職場には喫煙ルームなるものがある。フロアではそこでしかたばこが吸えない。
「昔は席でみんな吸ってて、その灰皿の片付けは女性の仕事だったのよぉ~」と年配の女性がランチタイムにしみじみと言う。
「喫煙者ずいぶん減ったよね」と別の女性。
「いっそみんなやめてくれればいいのにね~!」と誰かが言うと、その場にいる女性全員が激しく同意。
たばこってほんとヤダ!と口々に言い、私も一緒に頷いている。
でも頷きながら私は頭の中でこっそり考える。
たばこの煙は嫌いだけど、キスした時にほんのりと香るタバコの味は好き。
もちろん口には出さないけど。
ふいに嫌煙談義の声が遠くなり、脳内でヘビースモーカーだった男との甘いキスが自動再生。
「あれっ? なんだか甘い味がする」
「ああ、なんか突然気が向いてバニラフレーバー付きのたばこを買ってみた」
甘いキス、っていうのは修辞的用法じゃなくてほんとに甘かったの。
手をつないで歩いた懐かしい路地裏の風景が思い出されて、密かに嫌煙談義からいち抜けしている。
