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ノアの方舟 ジュール・シュペルヴィエル
宿題のインクを乾かそうとして、大洪水前の時代の一人の少女が、自分の吸取紙のびっしょり濡れているのに気がついた。生まれつきいつでも喉が渇いている筈のこの紙が、どうしたわけか水を吹き出しているのだ!少女は(とびきりよく出来る生徒だったが)吸取紙がきっと何か不思議な病気にかかったのだろうと考えた。彼女は貧乏で、吸取紙をもう一枚買うことができなかったから、その桃色の紙を日なたで乾かそうとした。ところが吸取紙はいつまでたっても、その憂鬱な水気を追い払うことが出来なかった。それに宿題のインクの方も、一向に乾こうとしないのだ!
そこでこの少女は、何とも意味のなさそうなこんな奇蹟が自分に起きたのを恥ずかしがりながら、吸取紙を片手に持ち、言うことをきかない頁を開いたままの帳面をもう一方の手に持って、胸をふさいで先生の席へ行った。どうにも言いわけのしようがなかったのである。そして先生は、この可哀想な生徒が目の前で体じゅうそっくり涙になって消えてしまうのを見守るばかりだった。(続く)
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