ディアッカとミリアリアのお話しです。この二人のドラマについて、書いています。




ー普通の女の子ー


捕虜となって連行されてきたディアッカは、戦艦に女の子が乗っていることに興味を持ち、ミリアリアに声をかける。しかし、そこで放たれた言葉は軽口では済まされないものだった。


次に二人が会ったのは、医務室だった。異質な存在に対する畏怖の念によって、恐れ戦く(おののく)ミリアリア。敵兵という未知な存在、コーディネイターという異質な存在と密室で二人きり、間近にいること。そんな状況が怖くて恐ろしくてたまらない。


そんなミリアリアを見て、ディアッカは口を開く。


ディアッカ「何だよ?そのツラは?俺が怖い?珍しい?大丈夫だよ。ちゃーんと繋がれってから」


そう言って、拘束されている手を見せる。一度
開いた口は閉じることはない。ディアッカは続ける。


ディアッカ「つか、お前また泣いてんの?何でそんな奴がこんな艦(ふね)に乗ってんだか。そんなに怖いんなら、兵隊なんかやってんじゃねぇっつぅの」


言い方は非常に腹立つが、ディアッカの言ったことは軍人として真っ当なことである。


「軍に志願する」ということの重大さを、ミリアリア含むヘリオポリス組はさしてロクに考えもせずに、「みんながやるから」といって簡単に決めてしまった。その結果が、キラとトールの犠牲である。戦場に出ることとは?、戦争をすることとは?そのロクに考えもしなかった重大さを、ここに来てようやく理解することになるのだ。考えもせずに安易に決めてしまったため、心構え何てあるはずもない。安易な決意の代償は、あまりに大きかった。


だが、それをからかいの対象にしてはいけない。


ディアッカ「あぁ、それともバカで役立たずなナチュラルの彼氏でも死んだかぁ?」

トールの死という事実を受けとめることが出来ないでいる。悲しむミリアリアに放たれた侮辱の言葉。「バカで役立たず」。コーディネイターからすれば、ナチュラルはバカでノロマな猿くらいの認識だろう。トールの存在、命さえも。お前たちにとって、トールの死、命はそんな虫ケラ程度の認識かー!


その瞬間、ミリアリアの中にあった恐怖は消え失せ、怒りと憎しみに変わる。手にナイフを持ち、ディアッカめがけて振り下ろす。

しかし、さすがはコーディネイター。優れた反射神経でナイフをかわす。


ディアッカ「何すんだよ!?コイツ!」

明確な殺意。怒りと憎しみ。それらが刃に込められ、向けられる。ディアッカの表情は、恐怖に変わる。


しかし、ミリアリアは追撃の手を緩めない。溢れ、流れ落ちる涙を拭おうともせずに。

二人はもんどりうって、ベッドから転げ落ちる。


しかし、そこへサイが入ってきて、ミリアリアを止める。


ミリアリアは取り乱しながら叫ぶ。


ミリアリア「離してぇっ!トールが、トールがいないのに、何でこんな奴、こんな奴がここにいるのよっ!!?」

ディアッカ「………」

ハッキリと自分に向けられた怒り、悲しみ、憎しみ。それは、今まで考えたことも想像したこともなかった。


ミリアリアは、異質な存在に対する畏怖の念を除けば、ただの普通の女の子だ。この普通の女の子というのが、大きなポイントである。ここでは、フレイやサイみたいにコーディネイターに対する明確な差別感情を持っているキャラクターではダメなのだ。普通の女の子であるミリアリアでないといけない。ガンダムSEEDで伝えたいことが描けないからだ。


トールの死という事実を受けとめることが出来ないミリアリアの前に、敵兵であるディアッカが現れる。そのディアッカに侮辱される。ミリアリアはナイフを手にしてやり場のない怒りと憎しみ、悲しみを敵兵という目に見える存在にぶつける。このシーンで伝えたいことは、「ミリアリアのような普通の女の子でも、怒りと憎しみを抱き、人を殺そうとするということ」。それは、誰もがこうなるのだということだ。


ここでの出来事は、憎しみの連鎖と戦争の始まりなのだ。これが連鎖していって、戦争へと発展してしまうのだから。ディアッカが虫ケラのように屠ってきた裏では、ミリアリアのような存在を多く生み出していたのだ。


ミリアリア「何で…トールが、トールがいないのに、何で…」


以前、フレイの気持ちがわかると言っていたミリアリアだったが、実はわかっていなかったということもここでわかる。ここでそれを突きつけられた格好だ。大事な人を失った悲しみや悼みは、その人本人にしかわからない。それを分かるというのは、傲慢でしかないのだ。



ガチャリ。


ディアッカ「!」


伝染したか、フレイが銃をディアッカに向ける。

ディアッカ「………」

さすがに銃はよけられない。いくらコーディネイターであっても。


銃を手にするフレイの顔もまた、憎しみを宿していた。


フレイ「コーディネイターなんて、みんな死んじゃえばいいのよ!!」


ミリアリア「!」


フレイの発言を聞いた瞬間、ミリアリアはハッとする。そして、急いでフレイの元へ駆け出し、銃を持つフレイの手を弾き、飛びつく。

銃弾は逸れ、ディアッカには当たらなかった。




ー違う!ー


フレイ「何するのよ。何で邪魔するの!?自分だって殺そうとしてたじゃない。あんただって憎いんでしょ!?コイツが!」


ミリアリアはかぶりを振る。


フレイ「トールを殺した、コーディネイターが!」


ミリアリアもディアッカを殺そうとしていた。なのに、今度は助けている。フレイがこう言うのも当然である。


フレイ「何よ。あんただって同じじゃない。あんただって、私と同じじゃない!」

ミリアリア「違う。違う…私、違う!」

フレイは、本当はキラを失って悲しいのだ。だから、ディアッカに銃を向けた。だが、それを認めることが出来ない。キラを失って悲しいはずなのにそれを認められないから、コーディネイターへの怒りと憎しみにすり替わってしまっているのだ。


コーディネイターが憎いというのならば、キラは?キラだってコーディネイターである。フレイはキラも憎いと言うのだろうか?そして、いなくなればいい?そう思っているのか?


みんな死んじゃえばいい。それを聞いた瞬間、ミリアリアはフレイに飛びついた。フレイの表情と姿を見て気がついたからだ。ディアッカを殺してもトールは戻らないし、戦いは終わらないことを。こんなことをしてはいけないと。


一度は殺そうとした。目に見える敵兵だったから、そこにぶつけた。敵兵とコーディネイター。全て一括りにしてしまっていた。そこへフレイの「コーディネイター何てみんな死んじゃえばいい!」という言葉が炸裂する。この時の自分とフレイを重ねた。それではフレイと同じになってしまう。トールやキラの死に対する悲しみや憎しみをコーディネイター全てへの憎しみにすり替えてしまうのは違う、間違っている。


コーディネイター全てが憎いと認めたら、キラも憎いことになってしまうから。コーディネイター全て死んじゃえばいい何て言ったら、キラも死んじゃえばいいということになってしまうから。


コーディネイターでもキラはキラだ。一括りにしてはいけない。そして、この目の前にいる敵兵も自分たちと同じ赤い血を流している。それは同じ人間だということ。その同じ人間同士が戦い、傷つけ、殺し、滅ぶ。


フレイはそれを望んでキラに近づいたが、ミリアリアはそんなこと望んでいない。


父を失った憎しみから人が変わり、それをキラにぶつけ、利用し、傷つけたフレイと、自分を取り戻し、留まったミリアリア。


悲しみや憎しみをぶつけたという点は同じだが、そのあとの行動が違う。ミリアリアは憎しみの連鎖を断ち切った。だから、二人は同じとは言えない。


殺そうとしておきながら守った。それはたった一瞬ではあるが、ミリアリアの根は優しい心を持っているということ。



続く。



独房へと入れられたディアッカ。そこへ向かうミリアリア。二人の柵越しの交流が始まる。