一月 西脇順三郎
坊主の季節が来た
水仙の香りを発見したのは
どこの坊主か。
美しいものは裸の女神よりも
裸の樹の曲り方だ。
黒い土に結ぶ水晶と根の季節だ。
黄色い竹藪から手を出して
つる草の実の宝石を取る男がいる。
こわれた竪琴のような樫の木が
一本みどりの髪をたらしている。
淋しい春を奏でる蜂も女もいない
まだ人間は野ばらの中に
しやがんで考えているのだ。
甲州街道を 西脇順三郎
遠くへ下るとツクツクボウシが鳴き
がまずみの樹に紅の実がなつている
サビンの略奪かコリント風の石の家
見よここに木魚づくりの老人が住む
同居人の仏蘭西語の先生と私は鋭く
一日ーー茄子漬とウグイのさしみで
飲んだ棕梠酒に舌の根元がしびれた
(ともに詩集「近代の寓話」より)