よあけにねこがしんだ

 

まあるいかおとまあるいおめめ

なんかたぬきかアザラシみたいな素っ頓狂なかお

短い手足太いしっぽ

のんびりと平和な性格

そんな子が18年も生きて

もうダメみたいですと最近言いだした

 

よろよろ歩いていたのが立ち上がれなくなり

そこらじゅうに粗相をするようになり

夜中に大声で鳴きつづける

呼吸の発作を起こしてゼイゼイと口を開け

悲鳴のような声を出す

 

わたしと夫は交代で夜通し看病した

動かない後ろ足を引きずって徘徊してはものにぶつかる

もうなにも食べない なにも飲まない

 

そんな子の呼吸が ある夜安らかになり

飲まなかった水を飲み始め

食べなかったご飯をがつがつと食べて

わたしのとなりのざぶとんでひざに甘えてきた

光を失った目はキラキラと輝きを取り戻した

おもいきりなでてなでてキスをすると

にゃあ とうれしそうに鳴いた

手を休めるとみじかいまえあしでちょんちょんとなでなでのさいそく

そのうちしずかなねいきをたてはじめた

 

もうだいじょうぶと寝たのが午前二時

夫に起こされたのが午前五時

 

「たんたんがね……」

 

走って見に行ったパソコン部屋の机の下で

まるがおのねこは横倒しになって目を見開いてた

 

たんたん たんたん ママだよ たんたん おきて

 

呼んでも動かないからだ

たんたんは体を残してとおくへいっていた

 

あんなにげんきそうにしたのは

あなたのいのちのさいごのほのおだったの

おもいのすべてをかたむけてくれたの

 

それから呼吸がしにくくなり

心臓が痛くなり

からだがかちかちになった

これは

かなしみだ

とまらないなみだとともに

からだ全体が悲しんでいる

ならばしずもう

なみだを流すのに何の遠慮もいらない

 

あたまがいたくなるほど泣いた

 

そこらじゅうにもらすおしっこでへやじゅうがくさくなろうと

クッションの上にうんこが転がっていようと

わたしはあなたにいきていてほしかった

やるだけやったとしても

長寿だったとしても

わたしはあなたにいきていてほしかった

ほしかったんだ

 

葬儀を終えてかえった家はがらんとして

わたしはまた呼吸がしにくくなった

たんたんのいない家の空気は薄い

心臓が痛い

おなかがいたい

かなしもう、わたし

このかなしみからは逃げないでいよう

 

いつかどこかから そらのたかいたかい雲の上から

もうだいじょうぶだよ

あんしんしてねむってねと あなたのこえがきこえるまで