バンビズ

M side












撮影も無事に終わって、オレはちょっとほっとしてた。






練習とはいえ、自分からなんて事を言ってしまったんだろうって、その事が頭から離れなかったから。






翔さんは、



翔さんは……いたって普通だったけど。











楽屋に戻ると、翔さんがソファに座った。




「なあ、潤。」
「なに。」




少し口を尖らして、ソファの翔さんの向かいの席を『ここここ』と、言わんばかりに指さす翔さん。




なに、オレがそこに座るの?




「ところでさ、付き合うって、何する
   の?」




翔さんからの質問に、一瞬ドキッとした。





「え?んー。手を繋いだり、お茶した
   り、キスしたり…じゃない?」
「ふ〜ん。」




二人の間にあるローテーブルの上に、
翔さんが、手を置いた。




「潤の手、頂戴よ。」
「え、ここで?」
「他にどこですんだよ。」





ごもっともだけど…





オレは翔さんの手のひらの上に、そっと自分の手を重ねた。







何気に胸が…ドキドキする……。





息が上手くできないんだけど、
深い深呼吸をして、心を落ち着かせた。




「あはは!なに、潤、緊張してんの?」
「いや、違うよ。ちょっと…」
「ちょっと、なに。」
「ちょっと、空気を吸いたくなっただけだ
   よ。」





『なんだよそれ!』って、まゆ毛を八の字に下げて笑う翔さんを、こんなに目の前で見るのも…久しぶりだ。








二人とも重ねた手に、つい、力が入った。




「潤、こっち、来いよ。」




急に笑いを消した翔さんが、
ソファの自分の隣りをトントンとした。






翔さんの隣りに座る…



撮影でなら、それなりに座れる。




翔さんが座るソファの後ろで、
筋トレだってできる。





でも、今の状況で翔さんの隣りに座るって…




なんか、もっと緊張する。









ローテーブルを周り、オレが翔さんの隣りに座り直すと、膝の上にあったオレの手を……


翔さんが、握った。






「1ヶ月間よろしくな、潤。」
「うん。翔さんも、よろしくね。」
「じゃあ、さ。目…潰れよ。」
「…え?」
「俺に練習、つけてくれんだろ?」





もちろん、さっきそう言ったけど…。




手を繋いだから、


じゃあ次は……






驚いて目を見開くオレに、優しく微笑む翔さんが、すんげーカッコ良いい。



翔さんが、目の前に…





「俺たち、付き合うんだろ?」





そう言って首を傾けながら、目を薄く瞑りだす翔さんの顔が、オレに近づいてきた。





ふわりと香る、翔さんの香水。




それよりも、翔さんから香るのは、
もっと昔から知ってる、翔さんの匂い…




オレから抱きついてたのは、いつの頃だろう。




もうだいぶ昔のようで、翔さんのこの匂いをとても懐かしく感じて、胸がきゅうきゅうとした。







一瞬、ふわりと 触 れ 合 う  唇。







翔さんとのソレは…



オレには待ち焦がれたソレで…






『練習』でも、『ごっこ』でもイイ。






オレは 翔 さ ん の そ の 感 触 に …





吸い込まれていった。