バンビズ

M side












『潤、俺さ、後輩に告られたんだけど。』



初夏のある日、楽屋で長机の反対側で新聞を読む翔さんが、顔も上げずにそう言った。









今日は2人だけでグラビア撮影の日。


楽屋に先に入ってた翔さんは、いつも通りにたくさんの新聞に囲まれてた。



「おはよー。」
「おはよー。」




そんな朝の挨拶も軽くして、
撮影準備やら、衣装準備を待つ間に、
オレ達は思い思いの事をしてた。






で?





なに、それ。









「翔さん、告られたって…なに。」
「ん。告られてさ。後輩に。」
「後輩に?」
「うん。」
「後輩に?」
「だから、そうだって。」




そう言って顔を上げた翔さん。

やっと、目が合った。







オレ達の間にいつの間にか出来てしまった距離感。




それは、言うならオレのせいってのもあんだけど…








「あのさ、後輩にって事は、相手は…」
「そ。男だよ。」
「マジで?」
「マジで。」






翔さんは昔からモテる。

ってか、慕われる。




お兄ちゃんぽい所とか、
頼れるところとか、


チャラかった時代なんか、
何気に後輩の子達からは服装とかも真似されてたし、その影響力は凄かった…。




だから、オレは誰よりも翔さんの側にいたかったし、オレんだって言いたかった。





オレだって、翔さんのこと…







「で、翔さんは何て返事したの?」
「ん。してねー。」
「何それ。」
「返事は1ヶ月後にしてくれってさ。」





…こりゃ、相手のヤツ……マジだな。



時間差ってのはさ、

すぐに返事を聞きたくないってのは…







「でもさ、俺…男と付き合ったことねーし。そんなの、考えた事もねーし。」
「まあね。誰だってそうでしょ。」
「潤もか……だよな…。」






翔さんが眉毛を下げて笑いながら、もう1度、新聞に目を落とす。





翔さん…






「なに、オレなら男の経験もあると思って
   たの?」
「いや、そういう訳じゃねーけど。」
「じゃ、なに。」





翔さん…



なんで、オレにその事を…





「お前になら、潤になら、言ってみようか
   なって、思えたから。気分悪くしたらご
   めんな。今の忘れてくれよ。」




そう言って、翔さんは立ち上がりながら、
カフェラテを汲みに行った。




ぐびぐびと飲む、喉仏が上下する。





「潤も、飲むか?」
「ん。オレは、いいや。」
「そっか。」






長机に近づいてきた翔さんは、
さっきの話をなかったことにしたいのか、そのまままた新聞を持ってソファの方に移動しようとしてる。





行かないで…。




胸の奥が、ぎゅっと痛む。




1ヶ月後、翔さんは、
誰かのものになってんのか?




いや、断るだろ。








でも、もし、





もし……OKしたら………。






「ねえ、翔さん。」


音もなく、振り返る翔さん。





「その1ヶ月、

      練習で…オレと付き合ってみない?」






潤くん、首に指が刺さってるよ!(ポーズです)



2016.7.18~