業の花びら  宮沢賢治

夜の湿気と風がさびしくいりまじり
松ややなぎの林はくろく
空には暗い業の花びらがいつぱいで
わたくしは神々の名を録したことから
はげしく寒くふるへている

ああたれか来てわたくしに言へ
「億の巨匠が並んでうまれ
 しかも互に相犯さない
 明るい世界はかならず来る」と
 ・・・遠くでさぎが鳴いている
   夜どうし赤い眼を燃して
    つめたい沼に立ち通すのか・・・

松並木から雫(しずく)が降り
空のどこかを
風がごうごう吹いている
わづかのさびしい星群が
雲から洗ひおとされて
その偶然な二っつが
黄いろな芒(のぎ)で結んだり
残りの巨(おお)きな草穂の影が
ぼんやり雲にうつったりする