まだあげ初めし前髪の
林檎のもとにみえしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり
やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅の秋の実に
人こひ初めしはじめなり
わがこころなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき
たのしき恋の盃を
君が情に酌みしかな
林檎畑の樹の下に
おのづからなる細道は
誰が踏みそめしかたみぞと
問ひたまふこそこひしけれ
★意味・現代語訳
まだあげたばかりの君の前髪が
リンゴの木の下にみえた時
前髪にさした花櫛の
花のように美しい女性だと思った
優しく白い手をのばして
リンゴを僕にくれたこと
それは薄紅の秋の実
僕は初めて恋を覚えた
思わずもらしたため息が
君の髪の毛にかかったとき
恋に酔いしれる楽しさを
君のおかげで知ることができた
リンゴ畑の樹の下に
自然とできた細道は
誰が通って出来たかと
尋ねる君が愛おしい
★私が初めて心惹かれた島崎藤村の瑞々しい詩集…明治☆昭和時代の詩人☆小説家☆島崎藤村の詩集【若菜集】に収められた【初恋】です…☆
此の詩は舟木一夫さんの映【初恋】の主題歌にも成っていますね…☆ 舟木さんの歌われた【初恋】の抒情歌は…愁いを帯びていて聴いているだけで心震える優しさが感じられます…
異性に対する想い…恋を知り染めた初々しい若人の感覚が見事に表現された☆この詩は当時から若者達から絶大な人気と成りました…☆ 此の【若菜集】により日本の近代的な詩が…スタートしたと言われています…☆
♪…あゝ前髪に月も泣く…殉教に青春を捧げてゆく…未だ【前髪】の美少年…☆主君の仇討ちに前髪の…元服前の少年☆主税…二人の未だ見ぬ淡い初恋は戦(いくさ)に…仇討ちに露ときえてしまったのでしょうか…