O side






カランコロン



外に出ると
もう、冷たい風が吹いていた。



夏が通り過ぎて
が近づいてきてんだなって
透き通った夜空に向かって星を探した。



「大野様、少し、歩きませんか?」
「良いですけど、…外でも『大野様』は…なんかよそよそしいです。」
「確かに。…じゃあ、なんて呼びます?」
「大ちゃん。」
「は?  ふははっ  やっぱり大野様は癒し系ですよね。」



櫻井さんはぶっと吹き出しながら
また、目尻の涙を拭っている。



「『大ちゃん』は、俺にはちょっとハードルが高いかな。他にはありませんか?」
「じゃあ… 『さとちゃん』」
「ふふふふふっ あっははは!」


歩きながら大爆笑してるのはオレらくらいで、酒が入ってるせいか、なんだかそれも良いかもって笑い続けていた。しかも結局オレの呼び名は『大野さんで』なんて、優しく微笑まれた。




イケメンにそう言われたら
ヤダとは言えないだろ。






歩きながら見つけた1つの公園。
都会によくあるんだよ、こういうの。

ベンチが少しと、花壇が真ん中にある。
20メートルくらいの横幅な… 公園で合ってんのかな?



どちらからともなくベンチに座り、
また二人で笑った。



オレらは友達でもなく
ただの客とセラピスト。

でも、不思議とどこか通じるものを感じるのは、

一体何故だろう。



「櫻井さん、……今の職場はどうですか…?」
「タッチミーは大丈夫ですよ。大野さんにも会えましたしね。」




そうですか。って自分の声が震えてて
恥ずかしくなる。



「同僚は? 店の派閥とか…」
「無いですよ。前の店が酷かったから。ここは社長も良い人ですし。」
「社長…いるんですか?」
「いますよ。カウンターにいつもいる、ミルクティー色した髪の」
「あーっ、あの人か。あの人いいひとですよね!」



櫻井さんが目を丸くしてオレを見た。



「え、大野さんもしかして、俺より先にあの人に施術を受けたことあるんですか?」
「ん?じゃなくて、初めて来た時に色々と説明してくれたから。」
「あー。…それで。笑」
「なんで笑うんですか?」
「あの人が説明すると、なんでか皆さんリフレッシュの時に驚くんですよね。ちゃんと聞いてなかったって照れながら。」


櫻井さんは『あの人も、色んな人を惚れさせちゃうんですよ。』なんて言いながら、ふふっと笑っていた。




でも、オレは惚れなかったぞって言おうとしてやめた。

なんの張合いかわかんねーけど、オレなら櫻井さんを選びますって声が心に浮かんだから。

それを言ったら



櫻井さんを困らせるって
わかってるから。




「大野さん、今日はありがとうございました。」
「あ、こちらこそ。」
「…さっきは、俺まで気持ちよくさせてもらったし。……次は、いつご来店されますか?」




確か…


これからは立て続けに会食が入っている。
営業先との関係と、昨日トラブルがあった先の担当者と会う約束もあった。




「当分は来れないかもしれません。色々と立て込んでいて。」
「そう…ですか。」


さっきまでキラキラとしていた櫻井さんが、

一気にしぼんだように見えた。しゅんと。



「だけど、隙を見てまた…行き」



オレがそういう間に、

櫻井さんにまた腕を引かれて抱き締められた。



背中から伝わる櫻井さんの腕の重み。
ぎゅっと抱き直される。



「また、客ですか?」
「いえ… 。俺… 施術中に勃起したのも出したのも大野さんが初めてなんです。 」
「おぅ…」
「今日は俺まで気持ちよくしてもらったから、お礼に、今夜は……そこのホテルで延長マッサージさせて貰えませんか?」
「そこのホテル…って、櫻井さん…?」



確かによく見ると

オレらのベンチの後ろはそういう店だった。



でも…



『俺はただ、客として接していただけなのに』



さっきの櫻井さんの言葉が脳裏をよぎった。



「…そういうのは止めておきましょう。」


オレだって嫌なわけじゃない。
櫻井さんになら何をされても良い。

マッサージの良さに気づいたんだし、
マッサージ以外にも色々解されて
忘れていた悦びを植え付けてもらった。


それに、腰の奥…

きゅんとするそこは

櫻井さんに埋めて欲しいとさえ思ってる。





でも…



「櫻井さん。…また、付きまとわれたら困るでしょ?

 今日は色々楽しかった。……じゃぁ…」



そう告げると
オレから先に、その場を離れた。









見えにくいけど大野くんです。
魔王のメイキングのやつ(  'ᵕ' )ニッコリ