「何で、シチューなのよ?」
喧々諤々を顔にしたらこうなるといった顔で、ツバサが翔に問いかける。
悪いのは自分だ十分に承知している。
なので出来るだけ穏やかに、1時間前から答え続けている。
「なんかぁー、こう。気が変わっちゃって〜」
そこで。具材を半分にして別の鍋でシチューを作るとか、コーヒー牛乳を入れるとか、そういうのはナイ気がする。それは、こう。食べのもの好みというよりも、相互の関係が断絶するのと同じ事な気がする。
それに、いくら多目に食べる美少女の2人だからと言って、分けてまで料理をする量でもない気がする。
何もかも、ドライでスッキリしてしまえばいいというものではない。
しかし不覚だった。
このコーヒー牛乳は、ツバサが災害派遣の自衛隊のニュースを見て大鍋で調理されるカレーに萌えたから始まった「ツバサの味」であった。
ちょうど料理を始めたばかりであり、無闇に意見をして気を殺いでも可哀想だと思い、それについては、更なる料理の腕前の向上とか、同じカレーでもシーフードやチキンで味付けが変わるのだから、つまる所、レパートリーが増えれば他の隠し味も開発するだろうと。
がー
カレーは凝ってしまえば切りが無いが、何であれカレーはつまりカレーなのであった。
彼女は、オーソだった。
物事への拘りを何処へ向けるかは、その個人の個人たる所以だ。
たまに、友達と行くのか、独りでゆくのか、カレーのチェーン店の話をするが、確かに彼処のカレーは、グリーンカレーや何やらの拘りはない。
彼女にとっては贅沢な値段のカレー。
そういう発見は、もっと先になるだろう。
彼女にとっては、その為に今の発見を継続する事が大事だった。
がー
翔は。この味がダメだった。
甘くしたいならチャツネで良いじゃないか?
これは、澪のカレーだ。
まろやかにしたいのなら、ココナッツミルクで良いじゃないか?
これは、潤のカレーだ。
コクが必要ならバターを足せば良い。
これが、翔だった。
マヨネーズとか、チーズとか、チョコとか、コーヒーだけとか、ケッチャップとか、何なのよ。
そうツバサはまだ幼い。
がー
そうそう歳の離れていない翔もまた幼かった。
だからこそ、お姉さんのフリが必要だった。
それが美少女というもの。
口に合わないの一言が言えない。
そういう我慢は、何処かで歪みが出る。
どれぐらい合わないか?
と言うと。
もし、天下泰平に纏わるやなんやかんやの自然災害の祈祷の為に三七日の参籠なんかするものでれば、このコーヒー牛乳入りのカレーを食べなくて済みますようにというのが、祈願の本心になってしまうぐらい嫌いだった。