昼を回ったころ、手元に電話がかかってきた。

 

担当の看護師だった。

 

手術が終わったので、先生から説明のため打ち合わせ室に来てくださいとのことだった。

 

 

2人でいっぱいくらいの小さな打ち合わせ室に通され、待っていると手術着を着たままの先生が現れた。

 

先生はすぐにパソコンを操作し、画像などの準備をはじめた。

 

 

「まず、手術はうまくいきました」

 

緊張はまだほどけなかった。

 

「予定通り胃を全摘しました。さらに脾臓とリンパ節をとっています。

 

再発を最大限防ぐために取れるものはなるべく取りました。」

 

そう言いながら、取った胃の画像を見せてくれた。

 

胃を広げて、まち針のようなもので留めてある。

 

ひだが幾十にも折り重なり、明らかに異様な態様だった。

 

 

「ここ、がんが、砂に水が染み込むように、広がっています」

 

医師のこの説明を聞くのは2度目だ。

 

前にこの説明を聞いた時、私の方から聞いた。

 

「それはいわゆるスキルス胃がんというものですか?」

 

その時の先生は、あえて妻の手前、スキルスという言葉を使わずに説明していたように見えた。

 

患者のショックをやわらげるためか、医学の用語として使わないポリシーなのかは読めなかった。

 

せっかくショックをやわらげるためだったのに、私がスキルスという言葉を持ち出してしまったのかもしれない。

 

 

「一般的にはそう言えるものです。」

 

その時妻はやはり少しショックを受けたような顔をしていた。

 

 

 

とりあえず現時点で取れるものは取ったということだった。

 

本当に取れたと信じて、祈るしかない。

 

その後も手術の説明をひとしきり聞いた。

 

「このあと、奥様が病室に戻られるので、顔を見てあげてください」

 

そう言われ、再び手術室の前で待った。