どこかで聞いたことのあるようなメロディがちゃらちゃら流れて、今日の主人公が登場した。綺麗に笑いながら、綺麗なドレスに身を包まれて。おめでとう、ありがとう、綺麗よ、本当?ありきたりな言葉をいう周りのやつらにも笑顔で声を返していく彼女はそりゃ、もうとっておきに綺麗だった。正装して隣に座る土方も目を奪われるほど。
「オイオイ、土方さん、あんた人の花嫁に見ほれていいんですかィ。」
「バッ、おま、見ほれてなんかねぇ!」
「意地はりなさんなムッツリ土方死ね」
「総悟ォォォォォ!!!」
うるせぇお前らァァァ!とこれまた正装している近藤さんが叫んだが、多分そっちの方がうるさかった。本日の主人公に目をむけると、怒ることなく、いや、逆に慈しむかのような視線をこっちに向けていた。何でィ、その懐かしむような目は。ついこの間まで、この中で一緒に戯れていただろう彼女の顔が、どうしてか大人びて見える。俺が見てなかったたった数日の間に、こんなにも表情が成長してしまうものなのか。誰のおかげか、なんて知りたくもないし、もしかしたらその成長は俺が気づかなかっただけで、ずいぶんと前から始まっていたのかもしれない。さわさわと協会に送られる太陽の暖かい日差しをうけると、彼女は真っ赤なじゅうたんをゆっくりゆっくり歩き始めた。その目指す先にいるのは、俺じゃないんだ。きっと何よりも美しく、きっと何よりもいとおしい時間を共有する権利は、俺にはあたえられなかった。ただ、それだけのことだとこっそり自嘲すれば、俺を通り過ぎる花嫁が一瞬だけ、これからの彼女の人生を物語ったような微笑を向けた気がした。
幸せか。そりゃ、よかった。
たとえ、与えたのが俺じゃないとしても。
(総悟片思い)
テレビの向こうの女は愛する男を思って浜辺に座っていた。シリアスな雰囲気で遠くを見つめながら、なんか、何があったかは知らないけどね、初めて見るしこのドラマ。オレンジ色の夕焼け。走馬灯でかける恋人の笑顔。「愛してるのに・・・そんなぁっ」え、ないない。この子ひとりで泣いてるよ。浜辺で一人で泣いてるよ。ええええ、ないない。っていうか、こんなに近くにこんな綺麗な砂浜ないって。「あたしとタクマさんが兄妹だなんてっ・・・」。マジでか。本当なのかオイ、タクマって誰だよ。あ、誰か来た「タクマさん!」こいつかタクマ。なかなかイケメンだなオイ。「どうしたんだ、ともこ」「もう、愛している気持ちが憎悪に変わってしまったの」・・・?ちょ、高校生がそんな重い言葉使うんじゃねェェェ!!主人公の真剣そうな表情に、恋人が戸惑ってる。引いてんじゃねぇの、もしかして。いや、ないか。「ともこ・・・待ってくれ!」「いや、だめよ・・・あなたは兄さんなんだから!!」マジでかアアアア。ズジャジャジャーン・・・。メロディ暗いなオイイイイイイ。ありえないありえないズジャジャジャジャーン・・・。いやだから、暗いって!オイタクマお前まで泣くなアア!ちょっ、ヤバイこれベタすぎ!笑える!
「アハハハ!」
「なんでだお前、ここ笑いの要素ない場面だぞオイコラ」
「ヤバイうける!アハハ!」
「不陰気乱すなオイコラ」
「アハハねぇ、トシ、ともこの顔見て!ひどいわアハハハ」
「おま、ともこの気持ちもうちょっと考えろコラ・・ズズッ」
「アハハこれで感動する人いるのかなあ、トシ。・・・・トシ?」
「んだよ・・・ズズッ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・いや、ちげぇから、これ。別に泣いてるとかじゃないから、ありえねぇし。これ、アレ、花粉症・・ううっ」
「・・・・・・・・・・・・はい、ティッシュ」
「いや、別にティッシュとかいらねぇけど、花粉症悪化したらいけねぇもんな、うん、ありが・・・・ううぅっ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
大丈夫だよ、トシ。昼ドラみたいな展開そうそうないからね。
(日常的なかんじ)(ていうか昼ドラファンの人すみませんでしたァァァ)(土方夢)