おまえは消える シュペルヴィエル

おまえは消える、もうおまえは霧に満ちて
人は夕暮れを渡るようにおまえを漕ぎ寄せる、
おまえをついやす歳月の中に ただ一人おまえは残り
最後の希望の乏しさを胸にかかえる。

おまえの足を置くところ 昔の愛の
衰えかかる吐息に枯葉が舞う、
月がおまえのあとを追い おまえの最後の力を捉え
いまわの日のためにおまえを限りなく蒼く染める。

しかし おまえの素直な悲しみの裏に 見えるのだ
残された僅かばかりのいのちがすべて湧き上がるのが
時折ひとつの跳躍がおまえを高め おまえを照らし
おまえの夜の中に輝きの梟(ふくろう)を生み出すのだ。

  「シュペルヴィエル詩集」(安藤元雄 / 訳)
             (1939ー1945の詩)