すれ違った若い子が
「オオッシ!イケッ」と
鼻息荒くスマホを鼓舞している。
気のせいか
いつもより人通りが少ないのは
スウェーデン戦のせい?
遊歩道の紫陽花は
盛りを過ぎ、色褪せた。
梅雨明けを待たずに
市の剪定が入るだろう。
誰も見向きもしないけど
水色やピンクの平凡な品種の中に
ひと株だけ
濃いワインレッドの花があって
わたしはひそかに
人通りが途絶えるこんなチャンスを
狙っていたのだ。
怪しく忍ばせた花切狭で
ワインレッドの花ではなくて
花のついていない枝を
サクッと切り取る。
二、三本のつもりが、目移りして
五本ももらっちゃった。
花盗人。
家に帰り
もう一度じゃぶじゃぶ水切りして
大きな葉を落とした。
ベランダのプランターに
ふかふかの土を敷き詰め
そうっと五本の枝を差す。
根付くといいなあ。
リビングのTVから歓声が上がる。
点、入ったか?
そうそう、例の
友人エカテリーナの息子さんたち
二人ともサッカー選手なのよ。
ヨーロッパで活躍中。
で、彼女は今、フランスにいる。
いろんな人生があるもんだ。
だけど
わたしの身の丈にあった生活は
こんなもんだ。
これでいいのだ。
泥のついた手を洗い
ちょっと日本チームを応援し
同点に追い付かれたところで
スイッチを切り
それから
マルティヌーとバッハをさらった。
