その日は、ごく普通のありふれた夕食前であった。
潤、この時は両親が付けた名前で呼ばれていた。
広くはないが、狭くもないマンションの一室。
彼女の母が、台所で夕食の準備をしている。
リビングでは、その母に似る面立ち彼女が「お絵描き」をしいていた。
母は言う。
「もうすぐ御飯できるし、パパ、お風呂からあがってくるから、お絵描き片付けなさい。」
彼女は母の方を向いて、少し不服のある感じで返事をする。
「もうちょっと。」
すると母は、少しムッとする。
「本当は、御飯の前にパパとお風呂に入って欲しかったのよ。」
彼女は、負けずに返す。
「だって、パパ、美少女じゃないもん。」
母は、「もう」っていう顔をする。
「お風呂入らないで御飯食べたら、臭いでしょ。」
彼女は、その母に甘えた口調で言う。
「いやぁ~だぁ~、ママとがいい。ママは、私と一緒で美少女なんだもん。」
母は「肯定」の意を顔に出す。が、ここは親の顔で彼女に当たった。
「お風呂入らないと、臭いんだからね。御飯食べたら入るんだよ。」
すると彼女も肯定の意を示す。
「わかってる!だって、パパみたいに臭くなったらやだもん。靴下とかヤバいし。」
すると、母は、少し真剣な面持ちをしてから。
「誰の所為よ?」
すると彼女は、その綺麗な澄んだ目をパチクリとする。
そこに母の追撃。
「誰の所為で、パパは臭いの?」
彼女は、小首を傾げる。
「パパだけじゃないよ、男の子はミンーんな臭いんだよ。」
母は彼女に似た目を、彼女と同じ様にパチクリとしてから答える。
「そうね、男の子は比較的臭いわね。でも、パパが臭いのは、もっと大切な理由があるわ。」
そう言うと、優しい目で彼女の母は彼女を見つめた。