てっぱん七福 店長
「あ、もしもし125ーAlphaのゴロウですけど、あの…」
「はい? もしも~し? 鉄板七福ですけど!」
「あ、イタリアン食堂のゴロ…」
「ゴロウさん?! すいません浅羽さんがも~う酔っ払っちゃってうるさくてよく聞こえないんですよ! 何か?」
「あ、いえ、何でもないんです、それでは」
いい予感は大抵はずれるが悪い予感は的中する。これは誰の言葉だったろう。
「え、やっぱり七福にいたんですか? あはは、このワイン飲んじゃっていいですよね、もう開けちゃったし」
「あ、Aちゃんそれはさ、明日、牛肉の赤ワイン煮をつくるのに使えるから…」
私はとっさに彼女を制止した。もうすでにビール1杯にハイボール3杯、焼酎のウーロン茶割りを3杯は飲んでいるはずだ。これ以上飲ますと面倒なことになる。そして、今の私には、その面倒を引き受ける体力は残されていない。
「ゴロウさんも飲みましょうよ、あたしだってショックですよこんなすっぽかし。この料理も食べちゃいましょ。お気持ちお察ししますよ。こういう時に飲まずしていつ飲めっていうんですか」
「毎日、飲んでるじゃな…」
「でも、さすがに食べきれない…もったいないですね…あ! もうTHE BAND NEETのライブ終わったころだから、帰りに寄るように云ってみますよ。捨てるよりいいでしょ」
「あ、でもナオキ君たちだってさ、打ち上げがあるだろうしさ」
「どうせさぁ、奴らは新丸子に帰ってくるんですよー。マネージャーのmeptin に電話してみよ」
今の私には、これ以上彼女を制止する気力も体力も残されていなかった。
「meptin君? 終わった? じゃあ、すぐ来て。あはは、何でかって? あたしが待ってるからでしょうが。ナオキとタイラも連れてきてよ。え、タイラは先に帰った? わかった、そっちはあたしが何とかするよ。じゃあね。あはは、ゴロウさん、あいつら、まだ高円寺だからあと一時間はかかるとか、なめたこと云ってますよ。とりあえず、ゴロウさんも飲みましょう、あはは」
そういうと彼女は再び電話をかけ始めた。
「もしもし、夜分遅くに大変申し訳ありません。タイラ君わかる? そう。これからmeptin君とナオキ君がね、お店に来てくれるからね、タイラ君も少しだけ顔出してくれませんか? ああ、明日の朝早いんだ。あたしもだよ。ちょこっとでいいんだけど。やらなきゃいけないことが? 色々ある? あたしもだよ。ほんと、ごめんね。じゃあ、このまま15秒だけ、いい?」
そういうと彼女はジョッキに入ったワインを一気に飲み干し、また笑い出した。
「あはは、あのさぁ、あなたのとこのプロデューサー、T-1とかいったっけ? あはは、そいつの不始末の責任を取れって云ってるんですよ!!! あはは、ほんと、ごめんね、邪魔して、あはあは」
それだけ云うと彼女は静かに、静かに受話器を置いた。
Aちゃんが酔って楽しそうに笑っている。彼女のことをよく知らない人ならばそう思うだろう。しかし、私にとって彼女の笑顔ほど怖いものはない。そう、いうなれば彼女の笑顔は、真実を隠すジェイソンのマスクと同じなのだ。
先に現れたのはmeptin君とナオキ君だった。
「A姉さん、ゴロウさんお待たせしました!」
「お疲れ様! あはは、お待ちしてたよー」
Aちゃんはそう云うと二人を両脇に座らせ、それぞれの太ももに手を置いた。
「あはは、全部食べて飲んでいいからねぇ。」
「ええっ、ゴローさんっ、A姉さんっ、ありがとうございますっ!」
と云ってすぐに飲み始めたのは、男の私から見てもとにかく可愛いmeptin君。Aちゃんに云わせると、怖いものだらけなのに怖いもの知らずなところがあるカワイ子ちゃん。
「A姉さん、かなり酔ってるみたいっすけど、大丈夫っすか? この料理…もしかして僕のためっすか!」
ナオキ君は、彼の音楽と同様に、ロマンチストでまっすぐだ。Aちゃんに云わせると、心にしわがないが脳にもしわがない。
そこに、異常を察知したタイラ君が駆けつけて来た。
「遅くなりまして」
そう云いながら伏目がちに店内をいちべつし、みだれた前髪を直しながら入り口に所在無げに立つと、Aちゃんをにらみつけ、独り言のようにつぶやく。
「プロデューサーがどうとか…僕は何故呼び出されたのでしょうか」
タイラ君は、彼の音楽と同様に、大器にして繊細だ。Aちゃんに云わせると、ナルシストにして小心者ということになる。
「たいしたことじゃないよ、予約をすっぽかされたっていうだけのことですよ。あははっ、あははっ」
それを聞いたmeptin君とナオキ君は一瞬顔を見合わせるとパッと立ち上がり、入り口のタイラ君に駆け寄った。そして二言三言交わすと、すっと三人横並びに並び、深々と頭を下げて云った。
「この度のプロデューサーの不始末、大変申し訳ございません。 我々にできることは何でもいたします!」
「おお、そうか、そうか、よく云った。とりあえず、全部食べて飲め! あははははっ、タイラ君、もっと近くへおいで。ワインついでくれるかい? ねぇ、誰か一曲歌ってよ。あははっははははっ」
「はいっ!」
こうして、もう一つのジェイソンナイトの暗黒の宴は朝まで続いたのだった……。
- 完 -
注 : 事実をもとに一部再構成しています。
予約をすっぽかしたのは誰かと責められ、素直に手を上げて謝罪するT-1氏と、ワインを呑みながらお説教を続ける浅羽由紀さん。
ピアノ弾き語り浅羽由紀
1月15日(金)新丸子スロブ 16日名古屋17日静岡ツアー 30日(土)新丸子スロブ
左 素敵滅法ギター弾き語りTaila君 右 カワユスmeptin君
THE BAND NEET ボーカル&ギター ナオキ君
テクニシャン(ギターに限る)Taila情報 1月16日名古屋17日静岡ツアー 23日Taila主催イベント「日々燦々」新丸子スロブにて 24日「オープンマイク」新丸子スロブにて
meptinですっ。みんなをよろしく。ライブ情報の詳細はみんなのブログを見てねっ!