S side
「悪いね、忙しいのに来て貰って。」
「全然。翔さんに呼ばれるのは嬉しいから、いつでも呼んでよ。」
今日、呼び出したのは毎日忙しくしている松本潤。大河の主演だから、撮影には缶詰状態かと思いきや、空きの時間にわざわざうちに来てくれた。
カズの家でこの話は出来ないから。
「で? 翔さんがここに呼ぶなんてよっぽどの事なんじゃない?」
「まあね。あ、何飲む?」
「水、貰おうかな、常温の。俺、この後また撮影あるから。」
「は? じゃあ、カツラ、わざわざ取ってくれたの?」
「違うよ、CMの。大河は今日撮る分撮ってきたから。」
なるほどね、と安心し。
常温の……いや、ただ冷蔵庫に入れてない方のペットボトルの水を、松潤に渡す。
そして、今の俺とカズの状況を話した。
もちろん、夢の中の俺達のことも。
「翔さんさ、ニノのこと、『カズ』って呼んでたっけ。」
「ああ、そこは区別した方がいいかなって事で、呼び方を変えた。」
「ふ〜ん。いいね、なんか新鮮で。」
「そう?」
「うん。俺も呼んでみようかな、カズって。」
「やめとけやめとけ。松潤がカズって呼んだら、絶対ぇ相葉くんもカズって呼び出すじゃん。」
「ふふっ あそこの2人、仲良いもんね。」
「だろ? 」
そしたら、智くんだってふざけて呼び出すかもしれない。
この間の食事の時だって
カズは俺の隣りではなく智くんの隣りに座ってた。2人のその位置が、まるで当たり前かのように。
もう大丈夫だとはわかっていても
2人の間の空気感に、俺は今だに充てられる。
「それで、俺にどうしろと?」
「どーしろって言うか。…誰かいない?こんな時に助けてくれる人、もしくは経験者。」
「ふふふっ いないよ、そんなスーパーマンみたいな人。そんな人、俺にもいて欲しいくらいだよ 笑」
「だな。松潤も大変だよな。」
どんなに顔が広いとは言え、
俺達の周りにそんな経験者はいなくて。
「翔さんの友達で精神科医っていないの?」
「精神科?」
それは…
実際、俺も1度考えたことではある。
「うん。だって今のニノ、どう考えたって病んでるじゃん。」
「あ、やっぱそう?」
「翔さんの今の話を聞いてる感じだと、なんかそんな感じだけど。」
「第三者の目から見ればそーなるよな。でも、あまり病院には…」
「だよね。なら、カウンセリング的なやつは?」
「それも。……なんか、すげーナイーブな話になりそうだし。実際問題、俺達の関係を世間に知らせることは避けたい。」
四面楚歌か。
誰かに相談すれば
誰かに秘密が漏れる。
いくら俺達のスタッフが優秀だとは言え、
それは内々の問題だからであって、
その問題を外へ出せば、広がる。一気に。
「じゃあ、どうすんの。」
「だからお前を呼んだんじゃん。」
「…俺に出来ることなんて、あるかな。」
「智くんにさぁ、…この話をしたらどう思うかな。」
「大野さん?」
そう。
ニノが、俺の前に心を寄せていた相手。
「うん。だって今あの人に1番近いの、松潤だろ?」
「まあ、メンバーの中では…そうなるのかな。でも、翔さんだって大野さんと飲んでんじゃん。」
「それはそうだけど…。でも、智くんのいちばん深い所まで知ってんのって、俺らん中だと1番は松潤じゃね?」
俺に出来ないことがあるなら
それは、
智くんみたいに
ニノのわがままを聞いて癒してあげること。
さっきの夢の中のニノを見てよくわかった。
俺は、ニノを緊張させる存在なんだよ。
「大野さんに言って、どーなんの?」
「どーなるっていうか。……ニノの話を…聞いて欲しい。」
「おいー。病んでんの翔さんの方じゃねーの?きっとニノはそんなこと望まないし。それに何それ、『ニノの話を聞いて欲しい』って。また戻っちゃってんじゃん、昔の関係性に。」
「そんなこたねーけど。」
「なってる。ニノは、翔さんを選んだんだ。いい加減、二人の関係に大野さんを出すのはやめてあげなよ。」
そうは言われても。
智くんほど、俺がカズにしてあげられる事って、…何があったかな。
そもそも、カズが俺を好きで選んでくれた、と。
選ぶってことは、
カズの選ぶ相手は他にも居たってことだろ?
それが、智くん。
智くんだってカズの事が好きだった、って事で。もし俺がカズの相談相手を智くんにお願いしたとしたら、その後の二人の関係は……
はぁ…
それはダメだ。
松潤の言う通り、
俺は何を考えていたんだろう。
カズの問題を解決しようとして
それ以上に大きな問題を作ろうとしていた。
「全く、翔さんらしくないね。」
「…仰る通り。自分でも…どうかと思う。」
「仕方ないよ。それだけニノに首ったけなんでしょ? 笑」
「仰る通り。」
「ふはっ 何回言ってんの、『仰る通り』 笑」
「ふふふっ 今のはちょっと狙ったわ。」
さてと。
何の問題も解決できてないけど
松潤に聞いてもらったことで、少しスッキリ出来た。
「あ、俺、そろそろ。」
「そう。もうそんな時間?」
「うん。ごめんね、長く時間取れなくて。」
「いや、色々とすげー助かったよ。やっぱ、持つべき友は松潤だな。」
「何それ 笑」
本当に、頼れる大人になったよ。
次は
ウキウキウォッチの12時( ≖ᴗ≖)