※『ナントカナルサ』楽曲における勝手な解釈+妄想補完文

※緑青さんと言いますか倉安要素を多大に含みます。苦手な方は特にご注意

※緑さん視点。失敗から学ぶ特殊プレイについての考察

※少々関係をほのめかす描写あり。ご注意

 

 

 

 

 

 

「おーくらさんにオシオキをしようと思います」

「…マジかぁ」

ふふっ、と妖しく笑むヤスの色気に飲み込まれていく。

 

──同居を始めて丁度1年。

お付き合いを始めたのは更に遡る事になるが、これも10年は余裕で超す。

出会った頃から数えたら、もう何年一緒に居るのだろうか?

それでも、マンネリなんてものは無縁。

むしろたった今から、新しい扉を開いてしまいそうになっている訳で…。

 

一緒に住み始めて1周年だ!…という事で、夜に自宅でささやかなお祝いをしたのである。

言い換えれば、普段より羽目を外したただの酒盛り状態。

二人で準備したおつまみ代わりの食事と共に、テーブル上のお酒類は凄まじい勢いで空になっていく。

そんな酔っ払い×2のきゃっきゃフワフワしたノリが、次第に悪い方向へ流れて行くのを、お互い分かっていて止めなかった。

 

…切っ掛けは何だったか。

もう明確なところが思い出せない程、いい加減な調子の中。

ヤスがぽつりと「怒った」と零し。

ほんのり火照った顔で迫って来るではないか。

「こないだのデートの時3分遅刻した」だとか。「冷蔵庫にあった俺のプリン食べたやろ」だとか。

いつもはそんな事で揉めたりしない・ゆるゆるなネタで喧嘩腰。

ヤスは今夜は珍しく絡み酒モードなのか?

 

すると彼が、ふっと何かを思い付いたという様子で一笑。

但し、良案では無く・イタズラ心に満ちた表情である。

「ええモン持ってくる、すぐ戻るからっ」

此方の返事も聞かず、素早くリビングから姿を消すと、本当に数分と経たずに戻って来た。

何かを後ろ手に隠しているようだが、特に説明も加えず、真っ直ぐ俺の方に歩み寄って…。

「おーくら、こっち向いて?」

ふにゃふにゃ可愛らしい笑みに、完全に油断した。

ヤスは俺の膝の上に座り込むと、至近距離でじっと見詰めて来るものだから、思わず応えてしまったのだけれど。

 

…そこそこイイ雰囲気のはずだった。

しかし、そこで響く・謎の金属音。

『カシャン』と軽めの音が、俺の手元から聞こえたような…。

「ふふっ、オモチャやけど、なんかヘンな気分になってまうなぁ」

「…は?」

恐る恐る、視線を下ろしていくと。俺の両腕それぞれに鈍く光る銀輪が嵌っており、それを繋ぐ細い鎖。

「なんや、コレ…」

「見て分かるやろ、手錠」

いや、そうじゃなくて。

何故そんなモノがあっさり出て来るのか・そして何故俺の腕を拘束しているのかを教えてくれ。

 

錠の部分は確かに金属製だが、その他のパーツは簡素な素材。

一応、手首が痛まないように、内側に緩衝材のような装飾が施してある。

「むしろ俺の方が聞きたいわ、おーくら、こんなん何処で買うてきたん?」

「はぁ?俺!?」

「先月かなぁ?ベロベロに酔うて帰って来たことあったやんか、玄関で寝てまいそうになっとったから声掛けてんけど…」

その時見付けたんだ、と。

何となくイヤな予感を察したとの事で、俺が起きる前に即没収して隠していたのだと暴露された。

 

買って来た記憶すら無い俺自身も相当ヤバい気がしたが、それどころじゃない。

「…コレで俺にワルいことする気やったん?」

しなだれ掛かるヤスの貌が、一層熱を帯びて艶を匂わせる。纏う色気にゾクゾクと身悶える感覚。

「おーくらは、手ぇ使たらアカンよ」

「ハンデなん?」

「ちゃうよ、俺が好き放題してまうだけ」

 

ちゅっ、と軽く唇を奪われたのが合図のように、酒香と混じって部屋中に漂う熱欲。

この直後、例のお仕置き宣言が鮮やかに降る事になるのだけれど。

俺は良い意味で酔いが醒めて来て、目の前の異質な状況に美味しく対応モード。

Sっ気を醸し出して来たヤスに烈しく興奮してしまったのは、言うまでも無いだろう。

 

 

 

* * *

 

 

 

ヤスの身体の負担を考えて、寝室まで移動したいところだが…次第に、そんな余裕すら無くなっていく。

今夜の彼は一段と積極的でたまらない。

リビングのソファーで甘く絡み合っては、濡れた吐息が耳を染める。

 

だが、ヤス曰くこれは『オシオキ』なので、主導権は彼のモノ。

俺の上に跨るように身を寄せると、可愛らしくも煽情的なキスの雨。

首筋に、耳朶に、鎖骨に。

時折、身体の芯から蕩ける濃厚な口付けを唇に。

さらりと流れる髪も綺麗だな、と思う。

 

思わず此方も手が伸びるけれど、考えている以上に手錠が邪魔で巧く動けないのだ。

カチャカチャ煩いわ、金具か何かで彼の肌を傷つけてしまうのも嫌だし。

「こらおーくら、アカンってば」

「ヤス、鍵は?」

まさかこうまでされて『鍵は知りません』なんて言われたらどうしようかと思った。

彼は「ちゃんと準備してるから安心してや」と答えた上で。

「探してみる…?」

挑み誘う視線で、自らの身体を示すものだから。諸々滾ってしまうではないか。

 

繋がれた腕を、そのままヤスの頭の上からくぐらせるようにし、彼の腰の辺りで抱き寄せて。

細腰をやんわり撫で回し、指先は臀部を伝う。

「んっ…ひぁ、もう…そんなトコに無いて…」

漏れる声音も熱っぽく揺れるくせに、自分から下肢を押し付けて来ている事に気付いていないのだろうか。

ヤスはわざと焦らすように触れて来るし、快感に弱いのはお互い様。

昂るばかりの身体と、決定打に欠ける愛撫合戦。確かにこんなのは、俺へのお仕置きとしては効果抜群。

 

彼は今夜に限って、やたらと生地の織り目が分かり辛い服を着ているし。

何処がポケットなのやら、衣嚢部分を探るだけでも忙しい。

いっそ全部剥ぎ取ってやりたいところだけれど、やはりコレが文字通りの手枷となっているのだ。

「おーくら、こんなんしとっても触り方巧いなぁ…ふぁ…、気持ち良うなってまう」

「ヤスの反応がヤラしくて煽るからやろ」

「…誰かさんがそのヤラしいコトばっか教えるから、俺もどんどん敏感になってもうてるやんか」

 

半分肯定。半分異議アリ。

初めのうちこそ、こういう行為においては俺がグイグイ押しまくっていた気がする。

しかし、同性相手というのは二人とも経験が無かったし、双方手探りの面もかなり多かった。

体当たり感で色々失敗もあったが、今となっては良い思い出なのかもしれない。

…ただし・ヤスは最初からヤラしかった。

これだけは明言しておく。譲らないとも。

無意識なのか故意なのか、ヤスのお誘いオーラは時と場所を選ばないのだ。

容易く囚われては、貪るように食らい付いてしまう日も多々あって。

俺も反省はするが、ヤスも懲りない。うっとり蕩けながら「もっと」なんて強請る始末。

付き合いたての時期は、それの繰り返しだったのを鮮明に憶えている。

 

…ヤバい。あの頃のヤスの姿まで生々しく回想してしまった所為で、この状況と相まり・身体が正直過ぎる。

そろそろ我慢の限界。欲しくて欲しくておかしくなりそうだ。

「なぁ、コレ外してや」

「もうギブアップ?」

「いつもみたいにヤスのこと可愛がりたい」

自分から大胆に乗っかってくれるのは、眼福な上に俺が美味しいだけなのだけれど。

出来れば此方が万全の状態でお願いしたいところ。

中途半端に脱がせた服の隙間から、敏感な部分を弄ってやる。

「んぁ…おーくら…」

悩ましい声で名前を呼ばれるほどに、良い酒で酩酊する時にも似た心地良さに溺れる。

 

「反省、してる?」

していますとも、それはもう。

…現在進行形で俺を悩ませてくれている・両腕のコイツを購入した記憶すら無いという事も含めて。

「コレ外したら、もっと気持ちええことしてくれるん?」

「任せろ」

やや食い気味に即答すると、嬉しそうに顔を綻ばせて。

「…しゃあないなぁ、許したる」

上着の前部の方に内ポケットがあるから、そこを確認してみて、と。やっと鍵の有り処を教えてくれた。

彼の胸元を、少々手癖悪く探ってやると。愛らしく乱れる様と、跳ね高鳴る鼓動が伝わってくる。

 

「失敗したなぁって…思てるんや」

「何が?」

「おーくらへのお仕置きなのに…俺の方が疼いてもうてアカンかった」

腰が甘く卑猥に揺れ、ココの奥が切ないんだ、と訴えかけるのだ。

 

あぁもう、可愛いが過ぎる。 

 

 

 

* * *

 

 

 

ちなみに、例の手錠の行方についてだが。

 

後日、これまたイイ雰囲気だった場面での・再度不穏な金属音。

思わずトラウマレベルで逃げ出してしまいそうになったが、自尊心だけでなんとか堪えた。

…見ると、やはりヤスの手元にはアイツが居たのだ。

まさかそっちのプレイに目覚めさせてしまったかと、内心焦りまくるのだが…。

 

「あんなぁ、やっぱ、してみたい」

「…は?」

「俺にもコレで、ワルさして欲しい…かも」

照れながらも、『興味が湧いてしまった』的な呟きをぽつりと交えてくる。

この瞬間のヤスの表情がたまらなくて、形容し難い感情に暴走しそうになったのは黙っておこう。

 

「引いてもうた…?」

そんなのある訳が無い。即座に否定。逆に食い付きまくってやる。

「ええの?俺一応経験者になってもうたから、本気出してまうけど」

「えっと…お手柔らかにお願い致します…」

 

コレがまさかの・二人の中で超局地的なブームが続き、まぁまぁ長い間お世話になることになるのだけれど。

この頃の俺達は、予想もしていなかったのである。

 

 

 

 

 

-貴重なお時間を頂き、有難うございました。