季節の言葉   西脇順三郎

すべてを捨てて
野原をさまよう時
岩におぎようやよめなをつむ
女のせきがきこえる
夏の日にむらさきのなすびを
食つた人々の栄光も去り
くぬ木の葉をいだいて
昔の日をかなしむ
今日は新しい太陽のけしの花へ
草のもちと枯葉の酒をささげる
もやにまようひよどりのかげに
まがつた水車の言葉に
いろあせたあざみの衣に
しもにこごえる野ばらの実の
はてしない色に
人間の虚栄は消えさる
えびづるは王侯の夢のように
永遠にまがる
ああ狩人はいのししをとらえて
妻へもどつてくる
 
 (詩集「豊穣の女神」より)(過去ブログの再録です。)