※緑さんのお誕生日によせて
※青さん視点。甘々てんこ盛り・激甘党さん向け

※緑青さんと言いますか倉安要素を多大に含みます。苦手な方は特にご注意

※少々関係をほのめかす描写あり。ご注意

 

 

 

 

 

 

恋人の部屋で、恋人に後ろからハグされながら、恋人の温もりと甘い囁きに浸っている。

しかしこんなのは、俺が嬉しいだけではないのだろうかと。

「ホンマにこんなんでええの?もっとおもろいこといっぱいあるやろ?」

「ええに決まってるやろ、俺にとっては最高の贅沢やし、我儘聞いてくれてありがとうな」

 

大倉の誕生日を迎えるにあたって、事前にストレートに『プレゼントは何が欲しいか』的な問いを投げていた。

サプライズも大好きだが、きちんとお伺いを立てるのも良いかと。

てっきり、具体的なモノを指定されるか、もしくは面白可笑しいネタに走るか…。

前提としては『俺が実現な内容であればどんなものでも』というざっくりな条件は提示した。

返事はすぐじゃなくてもいいから考えておいてよ、くらいの感覚だったのに。

 

彼はまったく悩む素振りすら無く・即答。

「ヤスと一日、家で二人きりで過ごしたい」

 

物凄く優しい笑顔で、それはもう純粋なまでに真っ直ぐだった。

…何だそれ。そんなの休みの日を合わせれば、別にいつでも叶えられるではないか。

まぁ確かに、最近お互い仕事が忙しくて、一日ベッタリなんて難しくはあったけれど。

「誕生日にヤスを一日堂々と独占出来るんやで、凄ない!?」

こう嬉々として主張されては、駄目だとも返せない。

 

『可愛いじゃないか』なんて思っていた内は、まだマシだったのだ。

 

 

 

* * *

 

 

 

あっという間に当日。

一応、サプライズとして『ただよしくんお誕生日おめでとう』ケーキを持参してきた。

甘さ控えめ・チョコプレートなど装飾部分は俺のお手製。

凄く喜んでくれて、すぐ食べたいけど勿体無いから夕食後まで我慢する、と言っていたのも嬉しかった。

 

大倉の希望通り、朝からまったりと二人だけの時間を過ごしている。

他に予定を入れる事もせず、出掛けるという選択肢も無い。

彼の誕生日という事で来訪者も居そうなものだが、今日に限っては空気を読みましょうと当人が周囲に牽制済み。

「今日はなーんもせんでええよ、ヤスと家でゴロゴロしてたい」

リビングのソファーでぴたりと密着しては、少年のような笑みが零れている。

 

本当に何をするでも無く、ただ穏やかな時間に身を任せているだけ。

それなのに、終始大倉はご機嫌顔。

安上がり過ぎませんかと再度尋ねるも、彼があまりに嬉しそうに笑うものだから、結局どうでも良くなってしまうのだけれど。

 

多分、これは大倉の優しさなのだろう。

ここ暫くは双方多忙で、時間的にも擦れ違う場面が多かった。

『大倉の誕生日』という事で俺が張り切るあまり、それが負担になるとでも考えてくれたのだろう。

疲れているだろうから休みなさい、という間接的な配慮なのだと受け取る。

 

…その割には、昨晩は寝かせてくれる気が無かったようだが。

実は俺が到着したのは前夜。彼の誕生日を迎える瞬間も、時計を見ながら寝室でイチャイチャし倒していた訳で。

意図せず緩めの禁欲生活状態となっていた俺達。

久し振りに濃密な時間を過ごす恋人同士が、誕生日という一大イベントに燃えない理由が無い。

羞恥心などあっさり置き去りにされ、貪欲に求め合った。

挙句に「日付変わるときは繋がったままがええ」なんて強請られて、頷くのみで…。

 

俺の中の、仄暗い独占欲と優越感が顔を覗かせる。

誰よりも先に、「誕生日おめでとう、おーくら」って言いたかった。

一番最初は、俺でありたい。形容し難い感情が湧き上がる。

彼に恋人として寄り添う時間が増えるごとに、自分の胸の奥に眠っている欲を次々気付かされるのが面白い。

 

しかし俺は、『俺との時間がプレゼントである』という内容を、甘く見ていたのかもしれない。

安請け合いしたという訳では無いが、圧倒的に・覚悟と想像力が足らなかったのである。

 

甘えんぼ大倉君が全力全開。

俺ですら、ここまでのものはかつて見た事が有ったか?ってくらいの。

構って頂戴オーラが止め処無く迸り、突っ込みが追い付かない程。

『あざとい』と『格好良い』が乗算されたジャンルはなんて呼べばいいの?

 

まず、離して貰えない。

密着なんてものを通り越して、超強力磁石並み。

前から後ろから、ぎゅうぎゅう抱き締められるのはデフォルト。室内を移動時には、携帯されるレベルで抱えられ。

まるで、小さい子供がお気に入りのぬいぐるみを手離さない様子に似ている。

…まぁ、ぬいぐるみ相手にキスをしたり・愛を説くお子様は稀だとは思うけれど。

 

「おーくら、疲れてる?」

「へっ?なんで?」

これは以前、大倉当人から指摘された事が有る。

『俺達の間でしか通じない感覚かもしれないけれど』的な前置きを含む。

──「ヤスは、疲れてる時・しんどい時ほど『何でもないよ』って壁を作って他人を遠ざけようとしてまう」。

──「逆に俺は、限界が近い時ほどヤスに構うて欲しゅうて甘えとうて、普段以上に身体がヤスを求めてまう」。

つまり、大倉自身が気付いていない疲労やストレスの限界ラインを、それで察するなんて事も。

甘えてくれるのも頼ってくれるのも嬉しいけれど、…心配でもあるのだ。

 

今の俺の考えが、表情のみで伝わったらしい。

目が合うと、緩んだ笑顔で返してくるのだ。

「ヤスは心配性やなぁ」

「…おーくら、色々溜め込んでまうやろ」

「ふふっ、ヤスにそれ言われるとは思てへんかった」

大倉の場合、顕著に体調面に表れる事もあるから。

支えたいだなんて烏滸がましいが、彼がいつものように笑ってくれるのなら、何でもしてあげたいとは思っている。

 

「ホンマになんもあらへんて、誕生日ってイベントににかこつけて、一緒に居れる幸せ感に浸ってるだけ」

「…しあわせ?」

「ヤスが俺の為に一日空けてくれて、一緒に誕生日祝うてくれて…こんな好き放題さしてくれるんやから」

最高に幸せだとしか言えないだろ、って。

「もしかして、俺がヘラヘラしすぎとって不安になった?」

「自覚あったんやなぁ」

「しゃあないやろ、こんなんヤスにだけやから許して」

 

優しく抱き寄せられ、柔らかく重なる口付け。

それと同時に、早速悪戯が始まる。

背を撫でる指先が、するりとシャツの隙間から侵入し、肌上を我が物顔で這い。俺の敏感な部分を探ろうとする。

「んっ…」

数時間前まで散々可愛がられた身体は、微細な刺激でさえ容易に快感として拾い上げてしまう。

無防備に曝された首筋にもキスが降る。

そこには既に、昨晩の痕が大量に散っていて。これ以上増やされたらさすがに目立つからと一応叱るものの…。

「見えへんとこにするから」

「嘘つきやぁ、さっきもそう言うとったし」

反論するも、軽やかにスルーされて。

くすぐったくて身を捩れば、口唇が追い掛けて来る。

まるで俺のものだと所有の証を刻まれているようで、ゾクゾクと身悶えるのだが。

「歳の数だけ付けたなるなぁ」

「なんで俺に!?ケーキの蝋燭みたいなノリやめろやー」

とはいえ、とても言えないような個所にもたくさん。

恥ずかしいのに、執着されているのが嬉しいとすら感じる。

 

次第に触れ合うだけじゃ足らなくなってきて、身体の芯が疼いてたまらない。

どうにかして欲しくて、視線で乞う。

「…ヤス、ベッド連れて行ってもええ?」

まだ真っ昼間ですよ、なんて。心にも無い事を口にして。

返事の代わりに、キスで応える。

 

「最近俺もおーくらも忙しかったから、ずっと我慢してくれとったやろ?」

「実は、我ながらよう耐えてるわって思うとった」

我慢していたのは、大倉だけじゃないんだって伝えたくて。

少々大胆に身を絡めると、「今日はぜんぶ、おーくらの好きにしてええよ」と囁いた。

勿論、ちゃんと本心からの言葉だったのだが。

──秒でちょっぴり後悔した。

 

「ホンマに?撤回はナシやで?」

「…なんでそんな食い付くん?」

途端にギラギラ鋭利に光り出す視線がコワい。

逃がさないとばかりに、腕に力がこもるのも感じられた。

思わず圧されて動揺しているうちに、あっさり寝室へ攫われていく俺。

 

この日、肉体的にも精神的にも、俺の中の色んなものが彼に奪われた気がする。

良く言えば、鍛え上げられたとも。

心も体も両方の意味で、『入っちゃいけないところ』まで攻められた感覚。深部まで侵され暴かれた。

今度はドS全開な彼にお腹いっぱいにされ、もう入らない。

涙で僅かに霞んではいたが、憎たらしいほど満足げな大倉の表情は忘れまい。

…癖になったらどうしてくれるんだ。

 

恭しい口調で「またひとつオトナになった俺を堪能してや」と、甘く低い声が耳を撫でる。

待って待って、まだ外は明るいんです、夜はこれから。

夕食後もまた食べられる事確定、けれど嫌がっていない・正直過ぎる俺の身体。

彼に与えられる快感にも従順で。

 

グルグル考えた末、大倉があんな幸せそうに笑ってくれるのなら、それでいいや、なんて。

笑顔に包まれながら、俺も幸せ。

今だけ、深く考える事をやめてみた。

 

 

 

 

 

-貴重なお時間を頂き、有難うございました。