眠りの誘ひ   立原道造

おやすみ やさしい顔した娘たち
おやすみ やはらかな黒い髪を編んで
おまへらの枕もとに胡桃色にともされた燭台のまはりは
快活な何かが宿つている(世界中にさらさらと粉の雪)

私はいつまでもうたつていてあげよう
私はいくら窓の外に さうして窓のうちに
それから 眠りのうちに おまへらの夢のおくに
それから くりかへしくりかへして うたつていてあげよう

ともしびのやうに
風のやうに 星のやうに
私の声はひとふしにあちらこちらと・・・

するとおまへは 林檎の白い花が咲き
ちひさな緑の実を結び それが快い速さで赤く熟れるのを
短い間に 眠りながら 見たりするであらう

  (詩集「暁と夕の詩」より)


「歌」をととのえるために、現代詩にのこされたほとんどただ一つの本然的な「歌」をうたうために、この詩人は短い生涯をついやしたのであった。もしも道造になんらかの方法論があったとすれば、それは音楽の状態にあこがれてということだったかもしれない。肉声のままに、音楽の状態のようにーー抒情のただ一つの形態として、この詩人は「歌」をあたえられたのである。           (伊藤信吉「現代詩の鑑賞」より)