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気のせいだ。
サトシがここにいるワケがない。
感じた気がした視線も、振り向いたらもう無かった。
― PM10:45 ―
潮風で冷えた頬が、中の澱んだ空気ですぐに温められる。
歩きながら、泡がすっかり消えたグラスの中身を一気に空け、近くにいたボーイに渡した。
やっぱ、不味い。
いっそのこと、この唇も舌も全部、何にも感じなくなってしまえばいいのに。
そしたら、目ぇ閉じた上に味もなんもわかんなかったら、なんだってやれそうじゃん。
感覚あるから、記憶になっちゃうから抜け出せないでいるんだ。 あの日から。
ほら、あそこ、ドアの近く。
沢山いるスーツ姿の仮面たちの中に、あの猫背までもが、見えた気がした。
…記憶なんていらないのに。
チッて、小さく舌打ちしてから磨き上げられたぴかぴかのフロアーを蹴飛ばしてパーティー会場の外に出た。
すぐに番犬が寄ってくる。
皮ジャン…じゃない、今夜はウェイターの恰好をしてる。
コイツ、あの日からやけにオレに懐いて、すっかり付き人みたくなってる。
上の奴らは、逃げ出したオレを見つけたのはコイツだって思ってるから、許されてるみたいだ。
一年前のあの日、どうせすぐに捕まるって分かってたから、大ごとになる前にサトシの車ン中から、
『後で場所知らせるから、明日の朝、迎えに来て』
って知らせたんだ。
「カズさん、最上階です」
「知ってるよ」
えっと、名前、何だっけ。
何度も聞いたことあるのに、こんなことはすぐに忘れる。
手に持ってた仮面を渡して、エレベーターの前に立ったら、そいつが上へのボタンを押してくれた。
「風呂の用意しといて。あとはもういいから」
「はい、すぐに」
口利いてもらえたのが嬉しかったのか、そいつは番犬らしからぬ可愛い笑顔で走ってった。
あ、亮だ、思い出した。
今度、名前で呼んでやろ。
きっと嬉しそうに真っ赤な顔で笑うはず。
ふふ、弟ってあんな感じなのかな…。
家族なんて、全然わかんねぇけど。
俯いてたら、オレのピカピカの革靴の隣に、ちょっとくたびれた靴が並んだ。
ちらりと横を見れば、ひょろりとした男がいつの間にかいた。
やけに近い。腕が触れそうなほど。
でも、下心のある奴は、大体雰囲気でわかる。
この男には、まったくそれを感じない。
なんだよ…。
イラついて顔を見上げれば…
あれ?この男、さっき入口で仮面配ってた奴だ。
ちょっとズレた蝶ネクタイに見覚えがある。
「こっち、見ないで」
小さな声が聞こえた。
条件反射で下を向く。
「君、カズくんだろ?」
「えっ?」
顔を上げたら、
「だから、こっち見るなって」
デジャヴ? 確か前にもこんなコトが…。
目の前の扉が開き、男が先に乗り込んだ。
後に続く。
一瞬ためらったけど、この男からは物騒な気配も感じない。
「…乗った、うん、5階、待機してて」
ボソボソと声がした。
電話で話してる。
5階…って言ったよね。
え? まさか今日のお相手?
いやいや、それはあり得ない。
あまり、金持ってなさそうだし。
5Fの表示が光り、扉が音も無くスーッと開く。
目の前に現れたのは、忘れられないもう一つの顔。
すっげー濃い目のイケメン。
いきなりの再会に驚いて動けないオレの背中を、蝶ネクタイが押した。
「ほら、急いで」
「…えっ、なに?」
「いいから、こっち来い」
前からは、濃いのが腕を引っ張る。
エレベーターから降ろされて、両脇をがっしりと固められ、ふわふわの絨毯を歩かされるオレ。
えっ?なにこれ、何プレイ?
逃げようにも、オレより数段ガタイのいい二人に押さえられた腕は、振りほどけそうにない。
「お前、騒ぐな「よ。せっかくのプランがパーにるぞ」
「ちょっと、脅すなよ。大丈夫だよ、カズ。俺たち、君の味方だから」
蝶ネクタイの声がやたら優しい。
取り敢えず、身の危険はあまりなさそうな…
ずるずると引き摺られるように歩いて、約束の№5の表示の部屋の前を通り過ぎる。
「あ…の、オレ、この部屋に用事が…」
「いいから、黙っとけ。お前、もうここには戻ってこねぇんだから」
「もぉ、またそんな乱暴な…」
どういうこと?
オレ、拉致られた?
つづく。