この前に 32話が上がってます。






N side





「ひっで~の。そんなの智くんにかなうわけないじゃん。」




遠くで聞こえるのは
翔さんの声なのに、なんだかすごく




「でもさ、そんなの言えるわけねーじゃん?」



ヒソヒソと声を落とした翔さんの声色に、少しだけ不安になった。

また大野さん?




「きゅぅん。」
「ん? 起きた?」




あれ?



今オレ、鳴いたよね。



「きゅん」
「だから、女なんかいないんだって。わんこだって。な? ほら、お前も鳴いてみてくれよ。」




そう言ってオレに見せてきたのはスマホの画面で、その正面に書かれた文字は「姫宮」の二文字。



は?

ソレハ ダレですか?



「なっ、お願い」




片手で祈りのポーズを決めてる翔さんは
カッコよくオレに向かってウィンクをした。


はいはい。


夢の中の翔さんね。


もう慣れちゃいましたよ
このシチュエーション。




「きゅん!」
『くすくす。わんこ、おはよう。』
「きゅん!」



向こうから聞こえてくるのはオレの声。
何だか嬉しそうな声をしている。



「な? だから言ったろ?」




ありがとうと言ってるのか、翔さんはまた自分の顔の前でオレに向かった片手を縦に降った。

その後も翔さんは楽しそうにスマホに向かって話しかけている。





…まあ、オレとしたら嬉しいわけで。
だって、オレの前でこんなに楽しそうにしてる翔さん、夢の中では初めて見た気がする。





なんか、昔を思い出すなあ。

こうやってよく電話で話してたよね、オレたちも。

時間が経つのも忘れてさ。


そんで、いつの間にか寝ちゃってたこともある。だって翔さんの声って耳に気持ちいいんだもん。その声聞いてるとさ、まるで心さえも優しく包み込んでくれるって言うかさ。





ちょっとの間、二人のやり取りを聞いていると、翔さんの声はやっぱり気持ちよくて。思わず翔さんの太ももにオレの頭を乗っけた。


チラッと見上げるといつものオレに向けてくれる甘い笑顔で、オレの頭を撫でてくれた。




翔さんの心地いい安心感ある声。
そして、甘く包んでくれるように撫でられると、

脳内がふわふわと痺れてくる。


まぶたも重くなって
何度も瞬きを繰り返しているうちに
また、意識が遠くなっていく。




その意識の向こう
目の前が暗くなるその少し手前で聞こえてきたのは…



「俺が好きなのはニノだから。」



男らしくオレに告白している翔さんの声だった。








それから、何度も夢を見たけれど
一度もわんこにはなっていない。


あの日、夢の中の翔さんとオレは
一体どうなったんだろう。



現実世界の翔さんに相談したら
『そりゃくっついたに決まってんじゃん。』

なんて、軽くドヤられた。



なんで?




「なんでそんなこと翔さんがわかるの?」
「俺とカズがくっつかないはずないから。」
「それが理由?」
「そう。それ以外は断じてありえない。」
「くすくす。本当かなあ。」





笑って、冗談みたいに取り繕ったけど
きっとそうだろうなって、オレも思う。



あのスマホの向こうのオレの声、
翔さんと一緒にいる時にだけ出すオレの声だったもん。



向こうのオレと翔さん、
末永くお幸せに。




 

fin.








末永くお幸せに〜(*´д`*)ハァハァ



後ほど〜