他人の空 飯島耕一

鳥たちが帰って来た。
地の黒い割れ目をついばんだ。
見慣れない屋根の上を
上ったり下ったりした。
それは途方に暮れているように見えた。

空は石を食ったように頭をかかえている。
物思いにふけっている。
もう流れ出すこともなかったので、
血は空に
他人のようにめぐっている。

 (詩集「他人の空」より)



飯島耕一は、戦後の新詩人中、最も実力のある一人として、戦後世代の社会的人生的体験を豊かなイメージで造型している。「他人の空」は、戦争が終わり平和が戻って来た時、一人の青年が見た空の印象を表現したもの。空はまだ自分たちの空としての実感を持つことができず、どこか空虚なのだ。放心の表情で空を見上げている若い詩人の姿が、この詩からは浮かんでこよう。
          (小海永二「日本の名詩」から)