土曜の夜と日曜の朝(kato takuro) -3ページ目

猫①

朝起きると、ヒゲが生えていた。ぼくは思わずいつものように顔をしかめる。おしりのあたりで、なにかが揺れていた。シッポだ。ゆっくりと、頭に手をやる。やはりそうだ。ミミも立っている。その手には、ニクキュウ。どうやら猫になったらしい。


体に覆いかぶさった掛け布団から、細い腕と体をくねくねさせながら抜け出し、ぼくはそのままベッドの下にごと、っと落ちた。素早く体勢を整える。もう一度自分の毛深い皮膚、ニクキュウ、目の下にちらちら気にかかるヒゲに、目をキョロキョロと動かした。
一歩一歩、慣れない手足のバランスに戸惑いながらも、ぼくは部屋を出てすぐの洗面台へと向かい、ゴミ箱や半開きの引き出しを辿りながら、恐る恐る鏡を覗いた。

(うん、猫だな、これは。しかし、どうしてしまったのだろう。一体。どう見ても…うん、猫だな)

鏡の前をくるくると右に左に回転しながら、色んな角度から自分の猫の姿を凝視した。

(猫…だな)

ハッピーエンド

青色の天井は橙色を通り越した後、一躍にして黒色と微かなつぶつぶへと変化した。そんな変化のことなど気にもせず、僕は夕飯を済ませ、インスタントコーヒーをコップに注ぎ作った。布団の中には彼女が横になり、手をのばし、腰掛ける僕の手を探り当てた。僕は100度近いコーヒーをゆっくりと冷ましながら何も飾られてない白い壁を見つめた。少しずつ、冷めるとそのまま一気にコーヒーを胃の中に注ぎ込んだ。彼女は体を僕の方へ向け、目を閉じて布団から姿を見せる、少しだけ疲れたような愛らしい手が僕を繋いでいた。
君が僕の元から離れる日はもうすぐやってくるだろう。そんな時は後腐れなど考えず、去ってくれれば良いと思う。
夢うつつな彼女は意味の無い言葉を発し、僕の手を一層強く握りしめた。
それが、僕にとってのハッピーエンドなんだ。だから、また、

おやすみ

COnnection REminds me


朝起きて彼女は8畳程の部屋の壁に加えられた窓縁に手をかけた。夏が終わり、少し冷たさを増した風を感じた。薄い白シャツに照らされた朝日を見ながら彼女は煙草に火をつけ、アパート上空に伸びきった飛行機雲を見上げた。「飛行機雲…」枕元に転がった携帯電話を拾いあげ、小さなレンズを通して再度空を見上げ、シャッターを切った。
数分後、まだ彼女は煙草を吸い続けていたが、彼からの着信メロディが鳴っていることに気付き、電話をとった。「飛行機雲…きれいだね。写真、ありがとう。今何してたの」
「ねぇ、花火しよ」

彼は電話ボックス前で待っていた。片手にはカメラと大きめのビニール袋に入れられた花火のセットを握っていた。彼女はそんな彼の姿を愛しく思い、彼女もまた片手にカメラを持っており、シャッターをきった。
電車に乗り、郊外のひっそりとした無人駅に2人は手を繋いで降りた。昼間はまだまだ夏の暑さが身にまとい、彼は長袖のシャツを捲って田舎道を進んだ。少し前で足早に歩く彼女をレンズ越しに思いながら。
草道を10分程歩くと、そこには古い館があり、彼女たちはその館が作り出す影に身をまかせながら互いにシャッターをきりあった。そこには確かに2人だけの空間が存在し、光の屈折によって色彩は変化し、彼女たちもそれに合わせて変化し合った。『不思議の国のアリス』のルイス・キャロルが少女を求めてカメラを手にしたのと同じように、彼女たちも互いに求め合い、レンズを通して互いを表現し、認め合っていた。

帰りの電車内、彼は彼女に目を向けた。彼女は夕陽の眩しさに照らされ眠り、彼の肩に夢の続きを任せ、彼女は小さな声でささやいた。


「ねぇ…、また花火しよ。…このまま夢を見続けたら君とも離れなくていいのかな。ねぇ…知ってるかな。……………人生はね、ダンスなんだよ…………