真っ暗闇の中、澱んだ沼の中からオレを引き上げてくれたサトシ。
今でも時々イヤな夢を見る。
闇から逃れようとするオレを、後ろからたくさんの黒い手が追ってくるんだ。
焦るほど、鉛のように重たい足は動かなくて、とうとう追いつかれて足首を掴まれる。
闇の中に引き摺り戻されそうになり、泣き叫んでジタバタ足掻くオレの頭上から、サトシの声が光になって降りそそぐ。
『いいか、必ず迎えに行くから待っとけ。どこにも行くな、消えるな、耐えろ』
サトシの何も知らず、ただ一度、カラダを繋げただけのオトコの言葉を信じていたオレ。
夢の中でも、そうまるでホントに神様のお告げであるかのように泣きながら笑ってるんだよ。
健気だね。信じるものは救われるってことだよ。
色んなことで胸がいっぱいになって、枕をぐっしょり濡らして目覚めてみれば、目の前にアホ面晒して寝てるサトシがいて。
……鼻毛、出てるけど。
ま、いっか。
神様なんかじゃないけど、オレの唯一無二の存在であることには間違いない。
好きでたまらない。
全てが愛しくて…
あなたが望むなら何でもするよ。
親に捨てられた、ずっとそう思っていた。
それは違うと教えてくれたのもサトシ。
オレが生まれて間もない頃、両親は株で大損した客から逆恨みされた。
相場なんて水物だ。でも常識の通じない相手は、ただ二人を憎んだ。
逃げても逃げても執念深く追われて、せめてオレだけでもと東北の養護施設にオレを託した。
その後の二人がどうなったのかは知らない。
「調べるか?」
知りたいの?
「おれは今のカズだけでいい。過去なんて知らねぇ。こっから先のカズがいればそれだけでいいんだ」
いい。
あなたがそう言ってくれるから、オレも過去なんていらない。
「ずっとな」
うん。
絶え間ない波音。
ここにあるのは、永遠。
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