母の聲 堀口大学

   母は四つの僕を残して世を去った。
    若く美しい母だったさうです。

母よ、
僕は尋ねる、
耳の奥に残るあなたの聲を、
あなたが世に在(あ)られた最後の日、
幼い僕を呼ばれたであらうその最後の聲を。

三半規管よ、
耳の奥に住む巻貝よ、
母のいまはの、その聲を返へせ。

 (詩集「雪国にて」より)