なんてことない思い出話をひとつ置いておきます。
なんか急に思いだして、これ結構いい話だなあと思ったので。
突然ですが、いい高校大学を出てさあ就職だとなった時、ひとは何を基準に職業を選ぶでしょうね?
特に男性は、将来安定した家庭を持つためにも、年収の高い一部上場の
ホワイト企業を目指すのが普通、ではありましょう。
アート系とか起業するとかとくにそういう目標がなければ。
さてここからは娘から聞いた話になります。
それも、神奈川の大学に入ることが決まり、引っ越し業者を決めて家からお引越ししたその日の話。
だからずいぶん前のこと。
彼女は相模原の学生マンションに、「トラックを持つ便利屋さん」に頼んで
格安でお引越しを頼みました。
当時から、業者選び、料金、最低限持っていくもの、何でも自分で決める子でした。
何でも一般の引っ越し業者はどこもココも高すぎるとのことで
ホントにこのトラックで運べるの?というような小さめのトラックに、
バラしたIKEAの家具をのっけて、助手席に乗って出発しました。
私たちは手伝うために、あとからうちの車でおいかけることに。
その車中で聞いたという身の上話をかいつまんでご紹介します。
「ずっと引っ越しやさんをしてるんですか?」(若いしひとりきりだし大丈夫かなと思ったとか)
「いや、大学出てすぐにSホールディングに就職しました」
「S社!大企業じゃないですか」と娘。
「僕も内定が出た時は嬉しかったし両親も喜んでくれたんですよ。
でもね、通勤しているうちに、僕の人生これでいいのかなって疑問になって」
「どんなところが?」
「一応一流企業だし収入もいいけれど、していることと言ったら
色付きの砂糖水やアルコール飲料を、高い広告費を使っておしゃれなパッケージで売ってるだけですよね。
お酒は時に人を破滅させるし、色付きの砂糖水なんて一生をかけて人に飲ませるもんでもない。
それを売り続ける人生って、中身考えたら意味ないんじゃないかって」
「うーん、そう言われたら…… じゃあ意味のある人生って……」
「普通そこまで考えないですよね。でも僕は考えずにいられなかったし、なんかたまらなくなったんです。
もっとこう、収入は安くてもいいから、人の役に立つ仕事がしたいって」
「それで便利屋に?」
「きっかけがあったんですよ。就職してすぐ住んだマンションの隣が一人暮らしのお年寄りの女性で
毎日のゴミ出しにも苦労してるほど体が弱くて、家の中はもうゴミだらけなのって。
でも片付ける気力もないのよって、朝ゴミ出しで嘆いてたんです。
で、僕でよければ力お貸ししましょうかって言ったら、あらそんなこと言ってくださる人がいるなんて!
ってすごく喜ばれてね。
粗大ごみの搬出から始まって、ゴミの分別、整理、曜日ごとにまとめてきちんと出して部屋も掃除して、
ってこまごま手伝ってあげたら、家がすっきり綺麗になって。
こんなうれしいこと初めてよ、ありがとうありがとうって、手を握って涙ぐむんですよ」
「その時は無料で?」
「もちろん。そしたら、あなたみたいに力持ちで優しい人がもっといたら世の中はもっと暮らしやすくなるのにって言われて。
あなた、そういうお仕事始めたらいいじゃない。優しくって働き者で、お話も楽しいし。
絶対沢山の人を幸せにできるわって。
そういわれて、ピンと来たんですよ。ああこれだ、砂糖水売るよりこちらの方がずっと人の役に立つ。
この仕事で生きていこうって決めて、会社辞めちゃったんです」
「ずいぶん思い切ったことを……ご両親、反対したでしょう」
「そりゃもうね、何考えてるんだって。何のために一流大学行ったんだって激怒。
で、砂糖水売りやるためじゃないことはわかりました、といってから、絶縁状態。
それからは、人助けになることなら何でもやってますよ。掃除もペットの世話も、こうして小規模な引っ越しも」
「仕事沢山来ますか」
「他より安くしてますからね」
「確かにお引越しとしては破格の値段でビックリしました。そうかあ。なんか、考えさせられるなあ。今充実してますか」
「ええ、毎日楽しいですよ。たくさんのひとに喜んでもらえて」
その後、彼は荷物の搬入まで一人でやり遂げてくれて、ビックリするほど力持ちだったそう。
なんか青空みたいに気持ちのいい人だったとか。
私みたいな俗人は、学歴を考えれば(確かその彼はT大卒)なんてもったいないと思っちゃうけど
一度きりの人生、何をして何を生きがいに生きるか、を考えれば、彼は俗人の価値観にとらわれない
とても自由で真摯な選択をしたと思うのです。
娘はしきりに「マジで尊敬するわー」と言ってたけれど、
私が親だったら……
アホの俗人だから、「あんたなんのためにT大に」とは、
……いっちゃうだろうな、多分。てへ。
でも話を聞けば最後には、きっと、自慢の息子!に……
なるだろうな。
っつうか、そういう母に、自分はなりたい。
(おい66歳、母業は終わっておろうが)
