あれから一週間がたった。村の壊滅はそれ以降、ピタッと止んだ。
ケガをした4人はもう治り、クミさんとソーラさんも歩けるようになった。ウィッチの亜種が持っていた回復ポーションを、バステンさんが分析したおかげで、早期治療ができたのだ。今後は煙幕・炎・フェロモンの分析も進めるという。うまくいけば、回復ポーションを量産できるようになるそうだ。
今日は回復祝いと、世界の安全と平和を取り戻した(これマジで言っていた)ということで、畑の真ん中で宴会をすることになった。ちなみに酒はでない。
あちゃみさんとソーラさんが料理をして、アイクさんとわとさんが会場の準備をするそうで、俺の出番はなかった。なので屋根へとのぼり、一人で景色を眺めていた。
とてもいい天気で、遠くまで見渡せた。ぼんやりと海が広がっている。ふと、あの海の向こうにはなにが広がっているのか気になった。
この世界にはネザーのように、まだまだ俺の知らないモノが数え切れないほどあるのだろう。いつかそこへ行くことがあるのだろうか。
そんなことを思っていると、背後から声が聞こえた。
「なにしてるの」
振り返ると、クミさんがいた。なんでここにいるのだろうか。
「ただ景色を見ているだけです」
そう答えると、クミさんは隣に来て座った。
「…急にどこかへ行ったりしないで」
体がビクつきそうになった。この人も超能力者なのか?俺はすぐに質問した。
「一体どうしたんですか」
「ただ、なんとなく。あなたが突然消えてしまうかもって、思ったから」
その答えは冗談とは思えなかった(そもそも冗談言わないケド)。声が不安と寂しさを帯びているのが、かすかに感じられた。
「もしかして、屋根に上がっていたからですか」
「そうかもしれない」
表情もいつもどおりだったが、どこか寂しそうに見えてしまった。俺の勝手な気のせいだといいんだけど。
少し間があいてから、クミさんは言った。
「ソーラのことは好きなの」
想いっきり直球で来た。今は姉だが、かつて好きだった人にこんなことを聞かれるのは、ちょっと複雑だ。
「…わかりづらいかもしれませんが、恋人とか、好きとかそういう感情ではなく、もっと別の何かがあります」
「わかりづらい」
手加減なしの返答だった。一言で言い表せたなら、どんなに楽だろうか。
「でも、大切に思っていることは、間違いない」クミさんは続けた。
「そのとおりです」
そう言ったとき、パッとひらめいた。本のなかにいい例えがあったじゃないか。
「友達以上、恋人未満、だったらわかりますか」
一文を思い切りパクッたが、これで理解されるならいいと思った。クミさんは言った。
「わかりづらい」
結局、本(の一部分)も勝てなかった。
「そういえば」突然クミさんが話題を変えた。
「なんですか」
「あなた、あの時ともさんに、私を背負うことを無理やり進めたよね」
段々と声に力が入っていることがわかった。まだ根に持っていたのだ。この展開はちょっとまずい。
「そ、それは…」
「…どういうつもり」
瞬時に目が切れ味を帯びた。殺気も周囲を覆い始める。
命の危険を感じて、俺は全力で逃げ出した。
と「首大丈夫?」
「なんともないですが、頭がぼんやりとしています」
鳥「クミさん、手加減なしだからww」
ク「絞め落としてはいない」
ソ「そういうことじゃないってww」
あの後玄関を出て、畑に足を踏み入れたとたんに捕まり、首を絞められた。意識が飛びそうになる手前まで思いっきりやられた。腕が離れてからしばらくは、ずっと朦朧としていたが、今は少しマシだ。
「まあ、玄関出て畑の手前まで行ったので、その分成長したんじゃないかと」
わ「逃げのびることが成長してどうすんのww」
ア「本来の目的と逆じゃんww」
「逃げる事だって時には大切です。そうですよね、クミさん」
ク「次そうしたら覚悟しなさい」
「…」
そういわなかったっけ。あれ、あちゃみさんだっけ?いずれにしても、俺は一線を越えてしまった。
あ「まあ、こうしてまたみんなでワイワイできるってことでいいじゃん」
s「そうそう。それもこれも、ムサシ君の活躍があってこそだ」
バ「けっこう貢献度は大きい。おかげでポーションが作れるようになったからね。本当にありがたい」
褒めちぎられるのは嬉しかったが、なにしろ事態がアレなので、うまく笑えなかった。
ク「笑って」
思わず耳を疑った。そんなフレーズを言うのは初めて聞いたのだ。
「で、でも」
ソ「クミさんの言うとおりだよ。いつものように笑って」
ク「主役が笑わないと、はじまらない」
普段のクールさが少し消えた、優しい声だった。こんな声をクミさんが発するとは思ってもみなかった。
ちょうどソーラさんは隣に座っていて、安心させるためなのか近づいた。腕が触れ合って、少し照れた。それと同時に自然に笑った。
ク「それでよし」
また同じ声だった。今日はいったいどうしたのか。
と「クミさん、ムサシ君をかまいたかったんじゃないのww」
s「唯一の年下ですからねww」
2人がそう言うと、クミさんは少し下を向いた。照れたな、とわかった。
左隣のわとさんが言った。
わ「たいへんだね。狙われてw」
「大丈夫です。つぎ狙われたら、わとさんを盾にします」
わ「いやいや、俺を巻き込まないでwww」
それからみんな(クミさん以外)爆笑した。最高の雰囲気のまま、宴会はスタートした。
しばらくの間飲み食いをし、談笑した後、俺は森の手前までいった。あのとき4頭が立っていたあたりをずっと見ながら、彼らとの思い出に浸っていた。
ソ「どうしたの」
後ろからソーラさんが来て、声をかけた。気にかけているのだろうか。
「彼ら―ルークたちとの思い出に浸っていただけです」
ソ「さびしい?」
「いえ、もうさびしくないです」
そう答えると、ゆっくりと肯いてくれた。その時、あることを思い出した。
「そうだ」
俺はポケットに手をいれ、ハンカチを取り出した。
ソ「それ、もうやぶけて使えないね。捨てようか」
「いえ、これをもらってもいいですか」
ソ「え?なんで」
それからありのままの想いを言った。
「このおかげで、最後に決着をつけることができました。もしソーラさんがよければ、これをお守りにしてずっと身につけていたいです」
すべて伝えると、ソーラさんはにっこりと笑った。
ソ「ほしいならあげるよ。でもそのまえに…」
その前?なにかお守りにするための神聖な儀式でもやるのか。そこまでしてもらわなくていいんだけどな…。
そう思った直後、首元に2本の腕がまわった。それから少し遅れて、ソーラさんが顔を目の前まで近づけた。唇にまた、何かが触れていた。
また…俺はキスされた。しかも前回より長く。頬は赤くなって、とても熱かった。段々と積極性が増しているのではと思った。
しばらくして、唇は離れた。それに追従するように、腕も離れていった。体は魔法にかかったように硬直していた。それを待っていたかのように、ソーラさんは俺の手からハンカチを奪い、こう言った。
ソ「ほしかったら、私からとってみせて」
そして畑の真ん中へと走っていった。
「…え?ちょっと…ソーラさん!」
時間がかかったが、なんとか体は動くようになった。俺は追いつくために走り出した。向こうはもう真ん中を越えているが、追いつけない距離ではない。
駆け出してともさん達の間を抜け、真ん中を越えた。そしてあと少しで追いつく距離までつめたが、不意にソーラさんが叫んだ。
「みんな!ムサシ君がいじめてくるーwww」
は、はあ?なにを言っているんだ!?
切実にみせかけた助けを聞いて、後ろから声が追ってくるように聞こえた。
あ「あ!ムサシ君サイテーww」
と「これはまずい!みんなでつかまえようwww」
なんでそうなるの!?
それからともさんを筆頭に、クミさん以外の全員が走って追ってきた。クミさんは優雅にお茶を飲んでいたので、ある意味助かった。だが状況は混乱するばかりで、収めようがなかった。
「なんで追ってくるんですか!」
わ「だって追い回してるしwww」
ア「あきらかにいじめてるじゃないかwww」
「ちがいます!これは…」
ソ「たすけてーwww」
バ「これのどこが違うんだwww!!」
すでに笑っている時点で違っているでしょうが!!
s「とまれムサシ君www」
あ「女子に手を出すなんてヒドイwww」
「いや、これには事情が」
鳥「問答無用www」
と「つかまえて成敗してやるwww!!」
「そんなあぁwww」
結局追いつくのも、捕まることもできないので、間を走り続けた。
いつのまにか笑っていた。そしてみんな楽しんでいた。
最後は全員が疲れて走れなくなり、宴会場まで来てから、その場に座り込んだ。俺は仰向けに転がって、空を見上げた。太陽はまだてっぺんまで来ていない。雲ひとつない青空で、あの時の星空と同じく、吸い込まれてしまいそうなほど、美しい水色だった。風もちょうどいい感じに吹いていて、気持ちいい。
そう感じていると、視界にソーラさんが映りこんできた。
ソ「これ、ごほうび」
手を伸ばして、ハンカチを差し出した。受け取ってから俺は上半身を起こした。
「結局そうするなら、走らなくてもよかったじゃないですか」
ソ「でも楽しかったでしょ」
「ま、まあ、追いかけられたときは特に―」
そう言ってからともさん達とのやり取りを思い出すと、おかしかった。そのまま声に出して笑った。ソーラさんも、ともさんも、あちゃみさん、わとさん、バステンさん、showさん、アイクさん、鳥さんも、そしてなんとクミさんも控えめだが笑っていた。
心地よい風があたりを優しくつつみ、それになびいた麦がこすれる音を立てた。一緒に笑っているみたいだった。
ふと気付くと、風の中から、どこか懐かしい男女の笑い声がかすかに聞こえた。聞き覚えがあるように感じた。
それはまるで、父と母のようだった。
―完―