喫煙リスクの解釈
新山手病院循環器禁煙外来 沖本孝雄
人は生きている以上、病気になる危険性(リスク)がゼロではないが、いわゆる健康人は普段はあまりそれを気にせず暮らしている。喫煙に関していえば、喫煙者10万人のうちその生涯のどこかで例えば肺がんになる人はせいぜい数10人といったところではないだろうか(絶対リスク)。それは確率的には極めて小さく、喫煙者自身は自分が肺がん患者の1人になるとは決して思わないだろう。一方、同じバックグラウンドを持つ非喫煙者10万人(といってもその設定には多くの困難が伴う)について調査し、肺がんになった人が数人だったとすると、喫煙者は非喫煙者に比べ10数倍肺がんになるリスクが高いと結論される(相対リスク)。絶対リスク、相対リスクのいずれを重んじるかは、評価法の信憑性にもよるが、喫煙者、非喫煙者の別、価値観、人生観などにも左右される。禁煙を説く医師は相対リスクを問題視する立場に立つが、喫煙者は絶対リスクの低さに頼りがちだ(自分にひいき目なのは当然)。これほど疫学研究、医師個人の経験、有名人の病気に関する報道などで喫煙と疾患の関連性が日常的に示唆されるにもかかわらず、一般的にはなお喫煙者が後を絶たない現実の背景には、絶対リスクの低さがあると思う。もっとも、喫煙が「直ちに健康に影響を及ぼすものではない」という感覚(確かにそうだろう!)の方が喫煙習慣の維持により大きく貢献するだろうが。15年前の世界禁煙デーの標語には、Don’t be duped―騙されてはならない、とある。誰が、誰を騙すのか、じっくり考えたい。