いのちの残り シュペルヴィエル

木立の上には
夜がほしい、
大理石のテーブルには
くだものがほしい、
血がたぎるためには
闇がほしい、
真っ赤な心には
純粋がほしい、
白いページには
日ざしがほしい、
沈黙の底には
愛がほしい、
飲物を求める
誇りのない魂、
日ごとに痩せほそる
いのちの糸、
日ごとにふさぐ心、
それをつまむ歳月。
僕らのほか 誰にも
井戸車の軋(きし)りが聞こえない、
それほどに桶(おけ)は重い。


 (詩集「夜に捧ぐ」安藤元雄訳/より)