいⓒの部分はどういうことなのでしょうか・・・
(無理矢理に推測するなら、論文中では触れられていないけれど、後からこのSLC7A5というトランスポーターがカルニチンも輸送することが分かり、おそらくカルニチンの脳内輸送にも障害があるはずだ、ってこと・・・??)
そんなわけで、SLC7A5というトランスポーターと脳内のカルニチン欠乏の関係ははっきりとは分かりませんでしたが、代わりに重要なことを知りました。
それは最後のこの赤字の部分です。
↓
”ASDの遺伝的構造は非常に複雑で、単一の遺伝子の変異がASD患者のかなりの割合を占めることはほとんどない。そのような遺伝的異質性にもかかわらず、ASDの症状はそれほど多様ではない。実際、神経障害に関係する多数の遺伝子は、少数の生物学的経路に収束する。”
これはつまり、
ASD患者に共通して認められる遺伝子異常は見つかっていない。
ASDでは多種多様で複雑な遺伝子変異が認められるにもかかわらず、症状は比較的類似している。
それは、さまざまな遺伝子変異が直接的に引き起こす異常は多岐にわたるが、最終的にはある特定の障害を引き起こすことへと結びついているからである。
ということを意味していると思われます。
たとえば、こちらの 『Clinical and Molecular Characteristics of Mitochondrial Dysfunction in Autism Spectrum Disorder(自閉症スペクトラム障害におけるミトコンドリア機能障害の臨床的および分子的特徴)』という論文には、
”染色体異常、ミトコンドリアDNA変異、大規模な欠失、ミトコンドリア核遺伝子と非ミトコンドリア核遺伝子の両方の変異など、多くの遺伝的異常がASDのミトコンドリア機能障害に関連している。”
とはっきりと書かれており、その例として
”ASDの一部の子どもたちの消化管ではクロストリジウム属菌という腸内細菌が過剰に繁殖している。そしてそれらによって過剰産生されるプロピオン酸(PPA)によってミトコンドリアの機能障害が引き起こされる可能性がある。”
と記載されています。
ここに出てきますプロピオン酸(PPA)・・・
そういえばこちらの⑭前編の記事でも出てきておりましたが、
それは最後のこの赤字の部分です。
↓
”ASDの遺伝的構造は非常に複雑で、単一の遺伝子の変異がASD患者のかなりの割合を占めることはほとんどない。そのような遺伝的異質性にもかかわらず、ASDの症状はそれほど多様ではない。実際、神経障害に関係する多数の遺伝子は、少数の生物学的経路に収束する。”
これはつまり、
ASD患者に共通して認められる遺伝子異常は見つかっていない。
ASDでは多種多様で複雑な遺伝子変異が認められるにもかかわらず、症状は比較的類似している。
それは、さまざまな遺伝子変異が直接的に引き起こす異常は多岐にわたるが、最終的にはある特定の障害を引き起こすことへと結びついているからである。
ということを意味していると思われます。
たとえば、こちらの 『Clinical and Molecular Characteristics of Mitochondrial Dysfunction in Autism Spectrum Disorder(自閉症スペクトラム障害におけるミトコンドリア機能障害の臨床的および分子的特徴)』という論文には、
”染色体異常、ミトコンドリアDNA変異、大規模な欠失、ミトコンドリア核遺伝子と非ミトコンドリア核遺伝子の両方の変異など、多くの遺伝的異常がASDのミトコンドリア機能障害に関連している。”
とはっきりと書かれており、その例として
”ASDの一部の子どもたちの消化管ではクロストリジウム属菌という腸内細菌が過剰に繁殖している。そしてそれらによって過剰産生されるプロピオン酸(PPA)によってミトコンドリアの機能障害が引き起こされる可能性がある。”
と記載されています。
ここに出てきますプロピオン酸(PPA)・・・
そういえばこちらの⑭前編の記事でも出てきておりましたが、
ラットの脳室内に注入することで、ASD様の症状を30分間引き起こすことが可能という、あの物質(有機酸の一種)ではありませんか
その⑭の記事中のクエン酸サイクルの図の右下の方にも、青字でしっかりと「腸内細菌由来のプロピオン酸」と書いてあるではありませんか
(*私が書いたくせに忘れとる)
つまり、腸内細菌叢の異常がASD発症または症状増悪の一因となる可能性がある、ということのようです。
(ただ、ASDなど発達障害児に多い消化管機能障害が腸内細菌叢の乱れの原因なのか結果なのかまでは、引用文献を読めてないので分かりません。また機会がありましたら・・・)
(ただ、ASDなど発達障害児に多い消化管機能障害が腸内細菌叢の乱れの原因なのか結果なのかまでは、引用文献を読めてないので分かりません。また機会がありましたら・・・)
カルニチン欠乏とは関係のない、今回出てきたSLC7A5というトランスポーターの異常というまだ確立されていない疾患であれ、
腸内細菌の乱れが原因であれ、
最終的にはミトコンドリアの機能異常から細胞レベルでのエネルギー代謝障害を引き起こすことによって、脳の神経細胞がダメージを受け、正常に機能できなくなることがASD(そしてADHDも)の発症に関与している可能性がある
ということが現時点で判明している結論なのかもしれません。
ところで・・・
以前も紹介させていただきましたように、娘の場合、血中カルニチン分画の検査は以下のような結果でした。
○遊離カルニチン:16.0μmol/L ↓
ところで・・・
以前も紹介させていただきましたように、娘の場合、血中カルニチン分画の検査は以下のような結果でした。
○遊離カルニチン:16.0μmol/L ↓
(正常:36.0~74.0、<20.0だと明らかな欠乏症)
○アシルカルニチン:6.8μmol/L
○アシルカルニチン:6.8μmol/L
(正常:6.0~23.0、≧20だと明らかな異常)
○アシルカルニチン/遊離カルニチン比:0.425 ↑
(正常:0.25以下、>0.4の場合明らかな異常)
○アシルカルニチン/遊離カルニチン比:0.425 ↑
(正常:0.25以下、>0.4の場合明らかな異常)
これまでに学んできたことから推測しますと、このデータの解釈は
①もともとカルニチン欠乏があるものの(食事・吸収・生合成・排泄の異常で)、何とかアシルカルニチン(有害)は処理できている
②もともとはカルニチン欠乏はないが(食事・吸収・生合成・排泄は正常)、代謝障害などミトコンドリアの機能異常により過剰に産生されるアシルカルニチン(有毒)を処理するために消費され、結果的にカルニチン欠乏に陥っている
③上の両方
の3つの可能性が考えられるかと思います。
素人の私は、
「もし②なら、遊離カルニチンがこれだけ低値になるくらいなら、アシルカルニチンはこんなに十分低くはならず、20ギリギリとかのはずでは」
「①だとすると、本来はたとえば30くらいのごく軽度の欠乏なのに、アシルカルニチンを処理するために消費されて16.0まで少なくなってるのかな それにしてはアシルカルニチンが十分低すぎるけど」
③上の両方
の3つの可能性が考えられるかと思います。
素人の私は、
「もし②なら、遊離カルニチンがこれだけ低値になるくらいなら、アシルカルニチンはこんなに十分低くはならず、20ギリギリとかのはずでは」
「①だとすると、本来はたとえば30くらいのごく軽度の欠乏なのに、アシルカルニチンを処理するために消費されて16.0まで少なくなってるのかな それにしてはアシルカルニチンが十分低すぎるけど」
などあれこれ考えてしまうわけですが、あくまでも勝手な推測でしかありません
ただ、アシルカルニチン/遊離カルニチン比が>0.4 とわずかではありますが異常を示しておりますことから、⑭前編の記事を踏まえますと、
ミトコンドリアにおける異常な脂肪酸代謝の存在が強く疑われる
ことになります。
脂肪酸代謝異常。
脂肪酸代謝。
脂肪酸――。
これまで「ぜったい娘には関係ないわ~」とあまり深く考えてこなかった私ですが、今あらためて考えていて、ふとあることを思い出しました。
そういえば私の母校(大学)で、脂肪酸代謝の研究をしてた教室があったではないの
大学を離れてはや20と○年、今の今まですっっっっっっかり忘れておりました
ただ、アシルカルニチン/遊離カルニチン比が>0.4 とわずかではありますが異常を示しておりますことから、⑭前編の記事を踏まえますと、
ミトコンドリアにおける異常な脂肪酸代謝の存在が強く疑われる
ことになります。
脂肪酸代謝異常。
脂肪酸代謝。
脂肪酸――。
これまで「ぜったい娘には関係ないわ~」とあまり深く考えてこなかった私ですが、今あらためて考えていて、ふとあることを思い出しました。
そういえば私の母校(大学)で、脂肪酸代謝の研究をしてた教室があったではないの
大学を離れてはや20と○年、今の今まですっっっっっっかり忘れておりました
そして、まだ同級生が研究室に残っていることを思い出しました私は、早速連絡を取ってみることにしたのでした
(*何で今まで思い出さなかったのか・・・自分でも唖然としております)