※『ナツコイの日』にポンと浮かんでしまったお話
※緑さん視点・8UPPERSパロ。暑くて熱いのが恋の始まり

※緑青さんと言いますか倉安要素を含みます。苦手な方は特にご注意

 

 

 

 

 

 

本日・店は定休日。

珍しく、俺以外の全員が外出していた。

一人で静かにのんびりするのも、たまには悪くない。

最近少々忙しかったし、特に予定も入れず休養しようと思っていたのだ。

 

マックとジャッキーに至っては、察するにオトナのデートだろう。

双方、朝まで戻らない…的な匂わせをしていたくらいなのだ。バレバレである。

『どうぞごゆっくり』と送り出したら、マックが照れ隠しに睨んで来るし。ジャッキーには小突かれた。

 

そして失礼ながら、あのトッポまでもが「ちょい買い物」と、朝から出掛けて行った。

…俺が特に心配しているのは、彼の事。

新薬の研究に夢中になっているようで、徹夜続きなのを知っている。

ロクに睡眠もとらず、今朝も眠そうな目をしていたし。

挙句に、今日の昼間の気温は暑いどころじゃない。数値を二度見したくなるような予報が出ていた筈だ。

早めに帰って来れば良いのだけれど…。

 

カウンター周りを片付けつつ、一人優雅に遅めの昼食を楽しんでいた頃だった。

誰かが帰って来た気配。ふと視線を送ると、買い物を終えたらしいトッポが戻っていたのだ。

 

「あぁおかえり、外暑かったやろ」

「おん、ただいま…あつい…」

分かり易く疲弊しており、声は消えてしまいそうに弱々しい。

冷たい飲み物でも出してやろうかと、俺が席を立ったのと同時に。トッポの身体が、ふらりと傾いだ。

「なっ…危な…」

慌てて抱き留めると、触れる肌は驚くほど熱く、呼吸も乱れている。

ぐったりと目を伏せては、俺の声が聞こえているかどうかも怪しい。

「あたま、いたい…きもちわるい…」

「取り合えず俺の部屋運ぶからな、あと身体冷やさな」

そっと抱き上げれば、その軽さに愕然とするが。今は応急処置が先だ。

 

自室のベッドへ寝かせると、濡れタオルや保冷剤を準備したり。

「ごめんなトッポ、服脱がせてもええ?」

せめて上着だけでも。

潔癖気味な彼は、他人に脱がされるなんて嫌がるかと思いきや、こくんと素直に頷いてくれた。

…細い体躯。

ただでさえも頻繁に食事を抜いてしまう奴なのに、最近は特に少食極まっていた。

また少し瘦せたのではないだろうか?

「トッポ、スポドリとか飲めそう?」

「んぅ…のみたい…」

涼しい場所で休ませつつ水分補給させていくと、徐々に顔色が正常になっていく事にホッとする。

 

本人曰く、外出したは良いものの、想定以上の暑さにやられ。

それでも帰路で倒れまいと、何とか気合だけで帰って来たのだとか。

「連絡くれたら、俺迎えに行ったのに」

そう告げると、まるで思い浮かびませんでしたとばかりにぽかんとした表情。

…トッポは、他人に頼るのが下手なのだ。

選択肢として『助けを呼ぶ』という事すら考え至らない位に。

 

「頼ってくれてええよ、俺の連絡先知ってるよな?何処でも行くから、なんかあったら遠慮せんと呼んでな」

「ジョニー…優しいなぁ」

受け答えがまだぽやぽやしていて、可愛いとすら思えて来る。

相手は体調不良の相手だというのに、何を考えているんだか。

汗ばんだ額を撫でてやると、うっとりとこんな事を呟くからたまらない。

「ジョニーの手、冷たくて気持ちええ…」

もっと触ってと視線で乞う始末。

 

成程、今までトッポの事を良く知らなかったが、こいつは天然レベルで凶悪だ。

ドキドキだとかキュンだとか、そんな擬音が飛び交う感覚。

冷静になれと自らに言い聞かせ、今日のところは静かに休んでいてくれと伝え。静かにベッド脇から去ろうとすると…。

「行ってまうの…?」

縋るような口調と目線で追い討ち。

しかしこれは、彼自身無意識に発してしまったようで、すぐに「ごめん」と打ち消してしまう。

トッポが甘えて来るというレアなアクションに、こっちは瞬殺されたというのに。

 

こういう時は、一人だと心細くなるものだろう。

再度彼の傍へ寄ると、不安げな表情で見上げて来る。

「眠れるまでここにおるからそんな顔せんといて、おやすみトッポ」

また小さく頷いては、そっと目蓋を閉じる幼顔。

 

彼に接するたびに、仄かに胸の内に灯る、確かな熱が在るのだが。

…この感情の名前を、探りあぐねていた。

 

 

 

* * *

 

 

 

後日、すっかり体調も戻ったトッポが、夕食後に俺の部屋に訪れていた。

 

何か用事かと尋ねそうになったが、別に用が無くたって来てくれて良いのだ。

彼ともっと話してみたいと思っていた俺としても、嬉しいところで。

ベッドへ腰掛けるよう促すと、申し訳無さげに隅っこに落ち着いた。

 

「こないだはホンマに迷惑掛けてもうてごめんな、ちゃんと謝れてへんかったから…」

「もう、謝るってなんやねん、そこはフツーに『ありがとう』でええねんで」

相変わらず、こういう部分も不器用なのだなと。

謝らなくていいのだと笑んでみせると、トッポが照れ困ったようにはにかむ様子。

「えっと…そっか、ありがとうジョニー、これからは倒れへんように気ぃ付けるから」

「あんまり寝てへんのもマズかったんやろ?睡眠は大事やで?」

「マックとジャッキーにも揃うて怒られたわぁ…」

親に叱られた子供のごとく、しょんぼり反省していて。余程絞られたらしい。

…本当に、オトンとオカン状態だなと。

 

宥めてあげたくなったのだろうか。

自然と手が動いて、彼の頭を撫でていた。

振り払われたりする事も無く、トッポは気持ち良さそうにうっとり目を細めて…。

「ジョニーに頭撫でてもらうの、好きやなぁ」

「ふふっ、嫌がられんで良かったわ」

警戒されているばかりの小動物がやっと懐いてくれた時のような幸福感。いや、それ以上か。

俺まで口元が緩んでしまう。この甘ったるい空気が、妙に心地良いのだ。

 

「俺、ジョニーにお礼しとうて、色々考えてんけど…、ジョニーの好きなものとか、喜ぶこととか、なんも知らんから…」

「お礼やなんて、ホンマに気にせんといてや?トッポが体調悪うて倒れてるなんて、助けるんは当たり前やんか」

それに、俺も同じだ。トッポの事を良く知らなかったと気付けたから。

「知らんかったら、知っていったらええんとちゃう?」

「え…?」

「俺の事もっと知って欲しいし、俺もトッポの事もっと知りたい」

つまり、仲良くなってみませんかという提案。

 

この日以降、俺達の距離は一気に縮まったのである。

 

 

 

* * *

 

 

 

トッポと一緒に過ごす時間が増えるほどに、彼はどんどん新しい顔を見せてくれて、嬉しくなっていく。

俺自身、未だにこの不思議な感情を捉え切れずにいた。

 

彼は好きな事についてはとことん熱く語り。

逆に、俺の話を聞くのも上手だった。

レアな場面ではあるが・笑うと一層可愛らしく華やぐのである。

 

そして、この間倒れたのは、少々厚着をしていた所為もあるのだろうかと。

トッポが自室の衣服の入れ替えをするというので、プチ衣替えを手伝う事になったりもして。

「…夏らしい服って、どれがええかな?」

「そうやなぁ…って、トッポ服多過ぎやろ」

収納には、これでもかと倉庫レベルにみっちり詰め込まれた衣類達。

身に着けるものに対して拘りが強いのは知っていたが、想像以上。

乱雑になっている訳では無く、一応整頓はされていて、本人はちゃんと位置諸々が頭に入っているらしい。

トッポは自身があまり外に出ない事もあり、最近は季節感というより購入時の直感で選んでしまっていたと呟く。

ビビッドな配色も多く、改めて・こういうところにも彼の好みやセンスが見えてくる。

 

「トッポ、こんなん好きよなぁ」

「…ジョニーがいま持ってるやつ、俺が縫うた」

「えっ、凄いやん、やっぱ器用やなー!」

褒められ慣れていないのか、真っ赤になって目を逸らしてしまう。

そんな彼を見詰めては、思わず「可愛えなぁ」なんて零してしまったものだから、さぁ大変。

 

どうやら、トッポの照れの限界ラインを振り切ってしまった模様。

言葉に成らない声を漏らしたかと思えば、驚異の素早さで後方のベッドへ逃げ込むと、毛布の中に潜って籠城してしまうのである。

何だその反応、可愛いどころじゃない。

──ここで、俺の方にヘンなスイッチが入ってしまったのかもしれない。

どんどん攻め突いてやりたくなる気持ちに駆られたのだ。

彼の直ぐ横に座ると、毛布の端を手繰り寄せながら囁く。

「ごめんトッポ、怒ってるん?」

「か、可愛えなんて、俺なんかに言う台詞ちゃうし…」

恥ずかしいから顔を見ないでくれと、頑なに隠れる彼。

 

…あぁもう、たまらない。

ゾクゾクする感覚と愛しい感情が混ざって、やっと自分の中の欲に気付くのである。

 

『好きだ』という、たったそれだけの言葉なのに。

甘い恋人的な意味でも、生々しい肉体的な意味でも、彼の事を欲して。

この可愛さを誰にも見せたくない、独占したいという我儘。

優しくしたいのに意地悪もしたい、そんな濃厚な思いまで詰め込まれている。

 

「なぁトッポ、顔見して?」

「無理やぁ…待って…」

震える声すら可愛らしいのだけれど。

申し訳無いが、強行突破。無理矢理剥ぐのも可哀想なので、俺も一緒に潜り込んでやる。

「ちょ…ジョニー!?」

「トッポは可愛えよ、慣れへんなら何度でも言うたる」

「俺…ジョニーに『可愛い』って言われると、落ち着けへんくなる…」

 

毛布を被ったまま緩やかに抱き寄せると、細腰がびくりと跳ねる。

けれど、逃げる素振りも無い。

どちらの心臓の音か分からないほど、密着していく心地。

「トッポ、暑ない?」

「暑いっちゅうか…えっと、熱いっちゅうか…」

「…俺も」

 

ごめんな、トッポ。

──今から本気で口説くから。

 

 

 

 

 

-貴重なお時間を頂き、有難うございました。