春の日差しの中で眠るねこは

世界の中心にいる

窓の外ではハナミズキが咲き始め

ハナカイドウは散り始めている

うぐいすの鳴き声にもねこは目を覚まさない

きっとシャボン玉が飛び散るような虹色の夢を見ている

ときどきひげをぴくぴくさせながら

ゆっくり上下するおなかは

世界の中心にある

そこから人々や様々な命のすむ世界は広がり

寄せてはかえず海の波うちぎわまで

ねこの眠りはひろがっている

海の中ではいるかがたゆたいながら夢を見ている

花咲く庭の窓辺で眠るねこの夢を

海辺の家では午後のコーヒーに砂糖を入れるか入れないか

ミルクを入れるか入れないか

夫婦が笑いながらはなしあっている

そこにも眠るねこがいる

和毛は午後の日差しに輝いている

世界は繋がっている

幸せなねこの眠りで

教会の鐘の音もねこを起こさない

それはねこの夢が世界を一つにしているから

人々はうしなってはならない

この世界を

上下するねこのおなかからたちのぼるささやかな幸福のかおりのために