キラとラクスのお話し。


キラと出会い、アスランと会い、ラクスは自分の想いを伝えられる人かどうか、相手をずっと見ていました。


アスランに自分の想いを伝えたとしても、アスランではちょっと…。けど、キラなら…。ラクスは、自分の想いに応えてくれるのはキラではないか?と考えるようになっていきます。そんな時、ラクスはキラと再会します。





ー事実を突きつけるー


キラはニコルを、アスランはトールを。お互いがお互いの友を手にかけた。その瞬間、友は憎い敵になった。怒りと憎しみから、二人は仇を討つために本気でお互いの命を求めて戦い合う。それはもう戦争ではなかった。私怨からくる私闘であった。機体がボロボロになっても戦いを止めない二人。アスランのイージスが組み付き、自爆させたことで戦いは決着がつく。友が友を手にかけ、友が友に殺される。「敵だから」。「味方ではないから」。憎しみが憎しみを呼んだ、悲しい悲劇だった。




ラクス邸で目覚めたキラは、ラクスに話します。アスランと戦ったことを。


キラ「僕は、アスランと戦って…」


ラクス「えっ…?」

キラ「死んだはず…なのに…」


死んでいたかった。


それは、キラが自分のしたこと、してきたことを認識しているということ。が、死ぬことで罪を償うのは、逃げでしかありません。


これまではおっとりと穏やかだったラクスですが、アスランと戦ったと聞いてから、少し態度が変わります。


キラ「どうしようもなかった。僕は、彼の仲間を殺して、アスランは、僕の友達を殺した。だから…」


ラクスは、どうしようもなかった、「だから…しかたのないことだった」という言い訳や、逃げは許しません。また、キラの体を優しく受けとめて手当てすることはしても、キラのしたことを優しく受けとめてヨシヨシするということも、決してしません。


事実のみを、本人に突きつけます。


ラクス「あなたはアスランを殺そうとしたのですね?そして、アスランもあなたを…。でも、それはしかたのないことではありませんか?"戦争"であれば。お二人とも"敵"と戦われたのでしょう?違いますか?」

キラ「!」


その通りです。「"敵"と戦った」のです。


これまで見てきた柔らかな笑みはそこにはなく、冷徹さを湛え、ラクスはキラの心に針をチクッと刺します。つまり、キラにとってはキッツイことを言っているのです。それは、キラに自分のしたことの事実と向き合わせるためです。あなたのしたことは、こういうことなのだと。決してそこから逃がしません。事実を突きつけ、向き合わせる。だから、言い訳は通用しません。できません。


出撃前のキラの決意。言い聞かせた言葉。「僕は、君の"敵"?そうだね、アスラン…」


"敵"とは?


「戦争だから」、「敵だから」、戦うのはしかたのないこと。自分や、自分の仲間などを守れないから。殺さなければやられてしまうから。だから、守るためには"敵"を殺すしかない。だから、自分とアスランが戦うのもしかたのないこと。


"戦争"で"敵"だから戦い、殺さなければならない。例えそれが友達であっても。大切な人であっても。


キラ「"敵"…」

キラは考えます。それは、本当にそうなのだろうか?と。


戦争から遠い場所にいるのに、一番戦争の本質を見ており、知っているラクス。彼女がただ者ではないことに、キラは気付けるでしょうか?




ー考える時間ー


ここは戦いのない穏やかで平和な場所。戦えと強要や命令する者はおらず、ラクスがいるから、以前のように孤立することはありません。正に、キラが望んでいる場所とも言えます。


キラ「哀しいよ…。たくさん人が死んで、僕も、たくさん殺した…」

ようやくキラはこれまでのことを振り返り、見つめ直し、考える時間が持てたことがわかります。(20話はアスランがこれが出来るチャンスでした)


ラクスの前で取り繕うことなく、キラは話します。弱っている姿だって見せます。これは、キラがラクスの前では取り繕う必要がないと思っているからであり、そういう安心感や、母性をラクスから感じていると読み取れます。甘える時は素直に甘える。それが出来るキラは、アスランのように男のプライドやメンツを振りかざしたり、拘ることはない人といえます。


ここでも、ラクスは事実のみをキラに言います。


ラクス「あなたは戦ったのですわ。それで守れたものも、たくさんあるのでしょう?でも…」


そこに励ましや気休めなどは一切ありません。あるのは、事実のみです。キラは少しずつ、ラクスが「見かけどおりの女の子ではない」ことに気がついていきます。(まだ不思議な人だなくらいの感じ)



ラクスの言ったことは、紛れもなく事実です。正論とも言えます。


キラの戦いは守るためでした。が、それはバルトフェルドとの戦いまででした。その後のキラは、敵をバンバン殺していきます。容赦のない戦い方。それは最早、戦闘行為とは呼べなくなっていました。そんなキラの戦い方を見たバルトフェルドは、キラをバーサーカーと呼びました。そして、問います。君はどこまで戦うのか?と。敵であるものを全て滅ぼすまでか?と。殲滅しようとしていたキラに、殲滅以外の道があることを示され、キラはずっとその問いを抱えたまま戦い続けます。


その一方で、ザフト軍側を見ればわかりますが、キラは敵側の哀しみや憎しみを生み出し、増やしてしまっています。みんなを守る一方で、誰かを傷つけ、哀しませている戦争の矛盾。それに気付いているからこそ、キラはこうして涙を流すのです。自分のしてきた事実が、キラを打ちのめしているからです。この時のキラは、自分のしてきたことに対する事実(罪)と向き合っていると言えます。



ラクス「大丈夫です。ここは"まだ"、平和です」


偽りの平和であること。ラクスはこの先に起こり得ることがわかっている人と言えます。


ラクス「ずっとこのまま、こうしていられたら良いですわね」

ずっとこうしていたいという気持ち。それは、何もせずにこうして穏やかに暮らしていたいというラクスの本音です。


何故、本音が出てくるのか。


"まだ"平和ですと言ったり、「こうしていられない」ということがわかっているからです。遠回しにキラを諭しているようにも聞こえます。そして、キラは素直にそれを受けとめて、また考えます。




ー終わる平和ー


キラ「不思議だなって思って。何で僕は、ここにいるんだろうって思って…」

ラクス「キラはどこにいたいのですか?」


キラ「わからない」


ラクス「ここはお嫌いですか?」


キラ「ここにいて、いいのかな?」


キラが迷い、疑問を抱き始めていることがわかります。それを象徴するかのように、空は曇っています。


自分のいる場所は、ここではないような…。何か違うような…。自分はここでこうしていていいんだろうか?キラはまだ、迷いの中です。


そんな時、ついにオペレーション・スピットブレイクが開始されます。その報せが、ラクス邸へ報告されますが、内容は信じられないものでした。


「シーゲル・クライン!我々はザラに欺かれた!発動されたスピットブレイクの目標はパナマではない!アラスカだ!」


キラ「!」


手にしていたティーカップを落とし、ガチャンと割れます。

通信によって断ち切られた和やかな会話。まるでキラの横っ面を叩いたかのような衝撃を与えた通信内容。そして、割れたカップ。キラの今いる場所(世界)が終わりを告げたのです。


偽りの平和の中に自分がいたことを、嫌でも突きつけられる。悟らされる。思い出すこともしなかった、アラスカという地。そこには、同じように思い出すこともなかった"彼ら"がいる。


「彼は一息に地球軍本部を壊滅するつもりなのだ!評議会は、そんなこと承認していない!」


さらに追い討ちをかける内容。その地球軍本部に、"彼ら"はいる。同じように欺かれた地球軍本部は、あっという間にやられてしまうだろう。そして…。


苦しみ、葛藤するキラ。


その後も雨が降り続ける外を眺め、キラは一人迷い、考えます。




ーわたくしは、あなたを信じますー


ラクス「キラ?」


振り向いたキラの顔は、晴れた空と同じように、スッキリとした顔をしていました。そして、ラクスに告げます。


キラ「僕は、行くよ」

ラクス「どちらへ行かれますの?」


キラ「地球へ。戻らなきゃ」


ラクスは、事実を突きつけます。


ラクス「なぜ?あなたお一人戻ったところで、戦いは終わりませんわ」


その通りです。それどころか、地球へ向かうシャトルさえ出せない状況にあります。力も移動手段も何もないのです。そして、キラが戻ったところで何が出来るでしょうか?もしかしたら、全て手遅れになっているかもしれません。


キラ「でも、ここでただ見ていることも、もうできない。何もできないって言って、何もしなかったら、もっと何もできない。何も変わらない。何も終わらないから」

望んでいた平和な場所で決めた、キラの決意と道。


キラ、~だからという諦観サイドから、自立、意志サイドへ。


自分一人でも行く。自分一人でもやる。それは、誰かに言われたわけでも、命令でもありません。キラが自分で決めた、キラ自身の決意で歩む道です。動かなければ、何も変えられない。声に出さなければ、何も伝わらない。変えたいと思うのなら、まずは個人が動くこと。だから、僕は行く…と。


ラクス「またザフトと戦われるのですか?」


キラは、首を横に振ります。

ラクス「では、地球軍と?」


キラは、再び首を横に振ります。


キラ「僕たちは、何と戦わなきゃならないのか、少し、わかった気がするから」

「戦争だから」、自分たちを守るためには殺さなければならない。


「敵だから」、どんなに親しい人であっても戦わなければならず、殺さなければならない。


それは「戦争だから」、「敵だから」、「命令だから」、「軍人だから」、「任務だから」しかたのないこと。


本当に?


「俺たちは人殺しじゃない。戦争をしているんだ!」ムウさんは、以前キラにそう言いました。だから、しかたのないことだと。割り切れなければ、みんなも自分もやられるのだと。


人殺しはダメで、戦争ならば人をいくら殺しても構わない。何故ならば、「敵だから」だ。「敵」である以上、味方ではない。だから、いくら殺しても構わない。それが、「戦争」の考え。


だから、人を撃つことも命を奪うことも、どんなに親しい人であっても戦い、殺すことは正当化される。それが「敵だから」、「戦争だから」などという理由だけで。たったそれだけの理由で人を撃ち、殺す。殺される。


それは本当にしかたのないことか?正しいことか?


いいや、間違っているのは、その理由である。



キラの答えを聞いたラクスは、ハッとします。


ラクス「!」

それは以前、ラクスがアスランに出した問題(宿題)でした。あの場にキラはいなかったので、当然キラはそれを知りません。が、キラは答えました。


どういうことか?


キラが自分で問題を見つけ、考え、答えを出したということです。そして、その決意と覚悟の強さ。


自分の想いを伝えられる人か、託せる人か。アスランとキラに対して同じように見ていたラクスは、キラに託すことを決めます。


自分で考えて答えを出したキラに、全く出せなかったアスラン。


これが、決定打でした。


ラクス「わかりました」


わたくしは、あなたを信じます。



ラクスは、ザフト軍の赤の軍服を着るようにキラに言います。


ラクス「あちらに連絡を。ラクス・クラインは、平和の歌を歌います、と」


それは始動の合図と号令。ついにラクスも動き出します。ラクスもまた、覚悟を決めます。


ラクス邸にいる人物は、皆がラクスの支援者で協力者。つまり、クライン派。「あちら」にも多くいることは、このあとの描写でわかります。




託される想いと、託される新たな力。それは、キラの決意の象徴。自由の翼が舞い降り、戦場を駆ける。次回は、キラの出した一つの答えを掘り下げていきます。