六十二のソネット  41  谷川俊太郎

空の青さをみつめていると
私に帰るところがあるような気がする
だが雲を通つてきた明るさは
もはや空へは帰つてゆかない

陽は絶えず豪華に捨てている
夜になつても私達は拾うのに忙しい
人はすべていやしい生れなので
樹のように豊かに休むことがない

窓があふれたものを切りとつている
私は宇宙以外の部屋を欲しない
そのため私は人と不和になる

在ることは空間や時間を傷つけることだ
そして痛みがむしろ私を責める
私が去ると私の健康が戻つてくるだろう

 (詩集「六十二のソネット」より)