※『ROMES/空港防御システム』における勝手な解釈+妄想補完文

※ドラマ本編の内容のネタバレを含みます

本編後展開妄想・多分、好きな子には意地悪しちゃうタイプ

※緑青さんと言いますか倉安要素を含みます。苦手な方は特にご注意

 

 

 

 

 

 

そわそわ、そわそわ。

ここ数日・ほぼ全ての人々に、会う度「一段と落ち着きがない」「顔がニヤついている」と指摘され続けている。

けれどこれまた殆どが、その理由というか事情を知っているので、深く突っ込まれる来る事は少ない。

隠し切れない+抑え切れない俺の浮かれっぷりが、周囲の皆様にご迷惑を掛けていないと良いのだけれど。

 

だって、申し訳無いが落ち着いてなんかいられない。

…とうとう、待ちに待った日が近付いているからだ。

今週の末頃と言っていたっけ。

連絡を貰ってから、毎日ずっとカレンダーの日付と睨めっこして、やっぱりそわそわしている。

 

「成嶋さんが帰って来るんだ…」

 

約一年前、『ROMES』を巡る一連の事件が落ち着いた頃、彼はイギリスへ戻ってしまっていた。

とはいえ、オンラインで話したり(殆ど俺が一方的に喋っている)・メールを送ったり(殆ど俺からの長文)。

頻繁に遣り取りはしていて、此方の近況はほぼお知らせ出来ていると思う。

…俺が彼女に振られた原因が、成嶋さんの事ばかり話していた所為だという件は若干暈してお伝えし。

チームの面々も元気に頑張ってます、とか。

興味無さそうにしつつも、毎回ちゃんと話を聞いてくれるのが嬉しい。

 

「他の人の話題ばかりじゃなくて、砂村自身の話が聞きたいです」

「俺のことですか?大して面白くなんて無いですよ?」

「大丈夫です、愉快さなんて期待していませんし。貴方の日常だけで充分面白いです」

…何とも引っ掛かる言い方ではあるが、今ではすっかり慣れた。

誤解されやすいけれど、本当はとっても優しい人。

 

最先端施設警備システム『ROMES』、それを完璧に使いこなせる唯一の天才研究者。

人間よりも機械やシステムを信用していると言い切り。

出会ったばかりの頃は、帰国した理由を尋ねても教えてくれないばかりか、全く理解の追い付かない存在だった。

彼の過去や経歴から、テロリストに内通しているという疑いを掛けられたりもしていて。

『ROMES』を利用した企てが有るのではとの疑惑。

…俺は信じられなかった。そんな人じゃない。

 

冷たいだけの情の無い人間みたいに言わないで。

突っ走ってばかりの俺を、何度も制して助けてくれた。

主任と部下という肩書はあったけれど、俺の家族の複雑な事情を知ってもなお、俺に対してフェアであろうとしてくれるのだ。

 

──あの問いに対しても、俺の答えは決まっていた。

「もし僕だったらどうする?」

事件の犯人。テロを仕掛け、皆を危険な目に遭わせているのが成嶋さんだったなら、と。

そんな事は無いって信じている。けれど、もしそうなら。

俺が何をしてでも、成嶋さんを止めると宣言した。

「絶対に、貴方にはそんな事はさせません。俺の命に代えても」

 

彼も俺の事を信じてくれていたと知った時、本当に嬉しかった。

疑念を集めるような振る舞いをしていたのも、黒幕を探る為のブラフだったのだと。

 

あれから一度も此方には帰っていなかった成嶋さんだが、今回・仕事の都合で一時帰国する事になったのだとか。

この報せを本人から受けた時の俺の喜び振りは凄まじかった。

自分でも驚くくらいに、『嬉しい』って感情が抑えられなくて…。

「本当に貴方は分かり易い」と、端末の向こう側から笑われてしまったし。

 

そして現在に至る。指折り数えてそわそわ浮足立つばかり。

『遠足前夜の小学生』『推しのアイドルにでも会いに行くのか』そんな風に揶揄されるほどで。

彼は仕事の為に来るのだからと、自分を何度も戒めはしたが、気付けば顔が緩んでしまう。

「空港まで迎えに行ってもいいですか!?」

「…その空港にお勤めの方が何言ってるんですか」

「あ、そうでした」

先日電話で話した時も、ついこんな調子で。

さすがに煩くしすぎかと反省していると、彼が静かに笑む気配。

口調が凄く優しくて、声音に撫でられている感覚で…。

「荷物持ちくらいには活躍して貰いますから、文句言わないで下さいよ」

「はい!任せてください!」

「…本当に、忠犬度上がってますね」

最後のは、良く聞こえなかった。

 

 

 

* * *

 

 

 

成嶋さんの帰国予定まであと三日となった夜。

俺は自宅で、彼の歓迎プランを練る事に集中しまくっていた。

つい先月、俺も引っ越しをしたところなのだが…忙しくて未だに荷物が片付いていない事にはそっと目を逸らす。

 

成嶋さんの好みに合わせたコーヒー豆のチョイスとストックも完璧。

あの人は飲む量が半端じゃ無いので、油断しないようにしないと。

コーヒーの淹れ方だけは褒められたのだ。

お菓子の方の好みも変わっていないといいなぁ。

チェスについても更に勉強した。

彼にはまだまだ及ばないが、前よりはずっと強くなっている…はず。

「あとは何を準備しておけばいいかな…」

そんな事を考えていくのが楽しくて仕方が無いのである。

 

そろそろ寝ようかな…と席を立った瞬間、携帯端末の着信に気付いて、そちらへ手を伸ばす。

相手の名前を画面で確認すると、ぱぁっと顔が綻んでしまう。

「こんばんは成嶋さん、どうしたんですかこんな時間に…って、すいません、そちらはお昼過ぎくらいですか?」

「いいえ、『こんばんは』で合ってますよ」

「…えっと…?」

時差を加味したつもりだったが、何か間違っていただろうか。

 

遅い時間に申し訳無いが、という一応の前置きが加わり。

真剣な口調に何となく不穏な雰囲気を察し、思わず身構えてしまう。

「何か…あったんですか」

恐る恐る尋ねた直後。

──俺が正確に・なんと伝えられて・どんな反応を返したか。

──彼が正確に・なんと説明して・どんな論法で押し切ったか。

正直なところ、記憶が曖昧な有様なのである。

 

その後の俺の大混乱状態から察して欲しい。

自宅マンションのエントランス前には、見覚えの有り過ぎる立ち姿。俺がずっとずっと、会いたくてたまらなかったひと。

 

成嶋優弥、本人だったのである。

 

 

 

* * *

 

 

 

「砂村、コーヒー飲みたい」

「はっ、はい!」

 

この相変わらずのマイペース振りも、懐かしい。

未だ現状を整理しきれず、全く落ち着く間も無いけれど。

俺の淹れたコーヒーを満足気に飲み干してくれる様子に、やっぱり口元が緩んでしまうのだ。

 

…何故かは教えてくれないのだが、彼は急遽予定を三日ほど前倒して帰国したのだという。

おかげで到着がこんな時間になってしまったとか、準備が多少雑になってしまったとか呟いていた。

「急ぎの用事でもあったんですか?」

問えば、「鈍い」「察せ」と言わんばかりの視線が刺さるが、俺は全然心当たりも無く…。

そして、はぐらかすような話題転換。

「それにしても、貴方は自室に段ボールの山を飾るのが趣味なんですか?」

「違います!俺此処に引っ越して来たばっかりで、片付ける時間が無くてつい…」

そもそも、どうして俺の住所を知っていたのだとか。

この時・疑問に思わなかった自分が怖い。

成嶋さんなら簡単に調べられるだろう、くらいにあっさり納得していたのだろうけれど。

 

…次の台詞は、さすがに疑問符を浮かべずにはいられなかったのだ。

「僕の寝る場所ありますか?出来れば体が痛くならないところが有り難いんですけど」

「…今さらりととんでもない事言いませんでしたか」

「準備が色々間に合わなかったって話しましたよね、ホテルを手配する余裕が無かったんです」

詰めるように、「それとも、こんな夜更けに僕を追い出すような薄情で冷酷な人なんですか」なんて、淡々と説くものだから。

此方の方が思い切り慌ててしまう。

「分かりました!俺のベッド使って下さいっ!!」

「一緒に寝ましょうか?」

「何言ってるんですか!」

 

事前に伝えていてもらえれば、もっとマシな宿泊先を探すくらい出来たのに。

どうにも成嶋さんらしくない。

 

まぁとりあえず、彼も疲れているだろうし。

俺を頼って来てくれたのだと勝手に喜ぶとして、可能な限り睡眠環境を整えてみる。

加えて、お風呂はどうしますか、とか。

お腹空いてませんか、だとか。

家族みたいな事をしているなぁ、なんて。何だかほっこりしたりして。

「あ、そうだ!ちゃんと言えてませんでしたね」

「何ですか?」

きちんと彼の前に立つと、何故かちょっぴり緊張する。

でも、本当に帰って来てくれたのだという実感が今更じわじわと湧いて来て、実は少し泣きそうなのである。

 

「おかえりなさい、成嶋さん」

「ただいま…で、いいんですかね」

 

あぁ、笑ってくれた。

これだけで、単純に心が弾んでしまう俺。

ほんわかと穏やかな空気に浸っていると、ふと成嶋さんの視線が、俺の左肩へと注がれる。

 

「…あの時の怪我はもう平気なんですか」

事件の際、彼を庇って銃で撃たれた傷の事だ。

拳銃での負傷なんて経験は無いから、痛みの比較などしようが無いのだけれど。

きっと俺は、運が良かったのだと思う。今ではすっかり腕も動くし、特に不便を感じる件も思い当たらない。

何より、彼を守れた事を後悔していないのだ。

「大丈夫ですよ、後遺症みたいなのもありませんし…」

「傷は当分残ると聞きました」

「気になりませんから、俺」

平気だというアピールの為に、腕を大きく振り回してみたりするものの、彼の表情は曇ったままだ。

 

ならばと、咄嗟に思い至ったのが、実際の状態を検分して貰おうという案。

部屋着として薄いシャツを一枚着ているだけだったので、すぐさま脱ぎ捨てると、例の傷の痕を示す。

「ほらね、この間までは定期的に病院も通ってましたし、経過良好ですよ、すっかり塞がってるでしょう」

「…大胆ですね」

「え?直接見てもらったら安心してくれるんじゃないかって…あ、背中側も見ます?」

今度はくるりと背を向けて、後ろもチェックして頂こうとしたのだが。

次の瞬間、動揺を隠せなかった。

 

静かに彼の片腕が伸ばされたかと思えば、俺の腰部へ回され。

恭しく引き寄せるように距離が縮まり、肩口にふわふわと触れるのは成嶋さんの柔らかな髪。

腕の中の心地良い温もりと、何でこんないい匂いがするんだろうと、甘い目眩。

「なっ…成嶋さん?」

「触れても痛みませんか」

「痛くないですけどっ…ひゃ!?」

傷痕を、口唇で軽く食むように撫でられた気がした。

驚いてびくりと身体が跳ねるも、彼は離してくれそうに無い。

 

「…僕の所為で砂村が傷付くのは嫌なんです」

「成嶋さんの所為なんかじゃ」

それに、この傷は別としても・普段からボロボロに口撃はされているので、メンタル的には結構傷付いてるんですよ、なんて言い返してみる。

すると、「愛情表現です」とか、また冗談を言うし。

耳のすぐ近くで喋るのも勘弁してくれないだろうか。

俺が女性だったら間違い無く口説かれている。

僅かに身を捩ると、後方の彼と視線が交わり。間近で見詰められ、その艶美さにゾクゾクと身体が火照る感覚。

 

なんだ、これ。

心臓の音が煩い。

触れられる箇所が全部熱い。

真っ赤になって狼狽えるばかりの俺に、成嶋さんが意地悪く笑んだ。

 

「僕に会えなくて寂しかったですか?」

「寂しかったに決まってるじゃないですか!」

「いいお返事です」

 

彼はいつだって、俺の想定外の言動で惑わせるばかり。

…考えた通りになんか、動いてくれないのである。

 

 

 

 

 

-貴重なお時間を頂き、有難うございました。