ヨーロッパ中世社会は、貴族・聖職者・市民・農民などの身分の区別がありました。

ところが、このような身分を構成しえない人びとがいたのです。奴隷は不自由身分として古代からいましたが、中世(
12,13世紀以降)には別種の不自由民が生まれてきました。

特定の職業に従事する人びとが、恐れられながら、賤視されたのです。賤視というのは蔑視(べっし)とは違っていて、恐れの気持ちがはいっています。賎民(せんみん)は一般の人びとと結婚できず、いっさいの接触は許されません。


賎民は死んでも仲間の賎民以外は棺を担ぐものがいないのです。町の居酒屋への出入りも禁じられ、教会の中でも同じキリスト教徒なのに、特別な席に座らされ、死んでも教会の墓地の中に葬ってもらえないのです。彼らとすれちがうと人びとは目をそむけ、いっさいの接触を絶とうとするのです。


     


(賎民の仕事)
死刑執行人、捕吏、墓掘り人、塔守、夜警、浴場主、外科医、理髪師、森番、木の根売り、亜麻布織工、粉挽き、娼婦、皮はぎ、犬皮鞣(なめし)工、家畜を去勢する人、道路清掃人、煙突掃除人、陶工、煉瓦工、乞食と乞食取締り、遍歴芸人、遍歴楽師、英雄叙事詩の歌手、収税吏、ジプシー

(阿部謹也「自分のなかに歴史を読む」 第5章 笛吹き男と
     の出会い より)