N side








「え? それどういうこと?」




甘い時間の後は、翔さんの反省会が開かれた。議題は『わんこ和也 奪還計画』。

奪還?




「だからー、俺は夢の中の俺にカズを取られたくないわけ。だから現実世界の俺はお前を姫のようにどっぷり愛して愛して愛して」
「ちょっと待って。なんでそこで姫?オレが女だといいの?」
「・・・それは、ごめん。そんな意味じゃなくて。俺が騎士になってお前を守る…的な?」
「なにそれ、全然意味わかんない」
「マジで?」



わかんないよ。
なにその理由。



でも、




「とにかく、俺はカズのことを俺にさえも奪われたくない。」
「夢なのに?」
「夢でも、だよ。」






こっちの翔さんは、オレを諦めるどころか
奪われたくないとか言ってくれる。


初めて見たかも。


そんな必死な翔さんの姿を見ていたら、
自然と胸の内が暖かくなってきて
また、自分から抱きついていた。




「ありがとう。オレは翔さんのものよ。」
「ものとか、そんなんじゃなくて」
「わかってる。でも、夢の中でのオレは犬で、翔さんは『夢の中のオレ』を見つめてくれてる。だから安心して。」
「そんな俺の姿に惚れたりは」
「しないね。あ、」
「なにっ」
「ん?くすくす。 心の中ではありがとうって思ってるだけ。ほんと、傍から見てもオレって翔さんに好きになって貰えるだけの何かがあるとは思えなくて。」



翔さんが『それが理由?』って、真剣な目で見てくる。


理由…とは?





「カズが、夢の中で俺に甘えたいの?それとも、俺の本音が知りたいの?」
「は?なに? なんで?」




少し眉間に皺を寄せて考え込む翔さん。




「ゴメンだけど、俺の気持ちってカズにちゃんと届いてる?」
「届いてる。届いてる。え、怖い怖い。なに急に。」




あんなに優しく抱かれて
あんなに切なそうに射抜かれて
あんなに甘く囁かれてるのに


感じないはずがないよね。



「でも、『好きだって言って貰える何かがない』って感じてんだろ?なんで?」
「え。だってそうじゃん。無愛想だし。天邪鬼だし。」
「知ってる。」
「気が乗らないと、ずっとゲームだけしてる。」
「知ってる。」
「くすくす。ほら、こんなオレなのに。」
「そんなん、全部ひっくるめて好きだわ。」



翔さんは「好き」とは言わない。
じゃあそろそろ付き合いますか?みたいなノリで付き合うタイプでしょ?

じゃあ、好きって言葉は俺が無理やり言わせてるんじゃん。


オレが、わがままだから。




「無理して好きって言わなくても。」
「だァ!っから、なんでそーなんだよ、お前もニノも!」
「オレとオレ?」
「そ。この前も言われた。つっても最近つーか…。とにかくっ、そんなに変?俺がお前に好きとか言うのって」




興奮して怒ってるように見える翔さんは
目の前の俺のマグカップに口をつけて
「あちっ」と声を上げた。


イライラしてんなーー



「カズの中の俺ってそんななの?」
「や、だって言ってたじゃん。昔。友達の延長で付き合うって。」
「まぁ… 言ったことあるけど。」
「だから、翔さんがオレのために無理やり好きだって言ってんなら、申し訳ないなって。」
「俺はっ、…そりゃ昔はテレビでそう言ってたけど、そんなのテレビ用と言うか。今はマジでちゃんと好きだと伝えてるつもりよ?マジで伝わってねーの?」



あーー…
好きだなぁ。この表情。

怒りの感情を抑えて
少しだけ悲しそうなの。

翔さん、ゴメンだけど
オレはその表情を見て、
また心の中できゅんとしてる。







「感じてる。っていうか、今日は特に感じてた。ごめん。」



素直にそれは謝った。
こんなこと言うはずじゃなかったのに
翔さんを責めるようなこと。



「感じてくれてるのね?」
「そうだよ。じゃなかったら、あんなに早く弾けたりしない。オレ、あんなに気持ち良かったの…、初めてよ。」
「マジか…。」



あ、デレた。


鼻の下が少し伸びて
軽く鼻をすすった翔さんは
急にシャキンと、なで肩を伸ばした。



「いつでもまた姫みたいに抱いてやるよ。」
「カッコよ。」
「ぶはっ」




笑ったそばからまた真剣な表情をして
この人は本当にズルいよね、

何をしてたってカッコ良いんだもん。


また近づいた翔さんの唇に愛され
『そろそろ寝ますか』と、

甘美な笑顔でベッドを促された。












少し隙間のある、その真ん中で一緒に寝てみたい。
右向く?左向く?やーん、迷っちゃうー!(ご勝手に)





続きは
退勤後の17時です。