Do Androids Dream of Electric Sheep? -3- | hiroチャンのブログ

Do Androids Dream of Electric Sheep? -3-


-3-

《テーマ》
ディック作品は、「現実」というものの脆さと個人のアイデンティティの構築をテーマとすることが多い。
何らかの強力な外部の存在によって(例えば『ユービック』)、あるいは巨大な政治的陰謀によって、あるいは単に信頼できない語り手の変化によって、日常の世界が実際には構築された幻影だということに主人公らが徐々に気づき、超現実的なファンタジーへと変貌していくことが多い。こうした「現実が崩壊していく強烈な感覚」は「ディック感覚」と呼ばれている。
「彼の作品は全て、単一の客観的現実は存在しないという基本的前提から出発している」とSF作家チャールズ・プラットは書いている。
「全ては知覚の問題である。地面はあなたの足元から変化していく傾向がある。主人公は別人の夢の中で生きていることに気づいたり、薬物に影響されて現実世界をよりよく理解できる状態になったり、完全に違う宇宙に足を踏み入れたりする」

パラレルワールドと「シミュラクラ」がプロットの道具としてよく使われ、その世界には普通の労働者が住んでいる。アーシュラ・K・ル=グウィンは「ディック作品にはヒーローがいないが、英雄的行為は存在する。ディケンズを思い起こさせるところもあり、普通の人々の正直さ、貞節、親切、忍耐を大切にしている」と書いている。
ディックがカール・グスタフ・ユングに大きく影響されていることは明らかである。特に、集合無意識の元型、集団投影/幻覚、シンクロニシティ、個性化論などの影響が強い。
『テレポートされざる者』などではユング心理学の用語が実際に使われている。

ディックのもう1つのテーマとして「戦争」があり、特に戦争への恐怖と憎悪がある。Steven Owen Godersky は「酸素が水に溶けるように彼の作品全体にそれが染み付いている」としている。
また、精神疾患もよく扱われるテーマである。『火星のタイムスリップ』(1964) に登場するジャック・ボーレンは精神分裂病の前歴がある設定である。『アルファ系衛星の氏族たち』は、精神病院の患者たちの子孫が形成した社会を描いている。1965年には「分裂症と『変化の書』」というエッセイを書いている。

薬物使用(薬物乱用)もよく見られるテーマで、『暗闇のスキャナー』や『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕』に顕著である。ディックは生涯のかなりの期間で薬物を使用していた。1975年のローリング・ストーン誌のインタビューで、ディックは1970年より以前の作品は全てアンフェタミンを服用した状態で書いたと述べている。インタビューでディックは「『暗闇のスキャナー』がスピードを全く飲まずに書いた最初の長編だ」と語っている。短期間だけサイケデリックを試したこともある。しかしローリング・ストーン誌が「LSD小説の古典でありオールタイムベスト」だとした『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕』を書いたのは幻覚剤を試す前のことだった。アンフェタミンを多用したディックだが、後に医師から彼はアンフェタミンの影響を受けない体質で、それが脳に達する前に肝臓が処理していると言われたという。

最晩年の作品であるヴァリス三部作(『ヴァリス』『聖なる侵入』『ティモシー・アーチャーの転生』。あるいは生前に刊行された『ヴァリス』『聖なる侵入』だけをもって「ヴァリス二部作」とも呼ばれる)では、キリスト教神学とグノーシス主義が中心モチーフになっている。そこでは、この世界が狂った神(ヤルダバオト)により想像された混沌であるというグノーシス思想が、「黒き鉄の牢獄」というキーワードで表現され、登場人物が、混沌の中に真の唯一者の兆候を探し、救済を求める様子が描かれる。

《受賞歴》
1963年 ヒューゴー賞 - 『高い城の男』

1975年 ジョン・W・キャンベル記念賞 - 『流れよ我が涙、と警官は言った』

1978年 英国SF協会賞 - 『暗闇のスキャナー』

フィリップ・K・ディック賞はフィラデルフィアSFソサエティが主催するNorwesconで毎年授与されている。

《影響》
ディックは多くの作家に影響を与えている。ディックの影響を受けたとされる作家としては、ウィリアム・ギブスン、ジョナサン・レセム、アーシュラ・K・ル=グウィンがいる。
Philip K. Dick Society はディックの作品を管理する団体で、友人だった音楽評論家ポール・ウィリアムズが設立した。ウィリアムズはディックの遺産管理人も務め、ディックへのインタビュー本『フィリップ・K・ディックの世界―消える現実』(Only Apparently Real: The World of Philip K. Dick)も書いている。

ディックの死後、ディックを登場人物とした作品がいくつか書かれている。マイクル・ビショップのThe Secret Ascension (1987年、後に Philip K. Dick Is Dead, Alas に改題)は、ディックが純文学作家となっており、リチャード・ニクソンが支配する全体主義のアメリカでSFが禁止されている世界が描かれている。
他にも次のような小説でディックが登場している。
マイクル・スワンウィックの短編 "The Transmigration of Philip K"(1984年)
ブライアン・オールディスのKindred Blood in Kensington Gore (1992年)
Philip Purser-Hallard のOf the City of the Saved... (2004年)
Victoria Stewart の戯曲 800 Words: the Transmigration of Philip K. Dick (2005年)はディックの最後の日々を描いている。
法月綸太郎のミステリ長編『怪盗グリフィン対ラトウィッジ機関』(2015)では、ディックをモデルとしたSF作家P・K・トロッターの、死後発見された未発表原稿が物語の軸となっている。

《映画》
ディックは映画製作者にも影響を与えており、以下の映画作品がディック作品と比較されている。
アダプテーション
イグジステンズ
エターナル・サンシャイン
エルム街の悪夢
ガタカ
サウスランド・テイルズ
スパイダー
ダークシティ
12モンキーズ
トゥルーマン・ショー
ドニー・ダーコ
Π
バニラ・スカイ
ヴィデオドローム
ファイト・クラブ
マトリックス
マルコヴィッチの穴
マルホランド・ドライブ
メメント
2010年のSF映画15 till Midnight はディック作品の影響を認めている。

《音楽》
ソニック・ユースのアルバム『シスター』(1987年)の一部はディック作品に着想を得ており、アルバムタイトルの「シスター」はディックの死んだ双子の妹を意味している。

《現代思想》
ディックのポストモダン性の予示は、ジャン・ボードリヤール、フレドリック・ジェイムソン、スラヴォイ・ジジェクといった多くの思想家達に注目されている。ジジェクはジャック・ラカンの考え方を明確化するのにディックの短編小説をよく利用する。

《翻案》
点字訳
1975年、National Library for the Blind がディックに対して『高い城の男』を点字本にする許可を求めたところ、ディックは今後出版されるものも含めて全作品を点字にしてかまわないと返事をした。そのため複数の作品が点字本になっている。

《電子書籍》
2010年7月17日現在、初期の11作品がアメリカ合衆国内でパブリックドメインとなっており、プロジェクト・グーテンベルクによって電子書籍化されている。

.