これまでのおはなし

第1話 発端

第2話 契機

第3話 契機2

第4話 契機3

第5話 邂逅

 

 

 

知らないものを見るために、目をとじることも必要だ。

 

 

 

「カンニングしたんだよね、おれ」

 

ナオキの口から出た言葉に、わたしは理解ができなかった。

 

「なにそれ、学生時代のカミングアウト?」

 

照れたような困ったような笑顔のまま、ナオキは続ける。

 

「ウエダはさ、ネットにくわしい?」


話の流れを無視してナオキは聞いてきた。

 

「そこそこは。プログラミングとかは全然だめだけど、
情報収集はネットメインだし」

 

まあ、大人向け動画を観るために知識は必要になるから
勝手に身についてしまったワケだが。


「じゃあさ、『情報商材』ってわかる?」

 

怪しい単語がナオキの口から出てきた。

 

 


情報商材。

 

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詐欺の匂いがイヤでも漂っててくるタイトルで
情報弱者(情報に疎い人)をカモにする悪質な商品、
・・・とわたしは『情報商材』のことを認識している。

 

そんな『情報商材』という言葉がナオキから出てきた。

 

「あれだろ、情報弱者を食いモノにする、詐欺的なやつ」

 

「そうそう。ってか、印象悪いよな」
なぜか嬉しそうにナオキは答える。
さらにこう続けた。

 

 

「カンニングって、実はさ、情報商材のことなんだよ」

 

「え、どういう意味? その情報商材をカンニングするの?」

 

「そうじゃなくて。言いたくなかったんだけど、おれさ、ナンパは
情報商材で勉強して学んだのよ。おい、あからさまにイヤな顔するなって」

 

恐らくものすごい顔をわたしはしていたのだろう。
実際怪しいものに手を出す友人に対して、なんか、イヤだ。

 

 

「ナオキは、そのナンパについて書いてある情報商材を買って、
それで勉強して、ナンパに成功したってこと?」

 

「簡単にいうと、そういうことになるね。」

 

「で? それをおれに売りつけようとするわけだ」

 

話の途中からイヤな気分になったのは、わたしが巻き込まれると思ったからだ。
マルチビジネスやネズミ講みたいな、そんな感じで。

しかし、ナオキはあっけにとられた顔して答えた。

 

「え? なんでウエダに売りつけるのよ?」

 

「いや、おまえがそれで儲けようとかしてるのかなって思ってさ」

 

「おいおい、おまえをそんな対象に見たら、もう友達じゃないだろ」

 

「うーん、そうだよな」

 

「だからそんなイヤな顔してるわけ? 安心しろ。何も売りつけないし
勧誘もしないから。」

 

逆にわたしのほうがあっけにとられた。
「あ、そうなん?」

 

今度は逆にナオキがムスっとした顔になった。


「おまえ、おれのこと何だと思ってるんだよ。情報商材の話はさ、
おれがナンパできるようになったのか話す上で省略できなかったからだよ」

 

わたしは少し安心した。友人関係で金銭問題は持ち込みたくない。


「ごめんごめん、そうだよな。話、遮っちゃったね。」

 

「おれの勝手なひとり語りだから、変な誤解するなって。」

 

「うん、悪い。ごめんなさい。」

 

わたしは素直に謝った。
ナオキの話をすこし詳しく聞いてみたくなったからだ。
気分を害されたままでは話せないだろう。
わたしは、こういうとこは素直なのだ。

 

 

「情報商材、っていうと、ほとんどの人はウエダみたいな反応だよな。
だから話したくないってのは、おれの中であった。

 

変な誤解をうむといけないから、ちゃんと話すけど、
おれはナンパのマニュアルを買って、マニュアル通りに行動したんだよ。

 

笑うなよ。

 

だってさ、社会人になると、女の子と無縁になるじゃない。
出会いの場もないしさ。これはナンパしかないと思ったんだけど
ナンパなんてやったこともないし。
そうやって悶々としていたら、ネットで広告を見たんだよ。

 

ナンパはできるできないじゃなく、やるかやらないか。


そんなコピーだったと思う。値段は結構したんだけどな。」

 

 

ナオキはそこまで一気にしゃべると、ジョッキのビールを喉に流し込んだ。

 

「最初はもちろん騙されたらどうしようとか思ったよ。明らかに怪しいしな。
でも、マニュアルは、まともだったんだ。おれにも意外だったわ。」

 

いつのまにか、ナオキの話に聞き入ってしまっているわたしがいた。