
序章 桜の下で~追憶~
朝、カーテンを開けると、空は驚くほど青かった。
雲ひとつない春の空だった。
こんな日に限って、胸の奥が少しだけ痛む。
二男は今日、入学式へ向かった。
慣れないスーツに身を包んで、少し照れくさそうに玄関を出ていく姿が、まだ幼さを残していて微笑ましかった。
「行ってきます」
そう言って振り返った顔に、ほんの少し大人びた表情が混ざっていた。
春は、新しい季節だ。
誰かが何かを始める季節。
けれど私にとって桜は、どうしても別れの記憶と結びついてしまう。
窓の外には、今年も桜が満開だった。
きれいだな、と思う。
本当にきれいだと思うのに、同時に胸の奥がきゅっと締めつけられる。
桜を見ると、悲しくなる。
あの日を思い出してしまうから。
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